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一週遅れの映画評:『タング TANG』親子から逃げてんじゃねぇよ……。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『タング TANG』です。

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 たぶんこれは私の気の所為ではないと思うんですけど、この『タング』1年か少なくとも半年以上前から頻繫に上映前の予告でかかってたんですよ。実際、嵐の二宮主演で大人にも子供にもアピールできる”すこしふしぎ”系のSFものって、まぁかなりの勝算があるタイトルではあるわけで……「今年のお盆映画はこれでガッポガッポじゃい、ぐわははは!」みたいな邦画界の期待が多分にかかっていた作品だと思っていたし、私も結構楽しみにしてたのね……。

 ってテンションでおわかりいたただけると思うんですが、『タング』見ながら「つ、つまんね〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」ってシアターの椅子の上で唖然としてました。いやぁこれはキツいわ。

 主人公は医学部を卒業して研修医をしてるときに、たまたま自分の父親が急患として運び込まれてきて。その処置に迷ったあげく何も手出しできなくなってしまったというトラウマがあって、それが元で研修医をやめてニート生活してんのね。ちなみに結婚してる相手が若手のやり手弁護士だから生活は全然余裕だったりする。
 その主人公がある日、見た目がオンボロのロボットと出会うわけですよね、それが「タング」で。そいつと理由があってドタバタ珍道中をするうちに関係性が強化されて、さらにはそのタングには秘密があってそれを知る組織が誘拐しようとしてくる。まぁよくあるストーリーラインですわな

 でさぁ、今はスマホのAIが喋って掃除機が自走する時代ですよ。少し会話ができたり、ある程度の自律行動ができるのだって不思議ではない。特にこの作品は家事アンドロイドがかなり普及してる近未来設定なんですよ。だから「ああなるほどね、これはこのタングに”人格はあるのか?”って話になるんだろうな。まぁまぁ手垢はついてるけどロボットものとして手堅いし、最近は『アイ歌』とかもあったもんね。CGとしてはめっちゃくちゃレベルが高いので、そこでタングの実在感が増してるから、そういった問題として真に迫るものが見られるかもなぁ」と思ってたんです。
 したらさ。なんかロボット開発の博士が「この子には心があるわ」とか言い出して、その問題は前半で終わるの。いやおいバカ、そんなこと断言されたら「タングに親愛を感じるのは正しいのか?」とか「コイツを救うことにどれだけの意味があるのか?」ってジレンマが速攻で吹っ飛ぶじゃん! しかもその心を獲得する過程が、兵器用の調整のため戦闘用ボディにAIが入ったチップを搭載して実銃を撃たせていたら……いやまぁ「AIの調整に実弾撃たせる訓練をしてる」ってのも大概意味がわからんのだけど、そこでこのタングが「怯えだした」ことで「コイツは心を獲得した!」ってなるんですけど。なんというか「ワ〜ォ、反戦左翼っぺぇなぁ。心があれば戦争なんてできないぜ! ですか」っていう感じでw
 しかもタングは怯えた結果、一緒に射撃テストしてる他のロボットをガンガン破壊していくっていう。それで「心があるけどそれゆえに暴走して」とかならわかるんだけど、全然そんな話はなくて「怖かったのね、可哀想に」みたいな感じで話が進んでいくのよ。ちょっと待てコラ、そこにお話としてオイシイ部分があるのを丸ごと捨ててるじゃん! なんだぁ? マグロのトロ部分を捨てていた江戸時代の寿司屋か?
 そうじゃなくてもタングの危険性は明らかなのに、作中では誰もそれに触れないのw主人公側は「心のあるカワイイ友人」として扱うだけだし、誘拐を画策している側もその倫理的弱点を一切突いてこないのよ。パワープレイが過ぎるって。

 それでね、タングと主人公はコミュニケーションを重ねていくことで、最初はポンコツだったタングも少しずつ不器用だけど役に立つようになっていく、一方でニートとして暮らしていた主人公もそうやって成長していくタングと一緒にいるうちに(いや、本当はAIだから成長じゃなくて「学習」って言いたいんだけどさ)「自分も変わらなきゃ」と思い始める。
 これってものすごく「親子」の暗喩なわけですよ。何も知らない子供を育てていくうちに、親もまた成長していくってよく見る図ではある……のだけど、ここでタングは主人公を「トモダチ」って言い続けるのね。でも友人関係として見るなら、一応は結婚もしている成人男性である主人公と自我が芽生えたばかりのタングっていう関係は違和感がすごくて、どう見ても親子をやりたい配置なわけですよ。
 前にアンパンマンの映画で話したこと(一週遅れの映画評:『それいけ!アンパンマン ふわふわフワリーと雲の国』あぁ、苦しみの痕跡よ。)があるけど「これどう見ても親子がやりたいのに、無理矢理”トモダチ”へすり替えてるよね?」って傾向、なんか最近あると思うんですよ。つまり親子関係の愛情をやりたいんだけど、いまの世間て毒親問題とかあって単純に「親子って素晴らしいよね」が通らなくなってる。一方で年齢差とか階級差を無視できる関係性の定義として「友情」ってまだ有効で、とくにSNSで相手の歳や属性を無視して関係を構築できる傾向はそれを後押ししてる。
 だから「親子」を委託するより「トモダチ」で括ったほうが安牌なんですよ。だがそういった安全な手に逃げる行為を、タローマンは許さない

 しかも! しかもですよ、最後には主人公の伴侶が実は妊娠してたって話になる。もう何重にも「なんそれ?」って感じで、なにその主人公によるプレ子育てで練習台にされたタングの不遇さとか、夫がニートで離婚寸前までいってるのに避妊してねぇのかよとか、だったら臆せず親子関係をやれよ感とか。

 なんていうか90年代後半ぐらいに「夏休み子供ドラマスペシャル」で2時間ドラマを3夜連続放映のうち、一番出来が悪かったお話。ぐらいのなんですよね、『タング』。普通に古くて面白くない。あと「武田鉄矢が悪人役でびっくり」も90年代末っぽいw

 唯一、唯一良かったのは、タングが研究所から抜け出して、しとしと小雨の降る夜の路地裏をとぼとぼ歩くシーン。ここだけはビジュアルの良さがハンパなくて、それが見れたのは唯一の収穫かな。でもそのために映画代払う価値ある? って聞かれたら「まぁそういうのがめちゃくちゃ好きなら(苦笑)」ってぐらいですね。

 私は『アイ歌』そんなに好きじゃないけど(一週遅れの映画評:『アイの歌声を聴かせて』不気味な者の声は消されて。)、同じ系統としてみるなら遥かに『タング』の方がダメです。迷ってるなら割と強めにオススメしないかな、たぶん半年後ぐらいに地上波でやりそうだし、それでも見る必要ないと思うけどね。

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 次回は『サバカン SABAKAN』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの18分ぐらいからです。


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