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一週遅れの映画評:『チケット・トゥ・パラダイス』劇・薬・注・意(個人的に)。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『チケット・トゥ・パラダイス』です。

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 これはね、劇薬ですよ。特に私にとっては。
 
 主人公たちは19年前に離婚した現在45歳の男女なんですけど、彼らの間にはひとり娘がいる。この娘は司法試験に合格して今年大学院を卒業、弁護士事務所に就職が決定している才女なんですね。それで卒業旅行にバリ島で1ヶ月ぐらいバカンスに行ったところで運命の出会いをしてしまう
 そして両親の元にメールが届くんですよ、「私はバリ島で出会った、海藻の養殖をしている男性と結婚して、ここで暮らします。弁護士になるのは辞めました」って。それを受け取った両親は「「おいおいおいおい、ちょっと待てぃ」」って感じで、娘を説得しに二人でバリ島に向かう……という導入なんですね。
 で、この主人公である両親がメタクソに仲が悪いっていうw顔を合わせればお互いに皮肉と当てこすりを繰り出しまくる、って間柄で。だけど娘の若気の至りを阻止するためには、協力せざるえない。
 
 ただこの主人公たちも片方が大学院に進学/片方が就職するってタイミングでプロポーズしていて、そこで親の反対を押し切って結婚しているって過去がある。だからやってることは一緒というか、ゆえに「この結婚が上手くいくわけないじゃん」って感じで反対している。
 
 で、最終的にどうなるか?って言うと、娘の結婚を認めた上で、主人公たちもよりを戻してバリ島に移住するっていうwめちゃくちゃだ、めちゃくちゃ! なんじゃそれ、って感じではあるんですけど。
 
 だけどね、普通の人間関係で「顔を合わせればお互いに皮肉と当てこすりを繰り出しまくる」って、まぁまず無いわけですよ。普通はそんなことをしていたら、あっという間にそのコミュニケーションは致命的な崩壊をすることになる。だからねぇ、コイツらはお互いに甘えとるんですわ! どんな悪態をついても関係を維持してくれる相手として、ある種の信頼を持って攻撃している。
そういった点において間違いなく強烈な理解者であり、安心できる相手でもあるんですよね。

 実際のところ娘と結婚相手がこの後も末永く幸せであるとは、正直視聴者としても思えない。この二人が若さと恋の熱にやられているのは間違いなくて、先々で決して幸福ではない終わりを迎える予兆はめちゃくちゃあるんです。
 けれどこの作品で繰り返されるテーマに「楽しみを先延ばしにする必要は無い」っていうのがあって。主人公たちも結婚してすぐ、すごい環境の良い土地をたまたま見つけ、そこで「将来はこの土地を買って家を建てたいね」って話をしてた。だけどそこで「楽しみを先延ばしにする必要ってあるの?」と言い出して、土地の購入に踏み切る。
 結果、そのローンを返済するために仕事に打ち込んだ男との間にすれ違いが生じて離婚することになるんですが。
 
 ていうかその時のことを思い出しながら元夫婦で話すシーンが、すげぇムカつくのよ~。あのね、男の方は「そうやって仕事のことだけ考えてて、家庭を蔑ろにしてた」って反省する。一方で女は「母親という役目に縛られて、自分が無くなってしまうようで怖かった」みてぇなことを言うわけですよ。
 いやこれって男は「家族のために頑張ったけど、頑張り方を間違えた」って自己犠牲の話なのに、女は「自分の我儘で崩壊させた」ってことを言ってるわけじゃない? なんか「お互いに悪いところはあったよね」みたいに見せたいっぽいんだけど、圧倒時に女の方が「バカで自分勝手」みたいな感じになってんじゃん! なんだてめぇコノ野郎、悪いのは女の方ばかりってか!? 女は我儘で愚かな生き物って言ってんなぁ! おおん!? っていう憤りが私は隠せないのですけどw
 
 それでまぁ、結果的に娘の結婚を認めることになる。それで主人公たちは島から去る船に乗って、そこで「いい場所だった、いつかこの島で暮らした」って男が言ったところに、女が「楽しみを先延ばしにする必要はあるの?」って言う。
 そこで二人は手を繋いで船から海にダイブ! そうやってバリ島で生きていくことにしました! で終わるんですよね。
 
 なんというか「楽しみを先延ばしにする必要は無い」ってのと「刹那主義」って違うような気がするんですが、この作品ではそれがゴッチャになってる。いまやりたいことを、いま正しいことをやろう! って思想は嫌いではないんですけど、この主人公たちは明らかにそれで痛い目に合ってきて、彼らの子供も同じ性質の血を完全に持っている。
 だから娘の結婚もたぶんそのうち崩壊するだろうし、バリ島に移住した主人公たちも絶対すぐイヤになっちゃうことはわかりきっているんですよね。
 
 ただまぁ、そこには「別に失敗してもいーじゃん♪」みたいな明るさがあるので、「ん、まぁ君らがいいんなら、別にいいけど……」という感想になる。なんか自分とは全然関係ない出来事を見て、世の中には色んな生き方があるよね! と変に納得させられる作品でした。
たぶんね、作中で映し出されるバリ島の風景がすっごいキレイで。それで妙に説得力が増してるところはあると思う。映像のパワーに押し切られたせいで、内容とは別に「それなりに良い映画をみた」気分にはさせられましたね。
 
 ただ、そのー、このツイキャスでは何度もこすってる話なんですけど。私はバツイチで、元旦那にめちゃくちゃ未練がある。未練はあるけど、絶対に上手くいかない自信があるから、どうまかり間違っても復縁は無い(というか向こうにしてみりゃ、はなから「は? あるわけねぇだろ」って感じだと思うんだけどね)。
 そう思ってる人間にとって、こう、なんか色々と邪な想いを喚起させる部分が多々あって……これは劇薬ですよ。うん、少なくとも生半可な構えでぶつかったら危なかった。ふぅ、一歩間違ったらとんでもないことしでかしそうだったぜ。

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 次回は……うあ~~~~めんどくせぇけど、避けて通れないよなぁ~~~~、ってことで『すずめの戸締り』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの20分ぐらいからです。


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