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一週遅れの映画評:『初恋』あなたの心、頂戴します!

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『初恋』です。

無題

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 今回の映画は『初恋』、監督が三池崇史で……その、私が「三池崇史」という名前を口にするときにはいつだって祈るような響きが混じってしまうんです。
 というのも三池崇史って決して打率が高くないというか、正直期待を裏切られるときって多いんですよね。それでも当たった時はマジで凄い、というかものすごく好きになってしまう作品を作って……例えば実写の『忍たま乱太郎』とか『ヤッターマン』とか、古いとこだと『岸和田少年愚連隊』……千原兄弟のやつ、血煙り純情篇だったかな?とか。
 本当に「三池か~、またハズレだったら嫌だなぁ……」みたいな気分で観始めて、終わった瞬間「すっげ……」って呟いちゃうようなものをギリギリ期待し続けてしまう頻度で出してくるっていう。だから「この監督ならハズレは無い!」って人よりも結果として視聴意欲は高くなっちゃというか、自分で見て確かめなければ度が高いって言うか……あ、一応言っときますけど実写『ジョジョ』も結構好きでしたよ、ええ。
 だからホント、スマホゲーのガチャみたいな。「SSR三池崇史来いッ来いッ……んだよR三池崇史かよっ!」っていう感じの。それだけにまた課金して10連引いちゃうような、そういう監督で。
 
 で、今回の『初恋』。これはもう完全にSSR三池崇史監督、過去最高って言っていいくらい良い。今年のナンバーワンになる可能性もあるくらい。
 
 そもそも三池崇史がヤクザもの撮れば最低保証ラインみたいなものは越えていて、例えば『テラフォーマーズ』なんかも『テラフォーマーズ』としてはどうかな?って出来だけど、主人公チームのブロマンスとして見れば結構見れる部分もあって、だからあれは敵がヤクザだったら面白かった可能性もあるんですけど、えーと、で『初恋』ではそのヤクザの抗争というか、身内から裏切り者が出てその策略とトラブルが合わさって中国マフィアとドンパチやることになのだけど、それがあくまでも補助線になってる。物語を動かす装置としてヤクザの抗争があって、メインはそこに望まないまま巻き込まれた一組の男女なんですよ。
 
 男はデビューしたてのボクサー、女は親の借金のカタに売られてシャブ漬けで体を売ってるって感じで、その二人がたまたま……まぁ女がシャブの幻覚から逃げてるところをたまたま男が助けちゃうんですけど。
 その女が組のシャブを大量に持ち逃げしたか、犯人を知ってるってんでヤクザから追いかけられることになって。ボクサーのほうは将来有望なんだけど「別に他人がどうなろうとどーでもいいし」っていう冷めた感じで、それが脳に腫瘍が見つかってボクサー生命どころか普通にもうすぐ死ぬって医者に言われてしまって、それで何だかわからないけど女を助けたくなっちゃってヤクザと中国マフィアの抗争に巻きこまれていくんですよ。
 
 それに加えてヤクザの下っ端のチンピラ、こいつが真っ先に殺されるんだけど、それの女だったベッキーね。いや役名で言うべきだとは思うんだけど名前覚えて無いっていうか、名前以外のインパクトが強すぎて記憶から飛んだからもうベッキーとしか言いようないんだわ。そのベッキーが復讐のために奔走、というかもう発狂レベルの大暴れをする。
 それに中国マフィアの女も、こいつも結構な武闘派でガンガン前線に出てくる。
 
 ヤクザたちのブロマンスとか因縁とか策略がある上を、この三人の女が駆け抜けていくのね。
 もうね、その姿が本当に良い。それぞれの立場や持っているもの/欲しいもの/失ったものが違う中で、それぞれに何かを守ったり取り戻したり復讐しようとする姿がね、めちゃくちゃ良いんですよ。
 
 ベッキーは失った男のために報われることのない復讐に走りまわって、どれだけ傷ついてもギラついた目で疾走するし、マフィア女は自分の中にある矜持に従うことをやめない。そしてシャブ女は最低まで落ちているんだけど、それでもそこから恋を知る事で何とか這い上がろうとする。
 そのね、誰もが取り返しのつかない傷を持っていて、それが絶対に癒えることは無いことを知りつつも自分が思う「前」に進もうとする態度が、本当に感動的で。
 
 でね、三池っていま3年、もう4年目入るのか。テレビで「ガールズ×ヒロインシリーズ」っていう、女児向けの特撮番組を日曜の朝9時、つまりプリキュアと完全にカチ合う時間に総監督ってポジションでやっていて。それがかなり人気あるんですよ。
 プリキュアの裏番組で女児向けやって人気がちゃんとある、ってものすごいことで。それがもう4年目に入ってる。今やってるの『ひみつ×戦士ファントミラージュ』ってので、時々「あ、面白い!」って回もあったりして。
 
 総監督、ってポジションでどこまで関わってるのかはわからないけど、この『初恋』での女たちの描き方に私は確かに「女児向け作品」の遺伝子を感じたんですよ!やってることとか、抱えた物語はさすがに子供に見せられないけど「堕ちても歯を食いしばって立ち上がる」「大事にしているもののために全てをかける」「自分の信念と正義に従う」っていうこの女たちのマインドは、確実に女児向けヒロインの行動原理を持っていると思うんです。
 
 だから『初恋』が面白かったのは『ミラクルちゅーんず!』(ガールズ×ヒロインシリーズ1作目)のおかげであり、ひいては女児向け作品の精神は表面を変えてあらゆる層に届くものなんです。だからアイカツとかプリキュアとかプリチャン好きなら『初恋』を見るべきで、逆に『初恋』が良かった!って人は女児向け作品を見てみたら良いと思いました。
 
 あとはまぁ、冒頭辺りにある無音のシーンと最後にある無音のシーンが対比されていて(「出ていけない部屋」と「自ら入っていく部屋」)、映画っていうパッケージとしてそういった視点や構図をきちんと織り込めるのは、やっぱなんだかんだ言って三池は映画が上手いなぁ、とか。
 最後らへんで水を浴びるだけで服についた血の汚れが完璧に落ちるのは「禊が済んで、これから新しい未来がはじまる」ことを予見させつつ、それでも何もかもリセットできるわけじゃあない感じも、すごく良かったです。
 
 ただ一つ心配なのは、5月に『ファントミラージュ』の劇場版が控えてるんですよね……この立て続けな感じと三池の打率を考えちゃうと……正直不安だよ!頼む、出てくれSSR三池崇史!

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この話をしたツイキャスはこちらの10分ぐらいからです。



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