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一週遅れの映画評:『ノイズ【noise】』不信を投げつけられたなら。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『ノイズ【noise】』です。

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 離島が舞台の作品で、まぁ若者はどんどん外に出て行ってしまうし、観光資源もほとんど無いような「終わった」島なんですよね。だけどずっとその島で育った青年が「黒イチジク」っていう果物の栽培をはじめる。それが都会のテレビで取り上げられブームに、「これでこの島の未来は明るいぞ!」とみんながワッショイワッショイしている。
 
 ところがその島にやってきた明らかに挙動の胡乱な男が、その黒イチジク農家の青年とトラブルを起こし結果(事故とはいえ)その男を殺してしまう。これから黒イチジクで島を盛り上げていきたい、数日後には5億の地方創生支援金を審査するため役人もくる。そんな状況で黒イチジク農家の青年が人を殺してしまったとなればすべてが台無し……じゃあ隠そう!となって手を組むのが、農家の青年とその幼馴染である猟師と警官。はてさて、その行方は……。
 
 あのですね画面は暗いし、シリアスなトーンで話が進んでいくので勘違いしそうになるんですけど、これ「ドタバタコメディ」です。間違いなく。こう3人が死体を隠そうとしてるのが、島の町長にバレてしまうんです。町長とはいっても島には町がひとつあるだけなので、実質最高権力者ですわ。
 で、こいつがどうするかっていうと「島の未来のために農家の青年がいなくなると困る……よし、猟師のお前。罪を被って自首しろ、自首」「アハハアハハアハハ!これで全部解決じゃない!」とか言い出す。それでどうなるかっていうと、事情をなんとなく察していた老人が町長の横暴を止めるために乱入、その末にその老人と町長が死んで何と死体が3つに増えちゃった!
 もうさ登場人物が全員大真面目な顔してこの展開を繰り出すものだから、面白くって面白くって。その直前に町長がかなりアクの強い演技をしてるから、たぶんここはコントとして見せようってちゃんと考えて作っているとは思う。
 
 そこから本土の警察がやってきて捜査をはじめるんだけど、もう島民のかなりの数がグルになってるわけ。だってこれまでなーんも良いことの無かった島が、初めて特産品を手にして、このまま上手くいけば5億もの支援金が転がり込んでくる。そういった打算まみれなのに表向きは「島のみんなのためなんだ」と言って団結してる。
 この田舎の狭いコミュニティが持ついやらしさとか、どれだけきれいごとを並べたって実際にやってるのは人殺しを隠蔽しようとしてる薄汚さとか、そういった部分の見せ方も「やっぱ邦画ってこういう嫌な部分をじんわりじっくりやるのがめちゃくちゃ上手いよね」って感心するぐらい良い。
 
 ……んだけど、これがねぇ後半、というか終盤。いっきに面白くなくなっちゃうんだよね。
 最初の殺人、これ自体は実際のところただの事故ではあったんだけど、そこから事態がどんどん最悪の方向へ転がっていくわけ。それを微妙にコントロールしようとしているヤツがいてさ。それが幼馴染の男なんだけど。幼馴染だから農家の青年とは幼少期からずっと一緒にいるわけですよ。それでねその幼馴染は独身で、農家の方は結婚していてその相手が同じく島育ちの女で……っていえばまぁわかるじゃん。思春期に同じ年代の女が一人しかいなければどうなるかはw
 ただ回想シーンとかだと若かりし頃の農家と女が良い雰囲気になりつつあるところを、じっと見つめる幼馴染。ぐらいの演出で「あぁ、自分の負けを悟って一歩引いてしまったんだな」って伝わってくる。ただ実際は諦めてなくて、この事件に乗じて農家を逮捕させて自分が女となんとか懇ろになろうと実は画策してましたー。ってオチなんだけどさ……。
 
 そのね。田舎の閉じたコミュニティの嫌らしさとか、幼馴染も本当は女に惚れていた演出とか、あとは一人かなり悲劇的な目に陥るのだけどその見せ方とか、そういうのはちゃんと上手いと思うんですよ。本当に。
 ただねぇ、その幼馴染の男の家に女の写真が壁一面に貼ってあるっていう……いや急にそんな露骨にわかりやすいのってある!?結構さ観客を信じてるタイプの映像を使った見せ方をしていたと思うんですよ、そこまでは。なのに急にめちゃくちゃわかりやすいストーカー感出てきて。
 田舎のクソ狭コミュニティでしかも事件のせいで警察がいつ捜査に踏み込んでくるかもわからないような状況ですよ。外すだろ、それは普通に考えて。そうじゃなくていまどき物理写真を壁一面に貼るとかさ、唐突に90年代後半あたりの異常恋愛系の匂いが出てきて。
 なんかねぇ、最後のそこでガッカリしちゃいましたね。そこまでわりと緊張感ある画面だったのが一気に弛緩してしまうというか。
 
 もっとこっちを信じてもらいたかった。ここまで比較的抑えめな描き方で内容を伝えてきたのに、最後の最後で観客を信じ切れなくなってしまったんだな……という感じがしてすごく残念でした。つまんないわけじゃない、でもガッカリする映画でした。うん、本当に惜しいと思うけどでも作品を最後まで信じてみてきた観客に「不信」を投げつけてきたわけだからね。失望されてもしかたないと思う。

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 次回は『大怪獣のあとしまつ』(話題になる前から決めてたんだよ?本当だよ?)評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの16分ぐらいからです。


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