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一週遅れの映画評:『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』キャラメルポップコーンは、おいしい。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『99.9-刑事専門弁護士-THE MOVIE』です。

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 見ているあいだ、別に退屈だったわけじゃあないんですよ。ちゃんと面白く見れてた、ただそれだけに「嫌だなぁ」って気分にはなって
 
 そもそも刑事事件の有罪率が99.9%(本当は違うんだけど)って何を意味するかっていうと、日本の警察/検察/司法がどれだけ優秀かってことだと思うんですよね。そこに色んな問題が多々あることはちょちょっとググれば出てくるんですけど、それでも根本的には起訴に至るまでにかかる労力とかを考えれば相当に警察と検察が優秀だってことは簡単に想像できるじゃあないですか。
 
 例えば、そうねある場所で殺人事件が起こりました。その現場から数メートの場所に人が隠れれそうな大岩があります、その岩の影に缶コーヒーの空き缶が捨ててあって中にはタバコの吸い殻が数本入っています。それを警察が捜査する中で見落とすことってあると思う?
それがねぇあるんですよ……この『99.9 刑事専門弁護士 THE MOVIE』の中では!バッカじゃねぇの???あのさぁ……わかるよ、お話としては「無能な司法機関に対して格好良く無罪を勝ち取る弁護士!」って図式を作りたいのはさ。でもあんまりにもやってることがお粗末で、かなりのバカがウルトラバカに勝利してるのを見せられても……ねぇ、みたいな。

 それでもエンターテイメントとして退屈しないような感じにはなってるんですよ、ごはん食いながら片手間にテレビで見てるぶんには十分なくらいの。でね、こう私は人間に「丁度よく傷つきたい」って願望があると思っていて、こういう裁判モノとかだと特に判明する事実がちょっと苦しいものだったりすることってよくあるじゃない。「この真実は知らない方が幸せだったのかもしれない……」みたいなちょっとビターエンドするやつが、その塩梅がい~い感じにぬるくてwほらもう最近のサブカルは「なにこの地獄みたいな展開……」みたいのでバズって広まろうとしてるから、だいぶ激痛ジャンキーみたいになっちゃってるけど、やっぱこうメインストリームを行こうと思ったらこのぐらいじゃあないとね!って温度のつらさがお出しされる。
 それでしんみりした顔して映画みながらキャラメルポップコーンをモリモリ食えるぐらいの、もう事件解決したから残り時間少ないし食べきっちゃわないとみたいな計算してるから手が音速で口にキャラメルポップコーンを運び続ける感じでwそういうところは良かったですよ……いや本当に!ほらもう正月からあんま重いの見たくねぇじゃん。私これ1月3日に見てんだから、このぐらいでいいいのよ、本当だよ?
 
 ただねこう「隠されてた事実」みたいのが明らかになっていく過程って、表面上は統合性のあるものが精査していくと「あれあれあれ?」ってほころびが見えてきて。それを解きほぐしていくとそれまで無関係と思っていた(あるいは問題無いと思っていた)ことが意外な側面を持って繋がっていく。そして最後には驚きの真実が判明する!みたいな構造じゃあないですか。
 特にこの『99.9』では国家権力に対して小さな市井の弁護士って図式が作られていて。その大きな権力によって見過ごされている部分を発見し、逆転していくヒロイズムみたいなものがたっぷりと描かれているわけですよね。
 
 あの、これってめちゃくちゃ「陰謀論」の作り方ですよね……みんなが正しいと思ってるものがフェイクで、小さな自分たちこそが真実を発見できるんだ!しかも相手はウルトラバカで、こっちは「ビシィッ!」とそこに事実を叩きつけれるヒーローだ!っていうこの心地よさと、「この真実はつらすぎるぜ……」と丁度良く悦に入れる適度なつらさ
 なにより物事には常に裏事情があって誰かがそれを覆い隠すフェイクを作り上げている、そしてそのフェイクを取り除くと見えてくる真実は理路整然としている……という簡潔で明瞭な世界観。どっからどう見てもこの映画、「陰謀論にハマる人にはたまらない」お話になっているんですよ。
 
 それがねぇ「嫌だなぁ」って。さっき言ったようにこの作品テレビドラマ2クール+ドラマSPを経ての劇場版っていう、いまの日本でやる中でド真ん中のメインストリームなんですよ。それがこんなに陰謀論者にとって気持ちい良い作品なのって、まぁ私は「嫌だなぁ」って思うんです。別にストレスなく退屈せずに2時間画面を見ていられるぐらい飲み込み易いかたちで出てきてることも含めて。
 
 一応ね作品のヒロインみたいな子がとある弁護士漫画のファンで事あるごとにそのセリフを引用したり、「ビシィッ!」を効果音を声に出して指を突き付けるとかやるんですよ。そこに「でもこの作品はフィクションですよ」って意思表示と照れ隠しみたいのがチラホラ見えるから、作り手側はちゃんと「陰謀論はやっぱフィクションの範疇ですよね」って姿勢なのは伝わってきたんだけど。
 
 でもそれが伝わらない人たちが一番怖いじゃん?

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 次回は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの18分ぐらいからです。


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