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一週遅れの映画評:『怪盗クイーンはサーカスがお好き』赤い夢よ、もう一度。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『怪盗クイーンはサーカスがお好き』です。

無題

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 青い鳥文庫からの刺客!といった感じで近年アニメ化された『黒魔女さんが通る!!』『若おかみは小学生!』に続く第三の矢、いやまぁ『クレヨン王国』まで振り返ると大変だから大好きだけどとりあえず適度なところでラインをひいておこう、みたいな私の都合による第三の矢なんですがw
 なんにせよこうやってローティーン前後を対象としてる青い鳥文庫の作品がアニメ化される、ってのは実に喜ばしいことですよ。
 
 それでこの「クイーン」というのが年齢性別国籍が一切不明で中性的超美形というキャラクターで、それが作中でも徹底されてるんですよ。顔がアップになるたびキラキラキラ~ってエフェクトが発生して、この人がどれだけ人並外れた顔の良さをしているかをめちゃくちゃに刷り込んでくる。身体能力も非常に高く、変装の名人で催眠術も使える。その上、友人/相棒にカンフーの達人と超高性能AIがいて、その3人は巨大な飛行船に乗ってその中で暮らしながら世界中を飛び回ってる……って設定なのね。
 だからさっきあげたアニメ化青い鳥文庫作品の中だと、『黒魔女さん』は普通のちょっとドジ小学生だし『若おかみ』はまぁ中々につらい目に会った小学生だし、ずいぶん趣が違う作品なんですよ。それは『クイーン』の”夜の闇に浪漫を感じ、赤い夢の中で生きている子供がいるかぎり、怪盗がいなくなることはない”っていうキャッチコピーにもあらわれていて。
 
 こういうローティーン向けの作品が示す方向性って多様なんですけど、例えば『若おかみ』のように現実の不幸や理不尽さにこれから向き合っていく子供たちに向けて、世の中にはそういったどうしようもない出来事がある。それと直面したとき、どうやって奮起するか? あるいは堪えるための精神をどう培っていくか? というのがあって。
 反対にこの『怪盗クイーン』シリーズとかだと、まぁこれは私にも身に覚えがあるというか現在進行形のやつなんだけど、子供ってやっぱ全能感に支配されやすいわけですよね。ちょっとしたことで「私は天才! 私はすごい!」ってなる……おいやめろ、私を指さすんじゃあない!
 ただね、そういった全能感って私は必要だと思うんです。どこかで「すごい、できる、やれる!」って思い込まないと前に進めなかったり、そういう勘違いを現実にするためにもがいたり、成長にはそういった面が絶対に欠かせない。だからクイーンみたいな「その気になればなんでもできる」みたいなキャラクター像って、たぶん大人が想像するよりもずっと子供たちとっては身近なんじゃないかな? と。少なくとも小さなコミュニティの中で支配的なポジションになるタイミングというは、誰にだって存在するわけです。
 そうなったときに強者である、権力者である、成功者である、という立場になったとき「どう振舞うべきか?」という問題に対して、ある種のロールモデルを提示しておくことってすごく良い。しかもそれが「怪盗」っていうアウトローなことで上手く説教臭さを消してる。そこで「怪盗の美学」って形で持つものの倫理観、ノブレスオブリュージュ的な規範を示すのは上手いなぁと純粋に思います。
 
 実際シナリオとしてはまぁその、ちょっとアレなんですけど……ていうのもクイーンが変装の名人で催眠術も使えるって点で実質「なんでもやりたい放題やんけ」みたいな部分はどうしてもある。なんというか「催眠系のエロ同人誌ぐらい都合いい無敵能力だなおい」ってくらいwそれに最後で戦争の悲惨さが登場人物のひとりを駆り立てる動機になってることが判明するんですけど、そこへの導線をつけるために中盤かなり唐突に「戦争はよくない」みたいな語りが発生したりと、そういった部分では対象年齢の問題と映画の尺(60分)の問題が出ている気はします。
 
 ただ戦争ってものに抵抗しようとしている登場人物は、なんでもやりたい放題の完璧超人であるクイーンを一度は出し抜いたりする。あるいはそれだけの能力を持っているクイーンをしても戦争自体はコントロール不可能で、ただ個人の力として何ができるか? みたいな視点が入っていたりと、やりたいこと/見せたいことがシンプルにあらわれてて、そういうところにはすごく好感が持てるし、全体を通したギャグ要素の入れ方も上手なんですよね……。
 あとやっぱクイーンの人物像も「中性的でめちゃくちゃ美形、自身の美学にだけは誠実。だけど普段は怠け者で飄々としている」っていうのが、好きにならずにはいられないんですわ。だから本当はじっくり何クールかかけてテレビアニメでやって欲しいんだけど、最近の「じごくwwww」とかいってキャッキャするのが大好きな消費模様だと、『若おかみ』がウケたような方向性は難しい。その上『黒魔女さん』も『若おかみ』もテレビアニメが先行して存在していたわけで、じゃあ映画からはじまった『クイーン』が今後あるか? って考えたら「厳しいよね……」と思わざるえない。映像化がこの一本で終わっちゃうのはあまりにも惜しいんだよなぁ。なんとかなってくれないかな、と切に願っています。

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 次回は『ベイビー・ブローカー』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの20分ぐらいからです。


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