short story series『知らない』  person 05

作・橋谷一滴

朝9時セブンイレブン前
右手にブラックのアイスコーヒー、左手にタバコ。買い物袋には大きめのカップ焼きそば。
ラフな格好。顎髭32歳男。


たいして好きでもない芸能人が覚醒剤で捕まった。
でもなぜか彼がやったならしょうがないと思った。それと同時に彼がやったのなら自分もやるんじゃないかと怖くなる。
でも僕には彼女がいるし、彼女がいるからなんだとも思うけどここでちょうど彼女から電話がかかって来て意識が戻ったので大丈夫だ。
「はい。もしもし、」
ねーちゃんだった。
やっぱりやばいかもしれない。そもそも僕には彼女なんていないじゃないか。試しにやった自己暗示にまんまと騙された。
あ、コーヒーが無くなる。
カップの中を眺めると、まだ生きた氷が光って見えてなんだかどうでも良くなってきた。
家に帰ろう。帰ったら焼きそばを作る。僕には午前中にそんなことをしてしまえる余裕がある。そうだ。
タバコの火を消してカップを捨てると塞がっていた両手が空いて身軽になった僕は今なんでもできそうな気分だ。
午後、まだ気分が良かったら仕事を探そう。
悩む時間もないくらいお金のもらえる仕事を。

コンビニを後にする。
さっき氷を照らしていた日差しが、僕を照らしはじめて
なんだか眠い。

2018年10月26日

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