コロナで「困っています」物乞いする35歳 うつむく困窮者に届かぬ支援

>首都圏で新型コロナウイルスの緊急事態宣言が出された今月7日夜。JR新宿駅(東京都)の西改札付近を歩いていると、一人の男性の姿が目に入った。雑踏の中で柱を背に座り込み、うつむいている。手に掲げていた段ボールの切れ端には「コロナ等で色々困ってます お願いします」と書かれた文字。通行人が「少ないですけど」と足元のおわんに小銭を入れていく。「ありがとうございます」。男性はやっと視線を上げた。

話を聞こうと声を掛けた。男性は35歳。コロナ禍で職を失い、再就職もかなわなかった。年末年始は友人宅に身を寄せたが、いつまでも頼るわけにはいかず、路上で過ごしながら「物乞い」をしているという。

毎日新聞 20210112

毎日新聞 提供 通行人へ金銭の支援を求める男性(35)。「顔を写さないなら」という条件で撮影を許してくれた=東京都のJR新宿駅の西改札付近で2021年1月7日午後8時58分、 

都は住まいがない困窮者向けに一時滞在用のホテル1000室を用意しているが、「知人から聞いた」という程度で、詳しい利用方法は知らないという。「とにかくコロナで仕事がない。それだけです」。再び顔を伏せた。

いったんその場を離れたが、どうしても男性のことが気になった。20分ほど後、都の相談窓口の連絡先を記し、渡そうと現場に戻った。だが、すでに男性はいなくなっていた。「3日前にもいたし、けっこう前から見かけますよ」。そばで待ち合わせをしていた若い男女が教えてくれた。

都庁前の食料配布に200人超

男性のような窮状はレアケースなのだろうか。困窮者の支援に取り組む認定NPO法人「自立生活サポートセンター・もやい」の大西連理事長(33)は「同じように困っている人はたくさんいる。特に若い人に多い」と断言する。経済活動が停滞する中で、非正規雇用や日雇いなど不安定な働き方の人たちにしわ寄せが及んでいるのだという。

厚生労働省のまとめによると、コロナ関連の解雇や雇い止めは8万人に上る。大西理事長が関わる都庁前の困窮者向けの食料配布では9日に利用者が初めて200人を突破。前年の同時期より2.5倍に増えた。

国や自治体は対策を取っていないわけではない。東京都は12月21日から、年末年始にネットカフェで過ごす人などへ向けてホテル1000室を用意。さらに緊急事態宣言を受け、利用受付期間を2月7日まで延長すると決めた。

「貧困は自己責任」と考える日本

田村憲久厚労相は12月25日の記者会見で、生活保護について「本当に困窮された方は受ける権利があるので、迷わず申請をしてほしい」と異例の呼びかけを行った。政府は各種の支援金制度も打ち出し、非常事態に対応する構えを見せている。

しかし、そうした仕組みを作っても、困窮者本人に伝わらなければ支援にはつながらない。ホテル提供の制度を利用するのはネットカフェなどで暮らす人が多いとみられるが、都はこれまで、今回の提供に関する周知をネットカフェに依頼していない。「今後もする予定はない」(都地域福祉課)という。

実際、支援現場では「ホテルに泊まれるとは知らなかった」という声が多く聞かれる。都によると、1月4日までのホテル利用者は235人に過ぎない。

さらに困窮者自身の、福祉に対する忌避感も障壁となっている。大西理事長によると、支援機関へたどり着くことができても、生活保護などへ強い抵抗感を示すケースがあるという。

大西理事長は「日本では貧困を“自己責任”と捉える人が多い。そうした人も安心して支援制度を使えるよう、説得や働きかけがなされるべきだ」と指摘。「相談窓口を開けて待っているだけでは限界がある。行政機関は民間の支援団体などと協力して、制度をより積極的に使ってもらう方向にかじを切ってほしい」と語る。

「第3波」で世の中の混乱が続く中、果たして困窮者に支援は行き渡るのだろうか。9日夜、再び新宿駅を訪れたが、物乞いをしていた男性の姿は見つからなかった。【黒川晋史】

<困った時は>

東京都の相談窓口「TOKYOチャレンジネット」

(電話0120・874・225、女性専用0120・874・505)

https://www.tokyo-challenge.net/

※就労で自立を目指す人向け。それ以外の場合は地域の福祉事務所や自立相談支援機関へ

◇厚生労働省のリーフレット「生活を支えるための支援のご案内」など

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_13694.html


(毎日新聞  2021/01/12 16:04) 



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