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指揮者 高階正光先生との思い出

こんにちは。授業支援クラウド「スクールタクト」を開発しているコードタクト代表の後藤です。教育、IT、音楽が専門のEdTech系指揮者です。

私達門下生が敬愛する指揮者の高階正光先生が、1ヶ月前の2021年1月23日に永眠されたそうです。95歳でした。

高階先生について

高階先生は斎藤秀雄に指揮を学び、群馬交響楽団で9年間指揮者をされ、そこから指揮の指導者の道にいかれ斎藤先生の助手を務めました。同じく斎藤門下の小澤征爾さんの兄弟子にあたります。

ご本人は、「プロのオーケストラを10年振って初めて指揮者と言える。私は1年足りなかったから指揮者ではない」とご謙遜されていましたが、日本の指揮者のかなりの方が高階先生のレッスンを受けて、世界に羽ばたいていったという事実が、日本のクラシック界において多大なる功績を残した指揮者であると言えます。

また斎藤指揮法を極めに極め、そこから四分打法、波打ち運動など新たな技法を編み出し、より強固なメソッドに昇華されたのも偉大なる功績です。高階先生の集大成とも言うべき理論はこちらに残されています。

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また、斎藤指揮法は力学を参考に作られていることもあり、物理学に大変ご興味を持たれていて、特に武谷三男先生と深いご親交がありました。

私が大学で物理学を専攻していたので、よくレッスンの合間のお茶の時間に武谷先生の三段階論や脱原爆・脱原発に関する平和活動についてお話し頂いたことが印象的でした。

高階先生との出会い

私が高校1年生の頃、指揮の勉強を始める最初からになります。部活で学生指揮者に指名されて、1つ上の先輩から高階先生の「指揮法入門」を教えてもらい毎日1時間、脱力と叩きの練習を1年間し続けることから始まりました。

高2の夏休みに高階先生に直接習うことが出来る講習会があり、童謡「ぶんぶんぶん」を題材に、叩きと平均運動を教えて頂きました。指揮運動のそれぞれの角度や筋肉の使い方までかなり厳密にされることに驚いたことを覚えています。

その後、指揮の魅力にのめり込んだ私は、音大に行きたいと思い勉強もしたのですが、間に合わず物理学科に入りました。

大学に入っても、指揮を勉強したいという思いは消えず、高階先生へ弟子入りのお願いをしに伺いました。しかし、プロになる人しか教えないと断られてしまいました。

私はそのあたり粘り強い性格なので、折を見てお願いに伺い、翌年レッスンを受ける許可をいただきました。ただし、プロにはならないという条件で生徒にするというものでした(汗)

そこから6年間レッスンを受けさせて頂きました。その間、こっそり音大を受験し合格したのですが、そのことを高階先生に伝えると、「プロにならないという約束で生徒にしたのに、約束を破ったのか!」と少し怒られましたが、「しかし、これまでしっかりレッスンを受けてきたのだから許してやろう」と仰って下さいました。

プロになるのは生半可な努力では出来ないということを伝えたかったのだと思います。

レッスン風景

新大久保のスタジオで毎週月曜日にレッスンを受けていました。4〜6名の生徒が1つの単位となり、お互いのレッスンを見ながら学ぶスタイルです。

1台のピアノを2人のピアニストに連弾して頂く形でレッスンが進みます。2人のピアニストである理由は、指揮の伝達が不十分だとうまく伝わらずピアノがズレるためです。2人がぴったり合うように指揮をするということが1つの目的でもあります。

一緒にレッスンを受けたメンバーにはとても恵まれていました。私の高校の大先輩で、すでに指揮者としての仕事を多くされているIさん、同世代で同じく一般大学から指揮者を目指していたOさん、少し年下だけどすでにコンクールに入賞経験もある超エリートのIさんなど、切磋琢磨できる方とご一緒できたことが本当に良かった。

レッスンは脱力と指揮の基本的な技法である叩き、しゃくい、平均運動をソナチネなどのピアノ曲を用いてみっちりやります。毎週レッスンを受けてもこれだけで2年かかります。

その後、ハイドンやモーツァルトなどの古典派のシンフォニーをピアノ連弾で行います。これも1年以上。
そしてレッスンを受けて3年ぐらい経って、ベートーヴェン、ブラームス、チャイコフスキーなどが題材となっていきます。

やっぱり指揮をするからにはシンフォニーを振りたい!という思いでレッスンを受けるので、初めてハイドンのレッスンを受けた時の高揚感は忘れられません。

レッスンの合間のお茶の時間では、ロマン・ロランの「ベートーヴェンの生涯」についてお話や、先生のお弟子さんである飯森範親さん、十束尚宏さんのお話などをよく聞いたのを覚えています。特に、飯森さんは時折、新大久保のレッスンにも遊びに来て下さいました。

学びを伝える

高階先生からお世辞と思いつつ、「私に指揮姿が似ている。人に教えるのも後藤君はいいかもしれないとね」と仰って下さったことをありがたく覚えており、ご縁が重なり私も10名ほどの生徒さんに対して指揮のレッスンを小さく行っています。

斎藤指揮法を拡張した高階指揮法を後世に残すためにも、私達門下生がレッスンを通して伝承していきたいと思います。




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