見出し画像

一週遅れの映画評:『おとななじみ』計れないから、信じてみる。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『おとななじみ』です。

※※※※※※※※※※※※※

 まず設定の話からすんだけど、4歳から幼馴染の男女がいます。女の子の方は相手のことが好きなんだけど、言い出せないままもう24歳になってしまいました。このままではダメだ! と「ちゃんとした大人」になるために、気持ちを伝える決心をしますが、やっぱりなかなか告白なんかできなくて……というラブコメなのね。
 まぁ申し訳ないけど、ここから少女マンガ原作/主演女優がモデル/相手役がジャニーズJr.と来たら「あらららら~」って感じはあるわけよ。でもなぁ作品なんて見るまでわからないわけじゃあないですか、disるにも作法があるんです。当たり前だけど。
 それで実際、見てきたんだけど。
 
 いや、これ、かなり良かったわ。
 
 というか私はこういった「少女マンガ原作、主演がジャニーズか若手俳優、女優はモデル上がりかアイドル。ローからミドルティーンの女の子向け。上映時間100分ぐらい」という作品が好きなんですよ。なんというか「自分がフラットな気持ちで作品を見ているか?」を試されてるようで。
 そういった作品群を”映画批評”の俎上に上げてマジで見てる本数、もしかしたら私が日本一の可能性があると思うんですけど。そういう人間が「かなり良かった」と太鼓判を押すことに躊躇無いぐらい、面白かったですね。どうだろう、過去見た中だと『センセイ君主』『ストロボ・エッジ』あとはラノベ原作だけど『今夜、世界からこの恋が消えても』あたりが個人的にはめちゃくちゃ良かった作品なんだけど、それと肩を並べるくらいだと思います。マジで。
 
 それでね、この『おとななじみ』ってタイトルは「幼馴染」との対比になってるわけですよね。つまり作品のテーマとして「幼さから大人へ」というのがあるわけですけど、当然ながら成長や成熟することを良しとするみたいな単純な話にはなってないわけさ。
 
 私は”青春”の定義を「無根拠に自分の可能性を信じれる季節のこと」だと思っているんですが(だから私はまだ青春時代の真っ只中にいるわけですけど!w)、そこから幼さや大人をどう捉えていくか? っていうと。
 まず幼さは「自分がどこに行けるのか知らない状態」なんですよ。世界の広さをほとんど理解していなくて、どこに行けるのか? どこまで行けるのか? っていう思考すら起こらない状態。言い換えれば自分の可能性を試せる場所があることに気づいていないのが、幼さで。
 じゃあ大人はって言うと「制限された可能性を現実と呼ぶ態度」なんですよね。可能性って言葉を「全てはありえるかもしれない」じゃなくて「実現できる確率」として解釈していくスタンスというか、夢を見ないわけじゃあないけどその前に(出来る範囲の)という注釈が付く感じ。
 ざっくり例えるなら、「世界一高い山ってどこかわかんない」→「俺、エベレストに登れるかもしんねぇ」→「富士山ならルートによってはなんとか?」みたいなことだと思うんですよね。
 
 それでね、この主人公がなかなかヤバい女でw 好きな幼馴染の男の子が「これが好きだから」って理由で、好物の唐揚げを提供しているお弁当屋さんに就職したり、その男の子がアパートで一人暮らしを始めたらその隣に引っ越して来るっていう……たぶん演出方針によっては激ヤバストーカにもできると思うんですけど……まぁそれはいいとして、居住移転の自由とか職業選択の自由(むかし「職業選択の自由 あははん♪」て曲があったんですけど知ってる?)って基本的人権のわりと重要なところだとされてるんですよね。
 そしてこの主人公は、それを他人に左右されている。いやまぁ、それもまた自由の範疇ではあるんですが。これってさっき定義した中だと「自分の可能性を試せる場所があることを知らない」状態、つまり「幼い」って言える。
 で、そのマズさに気がついた主人公は「ちゃんとした大人にならなくちゃ」と思う。そこで彼女が上げる大人像が「ちゃんと恋愛をして、ちゃんと仕事をして、ちゃんと生活をする」というもので、まぁそんなフワっとした目標が達成できるわけもないんですが。
 それでもなんとかもがく中、仕事先から「最近売り上げが落ちているので、その分析と対策をしろ」と命じられる。そんなフワフワして生きてきた主人公にとって、めちゃくちゃ難易度の高い課題なんですよね、それって。
 そこに同じく小学校からの幼馴染である男性が助け舟を出してくれる。そいつはイベント会社でちゃんと働いててしっかりと実績も残している優秀な男で、彼の協力もあってとりあえずその課題はクリアするんですよ。
 
 主人公は自分の力が足りてないことを自覚しながらも、そうやって仕事と向き合うことで「働くこと」の楽しさを発見していく。ここで「ちゃんと仕事をする」っていうフワっとした目標が、「自分のできることで、現状を修正していく方法を模索すること」という実質を伴ったものに変化していく。つまり仕事に対しては「大人」としての態度を学習して、それって実は”楽しい”ことなんだ! と知っていく。
 
 一方で、そのデキる方の男から突如として「俺もお前が好きだった」と言われちゃう。ここで主人公を中心とした4歳から幼馴染の男の子と小学校から幼馴染の男性、という三角関係が発生する。ずっと主人公が好きだった男の子はトラブルがあって無職になってしまうし、そいつが自分のことを好きかどうかすらわからない。
 だから実現できる確率だけを考えるんなら、好きだと言ってくれるデキる男からの求愛に応える方が「大人」なんじゃないか? と思い悩むことになる。
 
 そんな中、デキる男が企画していたイベントに主人公が誘われて行くんですが、業者の手違いで問題が発生してしまう。デキる男はそこで「もう無理だ、主催者に謝罪してくる」と判断する、これって大人としては正しい行いだと思うんですよ。フォロー不可能な出来事に対して、速やかに謝罪するっていうのは。
 ただそこに主人公が好きな幼馴染の男の子がたまたま居て、「何とかしよう、絶対大丈夫だから!」と言って代替案を出してイベントを成功に導く。
 そのとき、デキる男は「アイツ(幼馴染の男の子ね)が大丈夫って言うと、なぜだか大丈夫な気がしてくる」と言って、それに主人公も同意するんですけど、ここがめちゃくちゃ大事なんですよね。つまり「大人=実現できる確率」であるデキる男に対して、なぜだか、つまり根拠なく可能性を提示する役割を幼馴染の男の子が担ってる。これってさっき言った「青春」の状態にある、ってことじゃあないですか。
 
 さて。仕事では「幼い」から「大人」になることでその楽しさを発見した主人公が、今度は恋愛において「青春」を選ぶか「大人」を選ぶか迫られる……という図式になるわけですよね。
 そういう状況の中で幼馴染の男の子は「アイツが大丈夫って言うと、大丈夫な気がする」って評されたことに対して、「俺だって自信があったわけじゃないけど、主人公と一緒なら大丈夫だって思える」と告げる。これは主人公が幼馴染の男の子に感じていた「青春」を、男の子もまた主人公に感じていたということになる。
 
 こと恋愛において「こうすれば絶対に(あるいは高確率で)幸せになる」なんてこと無いじゃないですか。それは他人の事象であったり自分の体感としても。
 こういう条件が満たされていれば客観的には良いですよとは言うことができる、だけど恋愛って主観的な感情によるものだから、そういった観測可能なものでは判断できないし、さらには「幸福」なんて曖昧な基準をそこにブツけていくんだから余計に「幸せになれえる確率」なんて測りようが無い
 つまりここでは「実現できる確率」というスタンスを取る「大人」って、通用しないんですよ。ここで可能なのは「この人となら幸せになれる」という無根拠な可能性を信じること。つまり「青春」で居続けることだけで、そこでお互いに「大丈夫だと思える」って気持ちを交換し合える主人公と幼馴染の男の子は、共にその「幸せになれること」を信じあえる……そういう関係を構築できる、って話なわけです。
 
 これなんですよ。仕事っていうのは「できること探していくこと」で「それは楽しいこと」だと描いてみせる一方、恋愛というのは計れないもので最後には「幸せになれる」と信じる/信じあえることだと言う
 そういったメッセージをメインターゲットである10代の女の子たちに届けていることって、めちゃくちゃ感動的だと思うんです。こんなストレートに力強く、この作品を見た子たちの未来を祝福することなんて。それもラブコメとしてポップで面白く演出しながら伝えるなんて、すごいことなんですよ! マジで!
 
 登場人物たちの設定も原作から結構改変されてるんですけど、それがちゃんと作品を100分前後でまとめるために考え抜かれていたりするあたりの手腕も素晴らしいし。
 あとね光の使い方。自然光であったり、夜間のシーンのライティングもめちゃくちゃ上手くて(これ最初に挙げた『ストロボエッジ』もめちゃくちゃ光の使い方が上手かったんですけど、この『おとななじみ』の監督は『ストロボエッジ』のメイキング映像に関わっていて、なんか関連性を感じたりするんですが)、映像としても面白いってのも良いポイントになってる。
 
 すげぇ良い作品だったと思います。ホント、こういう予想を覆されるたびにどんな作品でも、自分でちゃんと見なくちゃいけないな……と思い知らされます。

※※※※※※※※※※※※※

 次回は『最後までいく行く』評を予定しております。

 この話をした配信はこちらの15分ぐらいからです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?