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一週遅れの映画評:『冬薔薇』出てくる奴、9割クズ!(私含む)

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『冬薔薇』です。

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 いやすげぇのよ、何がって登場人物の9割がクズ! 主人公が突出してるけど、他も大概な感じで……唯一主人公の同級生がマトモなのと、父親の同僚がまだマシなぐらい。
 この主人公、基本的に何がしたいとかがまったく無い。強いて言うなら「頑張らずにそれなりの生活してぇなぁ」程度の欲望しかないのね。それで一応服飾の専門学校に入ってはいるんだけど、それも「適当にデザインしとけば、なんか人気者になって楽しく暮らせるんじゃね?」程度の目的しかないし、そんなんだから学校にもほとんど行ってない、じゃあ何してるかって言うと、地元の半グレとつるんでる。だけど元々意志がフワフワしてるからケンカとかもまともにできない。ちっちゃいナイフをへっぴり腰で振り回して「うわ、うわわ」とか言ってるだけ。しかもその相手に反撃されて足を折られるっていうw
 で、今度はその足が折れてるのをきっかけにして少し年増の女を引っかけて、そいつのヒモになる。実際顔は良いから……演じてるのが俳優だからってことじゃなく、作中で直接言及されてるわけじゃないけどどっかしら「ほっておけない」雰囲気を持ってるみたいな描写がされていて、だから妙にあっさりと女と懇ろになる。だけどヒモとしての根性も座ってないから数か月付き合っているうちにどんどん対応が雑になって、最後には「あんたのこと訴えるから」とまで言われてしまう。そこで主人公はその女の職業が弁護士であることを知るのね。
 
 普通何か月か体の関係を持った相手がどんな仕事をしてるか? って気になるじゃない、しかもこの女は妙に金払いが良いとなったらなおさらに。でも主人公は向こうが言い出すまでそれを気にすることすら無いのよ。つまりこの主人公には他人に対する興味とか、他の人の心情を理解しようって気持ちがこれっぽっちもない。相手が「自分に何をしてくれるか?」ってことしか考えてない、というか相手に人格とか考えがあるってことがイマイチ理解できてないんですよ。
 
 ね、突出したクズ感あるでしょ? でね、私はこの主人公が嫌いじゃないっていうwだって顔が良い……じゃなくて、あの、これは私のツイッターだったりを普段から見てくれてる人は知ってると思うんだけど、その、あれなんですよね、私は結構このタイプに近い対人把握をしてるんですよ。だから主人公のダメなところとかに「いやでもわかるわ、それ」みたいな。その環境で同じ立場だったら私も同じことするかもなぁ……って感覚が強い。
 なんというか、色々胸ん中では考えてるかもしらんけど、結局そこから出力される言動とか行動しか私らは観測できないわけで、うだうだ言ったところで「あったorなかった」の0/1しかないわけだし、そんなブラックボックスの中身を配慮する必要なくない?みたいな。もっと言うと自分自身に対しても「そういった繊細な心情はフィクションで描かれているだけで、現実の人間には快/不快の単純な二択回路しか存在してないのでは?」と思っているんですよ。だからこういう映画とかなら批評ができるけど、対リアル人間を相手にすると「知るかボケぇ」という感覚しか生まれないのですよね。
 それでこの主人公、根本的にあまり頭がよろしく無いのでそういったクズ行動がその場その場の行き当たりばったりだから、他の人にそういった部分が看破されてしまうんだけど、私は多少の悪知恵が働くのでもうちょっと巧妙にクズ行動を繰り出してる。おかげでそれなりに人生やっていけてるんだけど、実際のところ彼とあんま変わんないんですよね。
 
 で、この映画のいいところはそういったクズ精神の人間に対して過度に諌めるわけでもなく、かといって甘すぎもしない。適度な距離感で突き放してくれるんですよ。
 だってね、そういった人間としてはいままでの経験から「自分はダメだなぁ」ぐらいのことは理解していて、だけどいまさら修正とか改心もできんわけですよ、できるならもうやっとる。できんから経験則でなんとかしとるんじゃこっちは!
 
 そういう荒れ方をしているクズ人間にとって「ちょうどいい温度で放置してくれる」ってのは一番助かるんですよ。突き放すわけでもない(利害が一致すればその場で連帯はできる)けど、近づきすぎもしない(無意味に親密なコミュニケーションを取る必要もない)というのは、非常にわかりやすいし、やりやすい。
 
 ただこの作品の主人公と私に違いがあるとするなら「孤独に強いかどうか」という部分で。結局、この主人公はどっかしら「誰かと言葉を交わしたい」と思ってる。生きてるなかで誰かと接触したいという欲望がどうしても生まれてしまう……たぶん人間の属性として「孤独が好き/嫌い」と「孤独が平気/無理」っていう要素が別々にあって、このマッチングがどうしても不幸な組み合わせになるタイプがいるんですよ。
 私なんかは「孤独が好きで平気」っていうナチュラル引きこもり気質だからかなり楽なんだけど、この主人公とかヤリマン系メンヘラちゃんとかは、あれ? なんだこの私の中にある悪意はw まぁいいや、そういったタイプは「孤独が好きだけど無理」っていうどっちへ転んでも終わる感じなんですよね。
 でもたぶん世間の人って結構そういう属性っぽくて、少し前なら会いに行けるアイドルとか、ネットで距離感を誤認させるYoutuberとかVtuberってそこらへんの欲望をすごく的確に埋めてくれるわけですよ。
 
 だからそこらへんに多少でも自覚がある人なら、この『冬薔薇』を見て「うわぁ、ひでぇ人間しか出てこない……けどなんか嫌いじゃないかも」みたいな感想になると思います。いま映画館では話題作がいっぱいで、わざわざ時間作って見に行って!とはいいにくいところがあるけど、機会があったら(たぶんそのうちどっかの配信にくるでしょ?)見てみるといいかもしれない。そのぐらいには私の中で良かった作品でした。

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 次回は『はい、泳げません』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの21分ぐらいからです。

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