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一週遅れの映画評:『SABAKAN サバカン』ようこそ、男の世界へ。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『SABAKAN サバカン』です。

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 舞台は1986年、だからえっと昭和61年か。そこで小学5年生の少年ふたりが出会い別れるひと夏の話……って言うと、だいたいみなさまの脳裏に「あー、こんな感じか?」って浮かぶ大まかな展開があると思います。うん、そんな感じ
 でね、私はこの映画評でたびたび「知ってる話はいらんのよ」って言ってるから、こういう系統のにはdisりが繰り出されると思うじゃん? ……いやぁ、なんかそれなりに良かったのよw
でもこういうのが一番困るんだよねぇ、決して悪くはないけど今年見た映画の中なら真ん中よりちょい下あたり。この辺りの話をするのが一番難しい。

 どこからいこうかな……私は1982年生まれだから86年、つまり4歳とかで全然記憶とかはないんだけど……それでも昭和の雑さとか荒っぽさに触れていた感覚はあるのよ。その感覚が「あ、この作品にはその空気がちゃんとあるな」と伝えてくる。そうね例えばファミコン、ファミリーコンピュータが発売されたのって1983年だから普通に昭和61年の小5男子を描いたら「ゲームに夢中!」みたいのがやりたくなる。
 だけどこの作品は舞台が長崎の海に近い町で、まぁありていに言っちゃえば「貧乏な田舎」なのよ。そんな場所で暮らす子供にとって「ファミコン」なんて遠い世界のお話でしかなくて、話題にすら上がってこない。で、最大の文化がガチャガチャのキン消しっていう、この質感が全体を支えているんですよ。
 
 それでね、時代が時代だから大人も子供も荒っぽくて雑なんですけど、その中に身じろぎ一つで思いを伝え合う妙な繊細さが少年たちにはあって。うーんと、年取ると1年が早いって言うじゃん? 私はあれって相対的な話だと捉えていて、つまり40歳の私にとっての1年て人生における1/40しか占めてないわけですよ、2.5%しかない。けれど10歳の子にとっては1/10で10%もあるわけよ。
その中で見るものも聞くものも、今の私より相対的に大きな意味を持つわけじゃない? いままで生きてきた時間に対する比率が4倍も違うんだから。
 この『サバカン』はそれがすごく嚙み合っていて、日々の出来事は粗雑もいいとこなんだけど、それを受け取る少年たちはその瞬間を私の4倍の濃度で過ごしている。どれだけ粗い毎日でもそうやって拡大していけば、そこにはやっぱり繊細さが、どうしようもなく揺れ動いてしまう幼い衝動が見え隠れする
やたらとセンシティブな子供を描く作品ってのも私は好きじゃなくて、「ガキなんてもっと猿みてぇな動物だろ」って思ってしまうんだけど、一方でひたすらバカなガキんちょばっかり演出されても「いや子供ってもっと頭いいだろ」って思ってしまう。
その間にあるもの……「愚かな生き物」と「傷つきやすい多感さ」が両立したこの作品の「子供」は、なんかものすごく私の見たい子供像でした。いやこの温度の「子供」を描いてる作品って、キッズ向け作品だと結構あるけど、こうやって「懐かしい昭和の時代」みたいな触れ込みで出してこれるのはすっごく稀だと思いました。

 あと超良かったのが、まぁなんだかんだあって親友になった相手が引っ越すことになる。それで電車を見送ったあとに主人公はわんわん泣くんですけど、それをひたすら背後からだけしか撮ってないのよ。背中と後頭部が見えるだけの映像でしか主人公が泣いてるシーンがないの。
 でね、それを正面から唯一見ているのが彼の父親で、ひとしきり泣き終わって家に帰る途中でさ、その親父が「母ちゃんの前でぴいぴい泣くなよ」って言うんですよ。まぁ正直現代だったら無いじゃん、あれですよ「有害な男らしさ」って言われてしまう態度に分類されてしまうものだと思うんです。でもたぶん寂しさに向き合う主人公にとって、そういう「男だから」みたいな部分でしか埋められないものって絶対あるはずで。
その親父の発言が通ってしまう時代の嫌な感じは、私にもあるんだけど、それでも一方でそういうめちゃくちゃさでしか拾えないものがあるってのも事実だと思うんですよね。

 それを踏まえた上で、問題あることはわかってるんだけどそれでもっていうのを前提として。
 主人公一家が食卓を囲むシーンを映す構図が、家庭内序列を母>弟>主人公>父の位置関係に置いてたのね。日常を左右する「家庭内ヒエラルキーの優先順位」みたいな感じで。
ただ、ラストの食事シーンではその序列が父>主人公>母>弟ってなってるのよ。つまり別れという経験を積んだことと、甘える対象であった母親の前で泣くのを堪えたこと。これによって主人公は子供から「男」への成長をしたと、それをこういう位置関係であらわして見せるのは、「この時代を題材とした」作品じゃないとできないことで、それはねぇめちゃくちゃ上手いし良いなと感じましたね。

 うん、そういう端々に光るものがある(ただし全体のストーリーとしては退屈な)映画でした。マジで「まあまあ良し!」ぐらい……あ、でも「またね! と言って別れるの、エモいよね」みたい部分をやたら押し出してくるのにはちょっと冷めたかな、そんなのは手垢つきすぎでしょ。

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 次回はたぶんまだ間に合うと思うから『オカルトの森へようこそ THE MOVIE』評を予定しております。手遅れだったらごめんなさい。

 この話をしたツイキャスはこちら20分ぐらいからです。


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