見出し画像

「ワーケーションはアウトドアでなくてはいけない」アウトドアがもたらす新たな働き方とは

スペースキーの小野です。ポストコロナ、withコロナの働き方として最近にわかに注目を集めている「ワーケーション」、みなさんがご存じですか?本記事ではワーケーションの一般的な概念をはじめ、アウトドア×ワーケーションで期待できることなどを専門家にインタビュー。今後の働き方の参考にしてみてはいかがでしょうか。


画像1

株式会社リゾートコミュニケーションデザイン 代表取締役 加藤 文人氏

三井不動産販売株式会社(現 三井不動産リアルティ株式会社)入社。キャンピングカーでのキャンプに魅了され、1995年に新規事業としてPICAを設立。数々のキャンプ場の開発・運営に携わる。2009年に独立。エコビレッジ、パーマカルチャーを取り入れたキャンプ場の開発、地域開発のパイオニアとして日本各地の地域再生・活性化に携わる。


ワーケーションの概念


-よろしくお願いいたします!早速ですが、「ワーケーション」についておしえてください!

まず語源について。ワーケーションとは2010年代に欧米で生まれた言葉で、“Work”と“Vacation”を足した造語です。意味もそのままで、“働く”と“遊ぶ”を融合するということですね。例えば、家族との旅行で「午前中は仕事、午後はサーフィンして遊ぶ」など、1日の中で働く時間と遊ぶ時間を混合させる過ごし方になります。

ワーケーションの1番のメリットは、仕事へ影響を与えずに長期の旅行もできること。「仕事が忙しくて、家族と旅行ができない!」という人にも、仕事を持ち出すことができれば、長期でハワイ滞在も可能になるんです。私はかつて山中湖にPICAというキャンプ場を作ったのですが、目指していたのはまさに仕事もできるキャンプ場。当時はワーケーションという言葉もなかったので、「ワーキングリゾート」と称して(試行錯誤して作りました)その世界観の共有を推進していました。

ワーケーションでよく聞くのが、「遊びに行った先でも仕事するの!?」というややネガティブなご意見。受け取り方は人それぞれですが、外で仕事ができるからこそ長期で遊びに行けるのだと私は捉えています。

-発祥が欧米とのことですが、欧米ではワーケーションはメジャーな存在なのでしょうか?

正直、メジャーとは言い難い。そういった意味では、ブレジャーが主流です。ブレジャーとは、出張の前後にレジャーとしての滞在期間をプラスすること。例えば、欧米の方が日本まで出張にいらして、「せっかく来たのだから京都観光していこう」みたいな過ごし方ですね。だからなのか、日本では京都で行われる学会が人気というのは余談ですが。

働くことと遊ぶことという観点で、欧米でのワーケーションはいろいろな選択肢がある中でのひとつというポジション。就業規則も含めてワーケーションができる会社は、採用において人気があるようです。日本では、まだ就業規則を含めて対応できている企業は少ないかと。「働くと遊ぶを両立する」という概念すらないのが、日本の実情です。

-なるほど。概念すらないというのはたしかに納得です。そういった概念を学ぶ上でも、同時に認識しておくべきキーワードはありますか?

オフィス以外で働く選択肢にはテレワークやワーケーションがありますが、ちょうどその中間にあるものとして「サテライトオフィス」があります。日本でも一時、サテライトオフィスが注目された時期があるのですが、今また再注目を集めているんですよ。(余談:今注目を集めている日本テレワーク協会の前身は、実はサテライトオフィス協会。つまり同じ文脈なんです。)

コロナはこわいけど、ずっと在宅はしんどい。中には車中で仕事をしているような人もいますよね。都心のオフィスへの通勤はリスクが高いけど、自宅から車で10分で行けるような所であれば、リスクも下げられて業務に集中することも可能。オフィスの分散化という流れで、サテライトオフィスという考え方も見直されています。

-密を分散させる考えにも有効ですね。

今携わっているRecampでは、サテライトオフィスにアウトドア要素を持たせた施策として、【Office to go(オフィス トゥー ゴー)】というサービスをスタートさせました。

サテライトオフィスは欲しい。でも必ずしも事務所である必要はないのでは。“キャンプ場にオフィスを持ち出そう”という考えの元、ワーケーションではないけれど、自然の中でリフレッシュしながら働ける環境を提供しました。【Office to go】では、遊ぶと働くの融合を提案しています。いくらキャンプ場といっても、子どもを預かってもらえないと仕事に集中できません。そのような時に子どもを預けられるプログラムがあれば、そこはサテライトオフィスになるし、仕事が終わって自然の中で子どもと遊べば、それはワーケーションになる。このように【Office to go】には、いろいろな可能性を秘めていると考えています。働くと遊ぶ、その間のサービスが注目を浴びているのはもちろん、今後はますます増えていくのではないかと考えています。

-わかります!子どもたちもしっかり遊びに集中できるこういったサービスや施設が増えると、自然とワーケーションも増えていきそうですね!

ただ、問題点もありますよ。ひとつはコミュニケーションに関して。これまでもデザイナーなど、職種によってオフィス以外で働いている人もいましたが、そのような人たちが重要視しているのが「アナログとの使い分け」。大事な部分はFace to Faceでのコミュニケーションを取るなど、その場の状況を読み使い分けることが大事です。

もうひとつは、社会がこの流れに追いついていないこと。今回、コロナの影響で無理やりテレワークやワーケーションせざるを得ない状況になったため、あらゆる場面で追いついていないんですね。家庭環境もそうだし、企業は就業規則や押印対応など対応しきれていない部分が露見した。テレワークになって生産性が1/3になったという試算もありますが、無理やり始めたんだから当然です。逆に、無理やりにでもやってみたことで、課題が洗い出されたのは良かったことですね。課題に対して準備することで、生産性が落ちることなんて絶対になくなるはずです。

この流れは今後止まることはないでしょう。むしろ拡大していくので、この流れに沿って、ちゃんと対応していこうという社会の動きになるのではないでしょうか。逆に、この流れに追いつけない企業は淘汰されていく。企業も人材も、より適性が重視されていく社会にシフトしていくでしょう。いい意味で多様な価値観が評価されるようになり、働き手にとっては選択肢が広がっていく。人事評価を見直し就業規則を整備し流れに追いついた企業だけが選ばれていく世界が予想されます。


ワーケーションリゾートとは


-ワーケーションの一般的な概念は理解できました。次に、加藤さんが提唱する「アウトドア×ワーケーション」について詳しく聞かせてください。

私はアウトドアにおけるワーケーションを「ワーケーションリゾート」と定義しています。遊びと仕事の距離が縮まることとして私が定義した造語なんですが、このように定義したのは日本のワーケーション事情を鑑みてのこと。日本における一般的なワーケーションは、非常にインドアなんですね。ワーケーションと称した日本のリゾート地に行ってみても、仕事をするのはアウトドアから隔離されたインドアなオフィス。窓から海や森などが見える程度で、これではモニターで映像を流しているのと同じで全く意味がありません。

ワーケーションに適した環境は、キャンプかグランピングだと考えます。なぜかと言うと、自然の中で仕事をすることであらゆる相乗効果を得られるから。同じミーティングでも、風を感じながら鳥のさえずりを聞きながら行うのでは、その意味合いが違います。一緒に行く家族にとってもそれは同じで、非日常で過ごすことは気持ちのリフレッシュになる。キャンプ場には子供向けのプログラムも組みやすいので、託児にも向いています。インドアではただの託児所ですが、キャンプ場だったら学びの多い付加価値の高いコンテンツになります。このような観点から、キャンプ場でのワーケーションが日本には適しているのではと考えています。

-世界のワーケーション事情はどうなんでしょうか。

ドイツにあるワーケーション専用の施設「Workation Retreat」では、屋外にミーティングスペースがあったり、Wifiを完備しているので庭のベンチでも仕事ができる環境が整っています。また、バリ島のワーケーション施設はヴィラスタイルで、欧米人にとても人気。どちらの事例も、インドアだけでなくアウトドアの両面で仕事ができる施設を備えています。インドアだけでは仕事にならないでしょ、という考えですね。Weworkのようなオフィスだけのワーケーションは、海外にはほとんどありません。アウトドアの要素もあるからこそ「ワーケーション」と謳える。だから私は、ワーケーションリゾートは、アウトドアでなくてはいけないと強く思っています。

ケーススタディ① workation retreat(ベルリン郊外)

ケーススタディ② DOJO BALI COWORKING(インドネシア バリ島チャングー)

https://www.dojobali.org/


-ワーケーションリゾートで期待される効果は何ですか?

1つめは、自然の中にいることで得られる効果があると考えられます。ストレスを抑制したり、リラックス効果を得られたりなど。実証されているものもされていないものもありますが、いろいろな形での実証・研究が現在進められています。

もう1つは、ビジネス的な側面。先日、スノーピーク社と関西学院大学が包括連携協定を締結したと報道されていました。

アウトドアが学びやビジネスに与える影響についても、エビデンスとして確率されたものがないので、それを実証実験されていくのかと。この動きも今後、加速していくと予想されます。私も実際に、PICAでハンモックに寝ころびながらミーティングをしたときに、単純に「気持ちいい!」と感じましたね。なんだか発想も自由になるような、実感レベルではありますがそのようなプラスの効果はあるのではと感じています。


-一方で、ワーケーションリゾートで懸念される課題感はありますか?

向いている人と向かない人がいるのは、事実としてあると思います。ワーケーションに限らずですが、「仕事に没頭してしまう人」「何事も楽しめない人」は向かないのではないかなと。テレワークでも、ずっと在宅で気持ちの切り替えが難しいという声を聞くことがありますが、こういう人はワーケーションも難しいと思います。なので、全員が向いているとは考えていないのですが、今まで選択肢に挙がらずに気づかなかった働き方なので、まずは1回やってみるといいかと!周囲がやっているからと行って、無理してまでやるものではないので、まずは試してみるといいと思います。

これは受け入れ側も一緒で、流行っているからと全部の施設で推し進める必要はないかと。施設ごとにも向き・不向きを判断しながら、各自が無理せず進めていくのが大事なのでは。

-職種による向き・不向きもあるのでしょうか?

職種というよりは適性や志向性ですね。テレワークも同じですが、指示を待つだけの人は難しい。逆に、自分の業務をちゃんと把握・管理できる人は向いています。業務をモジュールごとに細かく分けて、その中で外に持ち出し可能かどうかを判断します。今って、この業務の棚卸し・切り出しをするには絶好の機会。この機にタスクを把握して「この部分だけワーケーションしたい」と主張できるくらいの人が向いているのではないでしょうか。


今後の「働き方」と「暮らし」


-日本の働き方とワーケーションリゾートについて、今後はどうなるとイメージしていますか?

働き方への選択肢が増えて、今敏感になっているのは住宅業界や不動産業界。オフィスを持たない企業が増え、相対的なニーズは今後も減っていくことが予想されています。売買以外での新規事業を考えたいというオーダーも実際にいただいているので、より業界としての多様性や価値の提供が重要になっていくのだと思います。

ここで重要になってくるのが、「マルチハビテーション」という考え方。

多様な居住を意味する言葉なのですが、ワーケーションの加速によってこのライフスタイルの実現が現実味を帯びてくるでしょう。現在、ほとんどの人が1か所に定住していますが、これは「働くこと」と「教育」が要因となって定住せざるを得ない状況になっていたため。しかし、働くことがフリーになった今、教育もフリーになれば、もはや定住の必要はなくなります。夏は北海道、冬は沖縄など、住むところに拘束されない生き方の実現が可能となってくる。

最近では、採用の条件に居住地の制限をしない企業も出てきているようです。こういった動きにより、定住から解放されていく人がもっと増えていくのでは。この流れを受けて、Recampでも受け皿としてのワーケーションリゾートという場面を想定して準備もしています。「宿泊」と「住む」の垣根を越えて、自由に生き方を選べる時代が来るのではと期待しています。

-なんだかワクワクしてきますね!

具体的な動きとして、今アメリカでは「VAN LIFE(バンライフ)」がじわじわと増えています。バンライフとは、車(バン)で移動しながら生活するライフスタイルのことで、これが究極の住まい方ではないかという見方もあります。働くことがフリーになり、今までなかった選択肢が見えたことでやる人が増加。それが大きなトレンドとなりつつあります。「働く」「暮らす」「遊ぶ」の垣根がなくなり統合された世界へ。そのとっかかりとしてワーケーションが大きな意味をもたらしています。

-バンライフはいつ頃から始まったのでしょうか?

バンライフ自体は以前から存在していて、30年ほど前にアメリカ視察をした際にもいました。その当時のバンライフというと、1つは低所得者層。もう1つは余裕のある高齢者が郊外のリゾート地に、巨大なキャンピングカーで過ごすパターン。

現在はその2つの層にプラスして「タイニーハウストレンド」というものがあります。コロナによって、この動きが再認識されてきたという流れですね。

“低所得者層”と“リタイアの富裕層”、その中間にあるのがバンライフ。アメリカではおしゃれなライフスタイルというイメージが定着しています。

-人類の進化を見ても、おもしろい流れがきていますね。

そうですね、人類と移動の歴史はとても興味深いものがあります。ざーっと歴史を振り返ると、以下のような経過ですね。

【人類の移動の歴史】
農業革命により、狩猟生活⇒農耕生活となることで、移動から定住へ
 ▽
仕事のための移動(テンポラリーに定住、遊牧しながら移動する生活)
 ▽
宗教としての移動(富士講やお伊勢参りとしての移動が流行する)
 ▽
観光・レジャー(キャンプも含む、レジャーとしての移動が流行する)
 ▽
いまここ

移動の流れ表

定住から遊動へ。人間は元々、遊動するほうが楽であり向いている種族だと言えます。ずっと定住するのは厳しい、だから人は旅行したくなる。このスパイラルに対応するのが、マルチハビテーション。だから、この一連の動きはブーム(一過性)ではなくトレンド(長期的なもの)なんです。サイクルが5年10年早まった感はありますが。


全業界への提言


-アウトドア業界は今後、どのように変化していくのでしょうか。

アウトドア業界にとっては勝機がめぐってきたと言えるでしょう。私自身も1995年にPICAを立ち上げて以来この業界に携わっていますが、キャンプ史上最大のチャンスだと感じています。

一番のポイントは、最大の課題であった平日の稼働率に改善の兆しがあることです。これまでもキャンプ場は、平日の稼働がほぼ0%でも利益を上げてきましたが、このワーケーションによって稼働が増えることで、コストはそのままに利益だけがアップする。「宿泊業全体で言えることでは?」と思われるかもしれませんが、平日にこんなに空室を持っているのはキャンプ場だけなんです。最大のメリットである「利用日の平準化」を定着させれば、キャンプ場は新たなフェーズに進化する可能性があるでしょう。

-たしかに、平日問題が解決されるのは大きいですね。

アウトドアに限らず経済全体で見える変化として、お客様を取り巻く状況が毎週アップデートされている点があります。つまり、変化が早すぎてマーケティングが追い付かない状態ですね。

なぜその状況が生まれたかと言うと、皆さんコロナの感染者数など毎日リアルタイムでチェックしていますよね。政府の発表をはじめ学校行事なども、日々日々更新されています。そのようなスピード感なのに、“マーケティングを試してから実行”では遅すぎる。そのスピード感ではデータが陳腐化していて全く意味がない。これからは、状況を瞬時に把握しとにかくやってみることが大事になるでしょう。業種に関わらず、市場の反応を見ながらとにかく回す。しばらくこの特殊な時期が続くと予想されますので、このスピード感についていけない企業は今後厳しくなるでしょう。

-全ての企業がスタートアップみたいですね!

スタートアップの感覚で進めることが大事ですが、それよりももっと早いイメージですね。PDCAでは遅くて、正直なことを言うと誰もP(Plan)なんて立ててないんですよ。D(Do)とA(Action)を繰り返せばいいのだと。ちなみに私は“RCD”をスパイラルに回す方法で、普段業務を進めています。

Realize:状況判断 新しく認識する
Come Up:思いつく
Do:やる
→それをスパイラルに、3次元に回していくイメージ

事実、Recampではそのスピード感で事業を進めています。1週間後には状況が大きく変わっている。そのつもりで状況を把握し、やってみることが大事ですね。

-これを実現するには、組織体制も重要ではないですか?

こういう文脈があって、その文脈があれば試していいという環境を用意してあげるのが理想です。ざっくりとした枠取りがあるのが本来、その上で自由にやれる環境があるのがベストかと思います。

-組織も変化に対応していくことが大事なんですね。ワーケーションとアウトドアについて、よく理解することができました。本日はありがとうございました!