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一週遅れの映画評:『シャドウ・イン・クラウド』運命に、立ち向かう時。

なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

今回は『シャドウ・イン・クラウド』です。

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 完全に「低予算B級モンスター映画」ではあるのよ。だからそんなはず無い……っていまでも思ってるんだけど、なんかねぇめちゃくちゃ面白かったの!今年見た映画どころか「もしかするといままで見た映画全部でもトップ10に入るのでは?」ってくらいに
 ただそれが普遍性があるか?と聞かれたらまったく自信がない、例えばその日の気温がもう2度高かったり低かったりしたら違う感想になってしまうんじゃない?って自分のことをちょっと訝しく思ってしまうくらい、ホント変な刺さり方してるのよ。
 
 1943年、つまり第二次世界大戦の時代。主人公は軍からの指令を受けて最大8人乗りぐらいの大型爆撃機に乗り込むことになるんだけど、そこで機体に不気味な影が張り付いているのを発見するのね。それがいわゆる「グレムリン」と呼ばれるモンスターで。
 グレムリンってモンスター、あるいは都市伝説って確か第一次世界大戦ごろのイギリス空軍が発祥で、機械、とくに飛行機にトラブルを起こす例えば燃料が漏れてたりネジを緩ませたり整備不良にさせたり、そういう能力を持つ怪物なのね。まぁこれって要は人間とか設計のミスとかを「ちゃうねん、ワシのせいじゃなくて、なんか変な生き物のせいなんよ」って言い訳して、その総称が「グレムリン」と名付けられた感じなんですよ。
 だから「第一次世界大戦のイギリス空軍」が発祥なのもわかる話で、その頃から飛行機が戦争に使われるようになって運用頻度が激増したわけよ。そうなれば当然トラブルもミスも増える、しかも地上を走る戦車と違って空中でトラブルを起こしたら、その深刻さって段違いじゃない。だからそういった機械のトラブルを恐れる心が都市伝説を生むし、注意喚起にもなるし、あとはまぁ集団の中で犯人捜しをするよりもとか、まだまだ技術が未熟だからどうしても発生してしまうトラブルを諦め半分で受け入れていく……みたいな感じがきっとあったと思うんですよ。
 
 まぁいま思いっきり都市伝説とか言っちゃいましたけど、この映画では本当にグレムリンはモンスターとして襲ってきます。そんな相手を飛んでる状態、つまり空中でどうにかしなきゃならない。グレムリンは伝説通りに飛行機の故障をバンバン起こしていくわけですよ、もう故障っていうか装甲をもいで引っぺがすとか好き放題かましてくる。
 しかも主人公はめちゃくちゃ大切な荷物を運んでる途中で、それがなぜかグレムリンに奪われそうになったりするんですよ。それを取り返すために翼とか胴体についてるちっちゃい突起?みたいのをグッと握って、飛行中の機体の外を宙吊りになって向かっていく。航空中で高さが何千フィートのなかを、そんな手の力だけで渡っていくの「無理では??」って気はするんだけど、まぁまぁまぁやっていくわけですわ。
 
 それでなんとか超大事な荷物を回収して、飛行機からもグレムリンを叩き出すんだけど、グレムリンは自前で飛行能力を持っているから空を飛んで追ってくる。床が破壊されて飛行機から真下が見えるんですけど、そこから飛んでるグレムリンが見えていて、んでバンバン機内の備品をブン投げて撃墜しようとするんだけで全然当たんないの。
 そのときのBGMがすごくてさ、いや私は音楽のことまったくわかんないから変なこと言ってると思うんだけど。まずグレムリンが出てきたり襲ってくるときに「どーん、びよーん、どーん」みたいな曲が流れるんだけど、これがなんかねめっちゃ『時計仕掛けのオレンジ』っぽいのよ!マジで、あのキューブリックの。『時計仕掛け』の最初でソファーに座ってミルクプラスなにかを飲んでるアレックスにカメラが寄っていくシーンあるじゃない?あのときのBGMそっくりに聞こえたのよ。
 それでさっき言った備品をバンバンブン投げるところで、そのグレムリン「どーん」って曲に重なって、なんか変な電子音みたいなBGMが流れて、それが状況も合わさって古いファミコンのゲームぽくてさ。なんかすごい笑っちゃうのよ。
 
 あと主人公が機体の外へ完全に投げ出されるシーンがあるんだけど……いや、これはちょっと、説明しないほうがいいわね。そのシーンはね、もう映画見た人の特権だと思う。いやもう「マジで!?www」って声出たもん、劇場に自分ひとりしか客がいなくて良かったよ。あの日は。
 
 それでね、なんやかんやで飛行隊はもう航空不能になって機能もボロボロだから、途中で胴体着陸するしかなくなるんですよ。それもなんとかやり遂げたところで、一緒に落ちてきたグレムリンが主人公の超超大事な荷物を再び持って行こうとすんのね。で、それを追ってグーパンですよ。モンスターに向かってステゴロを挑むっていう
 グレムリンはその気迫にビビって荷物をほっぽりだして「ヒィィ~お助け~」って感じで逃げていくんだけど、それをボッコボコにぶん殴って倒すのよ!もう一緒に飛行機から落ちてきた他の乗組員はその姿を遠巻きに見て、軽く引いてんのw
 でグレムリンをブチのめして、荷物の無事を確認して一安心……って感じなんだけど。
 
 ここまでだと私に何が刺さったかよくわかんないと思うのよ。なんか笑っちゃうようなお間抜けさしか伝わってないでしょ?
 えっとね、前半で言ったようにグレムリンって都市伝説で。「どうしても発生してしまうトラブルを諦め半分で受け入れていく」って側面を持ってるわけね、これって端的に言えば「運命」それも「不幸な運命」の象徴なんですよ。デスティニーじゃなくてフェイトね。最後にグレムリンが荷物を奪っていこうとするのも、その荷物はめちゃくちゃ大事で、しかも失われやすいんですよ。こう「不幸な運命」というものはそういった弱点であったり、弱い部分をまるで狙ってるかのように襲ってくるところって絶対あるじゃないですか。
 
 主人公は乗り込んだ飛行機で、ほかの乗組員から結構ヒドい扱いを受けるわけ。そこにグレムリンっていう「不幸な運命」が襲い掛かってくる。だけど最後には逃げていくグレムリンを追いかけて、シバき上げるようになる。これって「不幸な運命」というものがどういうときに致命的なものとして襲ってくるか?っていうことで。
 つまり怯えてる、ビビってる、心が折れそうになってる、まいってる……そういうときに「不幸な運命」というのはこっちに近づいてきて、酷い目に合わそうとしてくる。しかもそれって当人にとっては死ぬほど深刻なのに、傍から見ればちょっと間抜けだったり、笑ってしまうようなしょうもないものだったりするんですよ、往々にして。
 だけど本人にとっては本当にヤバかったりする。そこから奮起して、立ち向かい拳を振るえば、その「不幸な運命」は退散していく。それどころかこっちから追いかけていって撃破することもできる、そういうことなんですよ。
 
 最初は軽んじられてる主人公が、成果をあげたりするなかでちょっとずつ他のクルーに認めらていく。そうやって自信を取り戻していくなかで、グレムリンつまり「不幸な運命」に立ち向かえるようになっていく。
 それでね、主人公がこの任務につかなければならなかった背景には、主人公の身に降りかかった「不幸な運命」があって……つまりそれから逃げ出そうとしていた。そういう敗走だから、弱っているからグレムリンが襲ってくるわけですよね、さっきも言ったように。
 
 ここにあるのは他の人から見ればしょうもないようなことでも、当人にとっては命がけの事態だ。ということはいくらでもある。そこに対して負けそうになってると「不幸な運命」は、まるで狙いすましたかのように「そこ」へ襲い掛かってくる。
 それに対して奮起し、拳を握って立ち向かうことで人はその「不幸な運命」を振り払い、叩きのめすことができる。
 
 そういうメッセージを映像としてもストーリーとしても力強く語っていて……だからちょっと笑っちゃうようなシーンにも意味があるんですよね。
 これは現在進行形で追い詰められたり、つらい目にあってる人への応援だと思うんですよ。あなたのつらさはわからない、どうしたって本人にしかわからない「つらさ」っていうのはある。でも立ち向かう意志を失ってはいけないし、そうやって戦っていけば「不幸な運命」は向こうから去っていく、なんなら追いかけてブチのめしてその「不幸な運命」の再生産を止めることだってできる!
 そういう強いエンパワメントを私は受け取りましたよ。いや本当にすっげーいい映画でした。

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次回は『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』評を予定しております。

この話をしたツイキャスはこちらの13分ぐらいからです。


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