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2022夏スタディツアー参加レポート8/24 東京慈恵医科大学 細胞生理・宇宙医学研究室


初めに

 宇宙医学スタディツアー2022夏、2日目となる8月24日、東京慈恵会医科大学細胞生理学講座宇宙航空医学研究室(以下、宇宙航空医学研究室)を訪問させていただきました。この宇宙航空医学研究室は大学に宇宙医学の研究室がおかれている日本で最も古くから宇宙医学研究に取り組んできた歴史ある研究室の一つとして知られています。ここには日本宇宙航空環境医学会の学会事務局が置かれているなど、まさに日本の宇宙医学の重要な拠点となっています。

南沢先生のレクチャー

 まず宇宙航空医学研究室の教授であられる南沢享先生からお話を伺い、宇宙航空医学研究室の歴史を教えていただきました。また、私達へのアドバイスもいただきました。

 この研究室は世間では全く宇宙医学が知られていなかった半世紀以上前に誕生しました。したがって当初は研究に関しては資金面、人材面など多くの苦労があったようです。そんな中行われていた実験には研究員を数日間水に浸ける「水浸実験」など、現在では考えられないような研究が行われていたようで驚愕しました。また宇宙医学の実験が難しい中なんとか模索しながら研究を続けられた先生方の、宇宙医学に対する愛、情熱を感じました。
 そして、”近墨必緇、近朱必赤”と、「必ず最低ひとつ質問を考える」という2つのアドバイスをいただきました。”近墨必緇、近朱必赤”は「志を高く持ち、良き師を求めよ」つまり、良い師匠、良い仲間を大切しなさいという意味です。質問を考えることとは誰かがお話しした内容を理解するため、そしてその人との関係をもつためにも必要だということでした。どちらも宇宙医学を学んでいく上で非常に重要なアドバイスでありました。


暮地本先生のレクチャー

 続いて講座の講師である暮地本宙己先生からお話を伺いました。暮地本先生からは宇宙医学の現状及び今後の展望、宇宙医学に関する研究について説明していただきました。
 宇宙医学は皆様もご存知の通りまだ発達途中の分野であります。しかし昨今の宇宙産業の加速度的な発達に伴い、宇宙医学の推進も求められています。現在宇宙医学に関わるのは宇宙飛行士、フライトサージャン(FS)、研究者というのが主なキャリアでありますが、まだまだ間口が狭い状態です。今後は宇宙医学の発達に伴い、関われる間口も広くなるだろうとおっしゃっていました。研究に関し、暮地本先生は胃、肝臓、毛管内皮などさまざまな研究をされています。その中で宇宙医学に関する研究の一つである、微小重力が胃組織に及ぼす影響に関する研究について紹介いただきました。宇宙では宇宙空間の放射線などの複合的な要因により胃潰瘍や胃炎を発症する人が比較的多いようです。そこで微小重力下における壁細胞の組織学的変化を研究することで、宇宙でも胃の生理機能を保ち、胃潰瘍や胃炎を予防できることを目指されているようです。また他の先生方の研究としては、サルコペニアの防止や微小重力空間での再生医療が行われているようです。さらに近年ではゲノムを網羅的に解析するオミックス解析が重要で、これに加え形態学的手法を掛け合わせた研究が行われているようです。実際に宇宙で実験する機会は非常に少ないため、工夫を凝らしながら研究をされていました。

設備の紹介

 最後に教室を一通り見て回らせていただきながら、設備について紹介していただきました。教室には日本宇宙航空環境医学会の学会事務局のデスクといった、まさに日本の宇宙医学の中心的な場所だと感じさせられるものがありました。研究室は一見すると一般的な研究室とさほど変わらないような見た目ではありましたが、所々に他には見られないようなものが見受けられました。そんな中でGraviteという装置が1番印象に残りました。(右下の写真が外気と遮断された状態で実験を行うことのできる装置、グローブボックス内に置かれた機械がGraviteです。)これは重力制御装置で、直行する2軸により細胞などの試料を360度回転させられるものです。見た目はシンプルですが、この装置を用いた研究は大変興味深いもので、暮地本先生は血管内皮細胞、特に臍帯静脈内皮細胞の無重力環境下での応答を調べることで宇宙における動脈硬化予防につなげる研究を行っておられるようです。

最後に

 今回のスタディーツアーで私は初めて宇宙医学に携わる方にお会いすることができ、中でも日本の宇宙医学を牽引されている慈恵の先生方に、お話を伺うことができました。そんな私にとって今回のツアー全てのことが本当に新鮮であり、これまで宇宙医学のことについてはネットで調べたことがあるだけだったため、先生方のお話を伺いさらに興味が増しました。特にGraviteを前にして先生と上記で述べた研究の話をさせていただいたり、地球上に生物が誕生してから地球の自転のスピードの変化に伴い変化してきた重力に対し、細胞はどのように対応してきたのか、微生物は重力の変化に対して敏感なのに対して私たち多細胞生物は特に支障なく過ごせているのはなぜかなど、この装置を使うとどんな研究ができるのかについて話をしている時は、本当に楽しい時間でありました。
最後にお忙しい中お時間をとっていただきお話ししてくださった南沢先生、暮地本先生に改めて感謝申し上げます。

文責:千歳康弘(大阪大学3年)

 



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