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一週遅れの映画評:『悪魔がはらわたでいけにえで私』自分が死ぬ瞬間、私はたぶん爆笑してる。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『悪魔がはらわたでいけにえで私』です。

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 この映画、面白くないッス。申し訳ないけど、つまんないと思う。
 だけど、だけどね、私は何か妙に好きなんスよぉ! あのね、基本ホラーコメディなんだけどギャグが面白くないのよ。見ててわりと冷静に「あー、ここで笑わそうとしてるんだけど、これで笑える人ってほとんどいないだろうなぁ」って判断してる。してるんだけど、私がどうやらその「ほとんどいない」うちの一人らしい、と「んふふ」つって笑ってる自分を感じながら思ってるんですよね。
 
 あのですね、私は「笑い」ってものすごく個人的なものだと感じていて。たぶん「自分にとって最高の最高に面白いもの」は「世界中で自分しか面白くないもの」なんです。
 つまり思想とか性格とか、体調とか趣味とか、その場の空気とか育ってきた環境とか。それぞれの要素で自分と同じ(すごく近い)人間を探すのってそんなに難しくないじゃないですか。だけどその幾つかが組み合わさると一気に「自分と近い人」は減るし、どんどん条件を重ねていけばそのうち「自分ひとり」しか残らなくなる。
 それってある種の狂気でもあるわけですよ。最終的に「私」は誰とも何も共有できなくなるわけで、それはめちゃくちゃ異質な世界に住んでる生き物と何ら変わらないんだから。笑いってのは基本的な部分に「知っていることが崩される」があるわけで、その「知っていること」を突き詰めれば、それは「=私」になっていく。だから「私」が崩れる瞬間ってめちゃくちゃ面白いんだけど、それは同時に他の人からは一切わからない面白さになっている。
 全然関係ないけど、その、私は「死ぬ瞬間ってもしかしたらめちゃくちゃ面白いんじゃないか?」ってちょっと思ってたりしてるんですがw まぁこれに関しては「笑いはエロスとタナトスに分類できる」って話があるんですよ。
 
 でね、この作品。いきなり友達が悪魔に憑りつかれて、そいつをチェーンソーで切り刻むとこからはじまるんですけど。そこから何か世界中に悪魔憑きが広まって、だけどその悪魔に憑かれた人たちは小さなコミュニティを作って畑耕して生活してたりしてて。
 そこに音楽プロデューサーの人間が色々あって合流する。悪魔憑き同士は「キシャー、ミュシャシャー! チュピチュピパチャパチャ」みたいな独自言語で会話してるから、何言ってるかわかんない。だけど音楽を流すと一緒に楽しく踊ったりできる。
そうやってるところに「悪魔憑き殺す!」みたいな人間が襲ってきて、惨殺されちゃう。だけど悪魔憑きだからすぐ復活して、その襲ってきた人間を撃退したりもする。
 で、わーい良かったね~つって音楽流して輪になって踊るんだけど、なぜかそこに謎のボタンが登場。それを押すと悪魔憑きのひとりを残して、すべての生き物が消えてしまう。それで茫然と歩いてたら、砂浜にでっかくて黒い立方体が出現。そこから宇宙人が出てきて音楽を流して踊る。
 
 まぁ読み取ろうと思えば色んなものを簡単に読み取れるわけですよ。「つまりこの悪魔憑きっていうのはマイノリティを表わしているんですね。言語の違う”不気味なもの”と、それを虐殺しようとする集団という形で」とか「音楽は人種の壁を越えれる」とか「他人がいる暖かみ」とか、まぁそういう感じで。
 で、重要なのは作中で色んなホラー映画のパロディやオマージュが頻出するんですよ。そこでひとつひとつのパロディ元がどうこうってよりも、もっと大きな、つまり「この読み取れるメッセージぽいのもパロディなのではないか?」って切り口が生まれてくる
つまり「こういう社会的なメッセージをホラー作品って仕込んだりするよね」ということ自体を模倣している。もっと言うと「そういうのが読み取ることが正しいと思ってんでしょ?」みたいな皮肉も込めて。
 その上で結局何がやりたいかっていうと、すっげぇしょうもないホラーギャグっていうw ただ別にそのギャグも面白くない、面白くないのよ……だけど何故か私は妙に気に入ってしまっている。
 なんかこの感じ、90年代中盤の「悪趣味/スカム」文化に近くて。私の中心にあるのが正にそのサブカルチャーなんだけど……あれって「表面的なキレイごとじゃない、こういった悪いものを知ることが真の人間理解につながるだ!」っていう【建前】で、なんかこう後ろめたいのもを見て喜んでたわけですよ。
なんかこの作品にはそれに近いものがある。で、調べてみると監督の宇賀那健一は1984年生まれで、私と年代が近いのよ……だから妙に私が楽しめたのは、あの時期の同じ空気に触れていたからなのかもしれない。
 
 それでね。さっきも言ったように笑いはエロスとタナトスに分類できて、そういった意味ではラブコメってエロスの笑いであり、その逆側にホラーギャグっていうタナトスな笑いがある
それで昨今のラブコメってめちゃくちゃ技巧が鋭く繊細なんですよね。『スキップとローファー』とか『正反対な君と僕』とか『僕の心のヤバイやつ』とか。そうやって考えたとき、もしかしてホラーギャグは「稚拙で大雑把」な方が正しいのかもしれない。
 そしてそんな「稚拙で大雑把」なものを気に入ってしまうことで、こうやって毎週エラそうに映画評なんかをやってる人間は見栄とプライドと、そして一番大事なコツコツ積み上げてきた信頼が破壊されて死ぬ
 
 だけどさっきも言ったみたいに「死ぬ瞬間がめちゃくちゃ面白い」ですよねw たぶんそういう変な刺さり方をしたんだと思う、DVD出たら買っちゃうわ。
 でもホント、面白くないから「絶対見た方がいいよ!」とは流石に言えないかな……フリとかじゃないからね。

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 次回は『ドラえもん のび太の地球交響曲』評を予定しております。

 この話をした配信はこちらの20分ぐらいからです。


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