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一週遅れの映画評:『ゴールド・ボーイ』幼さを突き付けられて。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かして配信で喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『ゴールド・ボーイ』です。

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 これですね、なんというか「自分の幼さを直視する」ことを求めてくる作品だと思うんですよ。だからこの映画の評とか感想で「サイコパス」とか言い出すのはマジで内容をちゃんと見てないのがバレるというか、何となく定型文を言っておけば良いって考えてることが露見してしまうので気を付けた方がいいですね。
 なんかこれすっげぇ具体的な誰かを想定してる物言いっぽいですけど、そういうことじゃあなくて、自戒みたいなもんです。いや本当に。
 
 ざっとお話を説明すると、主人公の男の子がいる中学で夏休み直前、ひとりの女生徒が死んでしまった。自殺だってことになってるんだけど、その母親だけはなぜか「主人公のせいで娘が死んだ」と思い込んでいる。しかもめちゃくちゃ複雑なことに、その死んだ女生徒の母親は、離婚した主人公の父親と再婚してんのw
シングルマザーである主人公の母親はパート掛け持ちで働いていて、学業はかなり優秀な主人公を何とかして進学させるため必死でお金を稼いでる……って状況なのね。
 
 そんな中、昔はよく遊んでいた友人と再会する。そいつは父親の再婚によってできた連れ子の妹と一緒に家出しているのね、というのもその連れ子の妹が父親から性的虐待を受けそうになった。それで抵抗してるうちにその父親を包丁で刺して逃げている。もう家には帰りたくないけど、どうしたらいいんだろう? って路頭に迷っているわけですよ。
 で、そんな主人公、友人、友人の妹という三人でプラプラ遊んでいて。そこで動画を撮影してたら、たまたま崖から人が突き落とされるシーンが撮れてしまう。後日ニュースによって、その突き落とされたのが大会社の会長であり、その「事故」を目の前で見ていたのが会長の娘と結婚した入り婿の男だということを知る。
 
 まぁどっからどうみても殺人で、主人公たちはその証拠となる映像を手にしていた。この三人が抱えてる問題って、突き詰めれば「お金さえあればどうにかなる」ことなわけで、そして手元には大会社の会長を殺して遺産を相続するであろう男が殺人をした証拠動画がある……となれば脅して大金せしめるしかないっしょ、って感じで少年たちは行動をはじめる。
 
 それでここからネタバレに入っていくんだけど。
大金を得るために恐喝していたはずが、主人公の手によって「お金はいいから、代わりに殺して欲しい人がいる」という話に変わっていく。その殺して欲しい相手っていうのが、主人公の父親と再婚相手(つまり死んだ女生徒の母親)なのね。主人公が「娘を殺した」って騒ぎ続けている再婚相手は厄介だし、自分たちを捨てた父親も許せない。それにその父親も小さいながら会社を経営しているから、再婚相手と娘も死んでいる状況なら遺産の相続権は主人公だけにあるって寸法なわけよ。
で、その交換条件は成立。動画を撮られた殺人犯は主人公の父親と再婚相手を殺害するのね。

 そして主人公はその死体を掘り返して、わざと警察に発見させる。一方で殺人犯は後顧の憂いを断ち切るため、主人公を含めた三人を「ついでに殺しちゃえ」って感じで毒殺しようとする。
結果どうなるかというと友人と連れ子の妹は毒殺され、殺人犯は隙を突かれて主人公に刺し殺される。しかも証拠を偽装して、いかにも友人が殺人犯を刺したようにし、ついでに自分の体も何か所か刺しておくことで被害者の立場をゲット! やったぜ! みたいになる。
 そういうことができる主人公だから、死んだ女子生徒も実は自殺に見せかけて殺害していたことが後から判明するのね。この主人公は、その女子生徒に告白したんだけど断られていて、それを「気持ち悪い、あんたの父親に言う」って詰められたもんだから「じゃあ殺っちまおう」と思って殺した、と。
 
 まぁ概ねそういうストーリーなんだけど。こっから読み取れるのって「主人公が見栄とプライドを重視している」ということなのよね。
自分の告白を断った女、しかもそれを「父親に言う」って告げられたことで殺害に踏み切るのって、要するに自分のやったことが「恥」でありそれを公にされることがめちゃくちゃ嫌だからなわけですよ。そういう部分から見えてくるのが、この女子生徒に告白した理由で。
さっき話したように、この女子生徒の母親は離婚した自分の父親と再婚している。主人公としては自分の母親を裏切った父親のことが許せないわけです。自分の大好きな母親より別の女を選んだことが、主人公のプライドをいたく傷つけている……この自他の区別がついていない幼さもあって、そのプライドを取り返すためには「再婚相手の母親の娘」を自分のモノにするしかないと思うわけ。
 まぁそりゃあ「気持ち悪い」って言われるよねw……ただ、その、私も見栄とプライドを超重視してしまう人間なんで、その気持ちがかなりわかってしまうの。たぶん直感的に理解できるんだけど、どうだろう、この説明で伝わるのかなぁ。
 
 それでね、ここで対比になっているのって「友人と連れ子の妹」の関係で。主人公の友人は実際のところ血のつながりがない妹のため、一緒に家出して(そりゃ虐待してくる父親なんてイヤだろうけどさ)いるわけで。そういう性根の部分にある善良さと、主人公の「プライドのために他人を踏みにじろう」としている醜悪さが並んでいるわけですよ。
 それに対し「義理の父親を殺して遺産を手にしよう」とする殺人犯と、最終的に自分の父親を金のために殺そうとする主人公ってかなり同根な存在になっている。
あのですね、ちょっと賢い人なら中学生ぐらいのときに「あいつとあいつを殺せば自分の人生にプラスで、たぶんこの方法ならバレないよな~」ぐらい当たり前に考えたりするわけですよ。でもそれって「いきなり学校にテロリストがやってきて、自分の機転で撃退する」って妄想ぐらい実現不可能なことも同時になんとなく理解している
 それは自分より強くて優秀なヤツの姿を知っていたり、思い通りに行かなかったことをそれまで山ほど体験してるから、そうやって思いついた机上の空論は実行すると大抵うまくいかないことを知っているのよね。
 
 だから、その思い付きを実行してしまうのって幼児的な万能感に支配されてしまった結果なのね。どれだけ頭が良かろうが、綿密な計画を立てようが、そんなものは簡単に崩壊してしまうことに気づくことができない。
この作品が否定しているのは、人を殺してしまうことでも、見栄とプライドに固執することでもなく、そういった「幼さから抜け出せていないこと」なんですよね。
 私はかなり主人公の動機が心底の部分で理解できてしまうし、それで殺人に走るのもよくわかる。つまり私の中にもそういった幼稚さが間違いなくあるわけです。んー、まぁ「何かをやろう」とするとき、ある程度の万能感は(特に取り返しのつくものに関しては)必要だと思うし、使い方を間違えなければ有用だとも思っているんですが。
 それでも最初に言ったように「自分の幼さを直視すること」の重要さを、かなり突き付けてくる作品で。それがそれなりに私には刺さりましたね。
 
 いや、でもたぶん私なら、もっと上手くやれると思います!!!

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 次回は『デューン 砂の惑星 PART2』評を予定しております。

 この話をした配信はこちらの15分ぐらいからです。


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