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一週遅れの映画評:『近江商人、走る!』エンタメつっときゃ逃げれると思ってんなら、大間違いだかんな。

 なるべく毎週火曜日に映画を観て、一週間寝かしてツイキャスで喋る。
 その内容をテキスト化する再利用式note、「一週遅れの映画評」。

 今回は『近江商人、走る!』です。

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 映画評としては新年2回目なんですけど、作品としてはこれが新年一発目となります。まぁ「一週遅れ」だからね。これが今年の命運を占うと言っても過言ではないんですよ! 過言にしたいけど! だってひどかったもの!
 一応ね、見た映画をこう良かった順に並べて整理してるんです。年末にササッと個人的なランキングを提示できるように。だからいまのところこの映画は暫定1位なんですけど、このまま毎週ごとに順位を下に下に刻んでいって最終的にワーストになる予感さえある……今年最初が最下位ってことある? もうダメです、今年はダメ。
 
 この作品、主人公が商才を発揮してのし上がっていくって話なんですけど、概ね5つのパートに分かれるんです。
①幼少期、接客力と語りの上手さで商売の才能を見せ始める。
②米問屋の丁稚になり、ぶっきらぼうだが細かなデータを暗記して役立てる。
③怪我をした職人のために、組合と傷病手当の制度を作る。
④町の茶店を人気店にするため、看板娘を歌って踊らせ人気にさせる
⑤新しい技術を導入して、遠方の米価格をいち早く知れるシステムを構築

 あのですね、なんか人格がバラバラすぎやしないかい? それぞれの話はまぁまぁまぁありえる、というか「時代劇風のエンタメ商人作品をやりますよ」ってなったら一応やっても許される範囲だとは思うんです。ただこれを一人の人間が全部こなすっていうのがちょっと無理あんじゃん!
 
 だって①幼少期エピソードなら「気配りと営業スマイルと口八丁」があるのに、②データ暗記クンのときは笑顔の「え」の字もない朴念仁で、暇さえあれば過去の帳簿をずっと読んでるって感じなの。お前成長過程で何があったよ? そっから③の組合を作るときは「みんな、俺に金を預けてくれ!」とか言い出すの。無理じゃない? ここまで別に主人公が町民から信頼を得てる様子とかほぼ無かったじゃん。なに? 江戸町民は詐欺に弱いの?
 
 まぁここまでは「商売にはひたむきで真面目」みたいなのでギリギリ回収、できてないけど、したとするわ。そっから④の看板娘アイドル化計画はマジでわかんない。なんかな、近くにちょっとセクシーな格好をして客を集める茶店に人気を取られてしまった、というところから話がはじまるんですけど。もうこの時点でテイストが『カブトボーグ』の「はす向い」シリーズなんよ。いや『カブトボーグ』はめちゃくちゃ面白いから、この例えは間違ってんだけどね!
で客を取られた茶店の看板娘が「お客を取り返したい、でもあんな卑怯な手段は取れない!」とか言ってんのね。ここまでの流れだったら「なるほどね、主人公が尽力してお茶と団子の質を上げて、そういう茶店としての本分で逆転するのね」とか思うじゃん。なのに急に歌と踊りでアイドル化させて人気を呼ぶのよ。
それも敵対店には「あんな着物を着崩して肩なんか見せて、花魁じゃあるまいし!」とかdisってんのに、アイドル化したときはもう股間が見せそうなくらい着物を裾を切り上げて切り上げて、どう見てもお前の方が卑猥じゃない? って感じなのさ。
 
 あのねぇ、私はこのエピソードが超嫌いで。これって要は「キャバクラvsアイドルの現場」みたいな話じゃない。私はキャバとアイドル、それぞれに理屈はあるし、それぞれに問題があると思ってるのよ。だから単純に比較はできないし、むしろ客の要望としては全然別の商売だと思ってるのね。
だからこうやって「キャバクラは卑怯なカス! アイドルは素晴らしい!」みたいな話を何の抵抗もなくやっちゃうことが、すげぇ嫌。あれでしょ? 私は基本的にフィクションを見るとき、演者とかいわゆる”中の人”とかにはできるだけ意識を向けないようにしてるんですよ。それでもこんな露骨にやられてしまうと「あー、この看板娘役の人たぶんアイドルなんだろうなぁ」ってわかっちゃうじゃないですか。
 はっきり申し上げて、そういうことを感じさせてしまう時点で、作品としては失敗です。いやね、そういう”中の人”が目当てで見てる人や、役者論とかでそこを中心に論じることは何も間違っていないし、そういう趣味趣向の人が”中の人”を意識するのは当然だからそれはいいんです。
だけど「意図的にそこを無視しようとしている」人間にまで”中の人”のことを思わせてしまう、というのはひとつのフィクションとして成立していない/できていないってことなんですよ。それは端的に「これは失敗作ですね」という烙印を押されても仕方ないんじゃあないでしょうか。てか押した、私は押した

 で、そういうモードに入ってしまうと作品の粗が気になってしまうわけですよ。言葉使いが明らかに江戸時代って背景と合ってないところとか、物理的/時間的に不可能な速度で人間が移動してたりとか。
特にキャラクターの陳腐さが……主人公たちを陥れようとする悪代官がさぁ、大福の下に小判を敷き詰めたワイロを「ぐっふっふ」とか笑いながら受け取っていたり、自分の部下を馬にしてそいつに跨っていたりと、もう「わざとそういう安っぽいことで、いわゆるスカシ的な悪ふざけなんですよね? まぁだとしても完全にスベってますけど」としか言い様がない。
 なんかポスターには「エンタメ」とか書いてありますけど、エンターテイメントは手抜きや駄作の言い訳じゃあないんですよ。主人公の行動に一貫性がなく、時代考証もめちゃくちゃで、展開もおかしければ、社会性も風刺もない。普通に稚拙で退屈なものを「エンタメ」とか言っておけば「やだなぁギャグですよ、ギャグ。エンターテイメントがわからない人だなぁ(笑)」って誤魔化せるとでも思ってんのか!? そんなんで逃がさねぇぞ。こっちは1月3日にこんなもん見せられてんだ、このぐらい言われるのを覚悟しやがれってんだ。
 
 でね、ちょっと思ったのが「時代考証のめちゃくちゃ」さで。これがもし「タイムスリップした現代人が……」とかだったら、まぁ一応は飲み込める展開がいくつかあったの(逆に言えば「当時の思想とか社会で、それはねぇだろ」ってのが多いということだけど)。そういう意味では「異世界転生チートって倫理的なんだなぁ」と改めて気づきましたね。無茶なことをやらせるのに「だってこのキャラクターは無茶ができるから」って理屈を付けるのは、むしろ誠実な態度なんだな……とか思いました。
 
 最後に「いやタイトルの『走る』って、お前が走るんかい!」というズッコケ感と、突然最後ににあらわれて全てを強引に解決していく人物の顔を見た瞬間、私は爆笑してしまったので、そこは面白かったです。そこだけは。そこだけはな。
 
 いやー、2023年。幸先、悪ぃ~~~~~~~~~~~!!!

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 次回は『噓八百 なにわ夢の陣』評を予定しております。

 この話をしたツイキャスはこちらの18分ぐらいからです。


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