一週遅れの映画評:『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』地味な嫌さを突く信頼。
なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。
今回は『でっかくなっちゃった赤い子犬 僕はクリフォード』です。
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全体を通してギャグにエスプリが効いててめちゃくちゃ面白いんですよ!ホントに。
主人公が小6の女の子なんだけど、けっこう良い私立学校に転校したばっかりなのね。で、そこで軽くいじめられてるのよ、「フードスタンプ」ってあだ名つけられたりして……日本で言うなら「生活保護ちゃん」って感じかな?実際は奨学金貰って登校してるだけで、シングルマザー家庭ではあるけど、母親は弁護士事務所で働いていて(弁護士なのかアシスタントなのかは本編中では判断できなかったけど)これといって生活に困ってるわけではないのね。
で、まぁその子が学校から帰って来てさ、母親に「新しい学校はどう?」って尋ねられて「そうね”終焉”と”廃退”って感じ」と答えるのよ、もうこの時点でこの娘が賢くてタフで、だけど少し参ってるのがわかるじゃん。それに対して母親は「それは素晴らしい言葉ね」って返す。
子供が辛い気持ちになってることもわかるけど、同時に「このぐらいで騒ぎ立てて欲しくない」って子供が思ってることも察して、それに加えてその言葉を扱える知性と意味の深刻さは理解していると提示する。でそれを聞いた主人公は苦笑いしながら「次はカウンセラーが使う言葉を覚えるかも」、つまり「”次は”だから今はまだセラピーが必要なレベルじゃない、安心して/だけどこれがずっと続くなら……ちょっとキツイかも」ぐらいのメッセージを皮肉に織り込んでいる。
いやこういうウィットに富んだやり取り、それも子供が主体なの、私は大好きなんですよ!タイトルからとかでわかるように、この作品は完全に児童向けではあるんですけど、自分が子供の頃にそういった作品で「こっちを子供だと思って舐めた感じで繰り出されるギャグ」が嫌いで。少し大人びたジョークが入ってると嬉しくなった記憶があるんです。
だから対象年齢がこのくらいの作品でこういう「知的でちょっと露悪で、こまっしゃくれた軽妙なやりとり」が出てくると、なんというか作品を見てる/見て欲しい観客の理解力を舐めてない、真摯に向き合ってる態度を感じでそれだけで「これは良い作品だ!」って思えるんです。
他のコメディシーンもギャグもちゃんと面白くて、実はこれ見たときシアターに私一人の貸し切り状態だったんですけど、それで気を抜いていたのもあって数回「ふひゃひゃ」って声を上げて笑ってしまうくらい良くて……やっぱねぇちゃんと笑える作品ってのは素晴らしいなと改めて思いましたよ。
ストーリーも「犬がおおきくなっちゃった!」の大きくなったが”全長3メートル”っていう地味に嫌なサイズで。すっごい苦労すれば隠せなくもない大きさだから、頑張らざるえないわけですよ。ほら、これが15メートルとかだともう諦めるしかないじゃない?でも何とかなりそうなら流石に頑張らざるえないわけで、その塩梅としてすごく嫌味な大きさしてる。
それにその大きさ、普通に気のいい犬だとわかってる飼い主にとっては脅威でもなんでもないけど、その犬の気性を知らない人にしてみれば巨大な肉食獣なわけで。その恐ろしさもすごく理解できるようになっていて、設定が上手いんですよね。
あと主人公が犬のクリフォードをなんとか元のサイズにしようと奮闘するんだけど、それに付き従うのが従弟(母親の弟ね)で。またこの従弟が定職に就いていなくて、家もない(というかトレーラーハウスで生活してる、いわゆるホワイトトラッシュとして描かれている)ダメ人間なのよ。だけど主人公のことはちゃんと面倒みようとして、だけど生来のだらしなさから端々で適当なことをしてしまう……だから「子供に好かれる不良おじさん」にもなれないけど「ちゃんとした規範になれるわけでもない」って感じで、主人公からも普通にやや嫌われてるっていうwすっごい微妙なキャラクターになってるんですよ。
だけどトラブルに対処するうちに「まぁだらしない割には頑張っとるな」みたいな面が見れたり、そんな感じの人なのにどうして姪っ子の面倒をちゃんと見ようとしてるのかって理由を初めて主人公に話して距離が近づいたり、そういったやり取りを経て「やや嫌い」から「まぁ悪い人ではないし……」ぐらいの温度に変化する(これが「大好きなおじさん!」にならない辺りの、都合よく人の気持ちを変化させない真面目さよ!)ところとか、すごい良いんですよね。
ただ……主人公が最後に演説をするんですけど、その内容がね……。なんかこう「人々がそれぞれの個性を認め合って尊重すれば、もっと世界は良くなる」みたいなことを言うんですけど、正直言って別にそんな話ではないんですよ全体を通して。
いや実際に街にいるちょっと変わった人たちが手助けしてくれて、それで主人公とクリフォードは窮地を脱するわけで。そういった面もあるにはあるんだけど、でもそこはメインじゃないよね?って感じはすごくあって。ストーリーの進行とコメディ/ギャグが噛み合っていたり、さっきも言ったように都合がいいだけの展開や変化を描かない誠実なことをやっているのに、どうしてここだけ唐突で噛み合わない説教臭さを出しちゃうのかなぁ……という気分にはなっちゃうかな。
善意で解釈すれば児童向け作品としてそういったメッセージがありますよ~っていうのをわざとらしいくらいにやらざる得なかったのかな?だとしたらこのわざとらしさは「まぁ一応ご両親向けにこういうの入れてっけど、別に君らは真面目にこんな話を聞かなくて良いよ……あ、レポートの宿題があるんならこのセリフ引用すればいいんじゃない?」って意味だということか……な……?ぐらいには受け止められる、かも?
というかそうやって無理矢理にでも前向きに捉えたくなるくらいには他の部分が良かったですよね。だからそういったマイナスポイントはあっても十分お釣りは来るくらい面白かったです。もしこれから見よう!って人はそこだけ見ないフリをして貰えれば……いいのか?そんなことを推奨して?
いや、本当に面白かったんですよ!なんか上映終了がめちゃくちゃ早いっぽいので(さっき言ったように公開週で貸し切り状態になっちゃってるぐらいだし)気になった方は是非お早めに。
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次回は『ノイズ』評を予定しております。
この話をしたツイキャスはこちらの16分ぐらいからです。
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