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「スパイスが免疫に効くんです!」を堂々と宣伝したいがために調べてみたこと。

コロナウィルスの感染拡大を受けて客足が遠のくなか、インド料理店を営む者としては、「スパイスで免疫力を高めよう!」と堂々と宣伝したいのにそのメカニズムがよくわからなくて、宣伝にいまひとつ力が入らない葛藤を抱えていたのですが、このたびナンとなくその仕組みがわかった(気になれた)ので、ネットでかき集めた情報をまとめました。ウイルスを入り口に調べたのですが、免疫はウィルスだけでなく細菌や、病変による腫瘍などにも作用します。また、食品に含まれるいくつかの化合物の成分は(そのなかにスパイスの成分もあるわけですが)、抗炎症作用を発揮して免疫システムを補完し、とりわけマクロファージの極性化に好影響を与える(より正確にはマクロファージのM1とM2両極の表現型のうちM2表現が出るように働く)ようで、その食品化合物の働きについてまとめました。

1. ウィルスとは何か

ウィルスは遺伝子である核酸(DNAかRNA)を中心にその周囲を蛋白の殻(カプシッド capsid)で包んだ構造(この構造をヌクレオカプシッドという)をとり、種類によっては,ヌクレオカプシッドの外側に脂質と糖タンパクからなる被膜(エンベロープ envelope)を形成します。
http://www.med.akita-u.ac.jp/~doubutu/kansensho/virus17/kouzou.html

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2. 免疫反応とは何か

ウイルスは人間の体内に侵入すると、細胞の中に入り込んで核酸の遺伝情報を細胞内で複製し、増殖を試みます。ただし、すべての細胞というわけではなく、ウィルスは特定の細胞(例えば肺の細胞)を増殖の標的地にするのですが、これがウィルスの(人体を経由して細胞への)感染です。免疫反応とは、ウイルスに感染された細胞を破壊しようとする体の反応です。免疫反応の一連のプロセスは、免疫を司る白血球の中の以下の免疫細胞(以下【 】表記)の活動です。
【マクロファージ】が感染したウイルスの情報を集め、集めた情報を免疫反応の“司令官”である【T細胞】に伝え、
【T細胞】はウィルス撃退のために2つの方法をとります。
 ー1 ウイルスに感染した細胞を探して破壊するようにキラー【キラーT細胞】に命令し、ウィルスを死滅させる。
 ー2 ウィルスに合う抗体を作るよう【B細胞】に指令を出し、作られた【抗体】がウィルスを死滅させる。
https://www.chugai-pharm.co.jp/ptn/bio/antibody/index.html
http://www.tmd.ac.jp/mri/koushimi/shimin/ouchi.pdf

抗体はリンパを流れ抗原近くまで移動したら、抗原(ウィルスに感染した細胞)と結合し、抗体と結合した抗原を食べる貪食細胞である【マクロファージ】や【好中球】を活性化させて抗原を除去(食べ)させます。異物を食べた【マクロファージ】は、より効果的に異物を排除するため、インターロイキン-1、インターロイキン-12、TNF-α(腫瘍壊死因子アルファ、発熱や種々の炎症反応を惹起する遺伝子)などのタンパク質を分泌し、さらに免疫機能を活性化します。
https://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_3115.php

インターロイキンは、免疫応答の調節のためにリンパ球やマクロファージが分泌するペプチド・タンパク質の総称。
http://www.kenq.net/dic/110.html

正常組織または炎症組織を問わず、生体のほぼすべての組織に存在する【マクロファージ】は,細胞の外から受けたシグナルに応答して機能や形態を変え,組織の恒常性維持や,炎症・免疫反応に寄与します。不可逆的とされる細胞分化とは異なり,分化し成熟した【マクロファージ】は異なる組織微小環境の変化に応答し、組織における恒常性の維持に寄与すべく、自身の性質を柔軟に変化させます。具体的にはマクロファージは、「炎症誘発性のM1表現型」と「抗炎症性のM2表現型」の2つのフェノタイプという、両極な性質に変化することから、【マクロファージ】の「極性化(polarization)」とよばれています。
https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/3802.html
http://first.lifesciencedb.jp/archives/8751

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要約すると、ウィルスに感染した人間(正確にはウィルスに感染した細胞を持つ人間)は、人間が自身の免疫反応の担い手たちの活動を活性化させ、ウィルスを死滅させる(ウィルスに感染した細胞を死滅させ体外に排出する)のですが、その反応(免疫反応)の主たる担い手がマクロファージです。従ってマクロファージがしっかり活動できる環境を直接に間接に作ることが免疫の活性化と言えるわけですが、厄介なことにマクロファージにはM1/M2の極性化という性質があって極性化しすぎてもよろしくないようです。適度に極性化させ、M1表現型を制御できればいいということのようですが、その仕組みは未だ解明されていないようです。

3. マクロファージの極性化に寄与する物質

天然化合物のうちいくつかの物質は、マクロファージの極性化に影響を与え、M2表現型を通じて抗炎症効果を発揮すると知られています。つまり、こういった天然化合物を食事で摂取できれば、免疫活動の主役であるマクロファージの活性化に役立つわけです。

以下、マクロファージの極性化に好反応を与える化合物について書いた、Macrophages: Their role, activation and polarization in pulmonary diseases の拙訳です。極力わかりやすく補説したつもりですが、かなり難解です。

Shweta Aroraa, Kapil Deva, Beamon Agarwalb, Pragnya Dasc, Mansoor Ali Syeds,
'Macrophages: Their role, activation and polarization in pulmonary diseases'
"Immunobiology"

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0171298517302073

3-a. シコニン

シコニン(ムラサキの根抽出物の主成分)は、先述した腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)の転写活性を阻害し、抗炎症治療薬にも転用できる可能性がある。
ムラサキは花は白色ですが、根は紫色で昔から染料や生薬「シコン」として利用されてきましたが、今はあまり利用されず絶滅も危惧されています。https://khaawsflowerpicture.com/2018/06/16/purple-gromwell/

3-b. クロロゲン酸

クロロゲン酸(コーヒー、リンゴ、ナシ、緑茶に含まれるフェノール化合物)は、中枢から末梢にわたる多彩な生理活性を司り生体内に最も豊富に存在するプロスタノイド(PGE)合成及びシクロオキシゲナーゼ−2(COX-2、プロスタグランジン類を生成する)のNF-κB(nuclear factor-κB )の阻害を通じ、また2つの転写因子JNK (c-Jun N-terminal Kinase、細胞外からの様々なストレス刺激や発生プログラムなどの内因性シグナルを細胞核へ的確に伝達するための主要なシステムの1つ)並びにAP-1(activator protein 1、サイトカインや成長因子、ストレス、バクテリアやウイルスの感染など様々な刺激に応答して遺伝子の発現を制御する)の活性化抑制を通じ、抗炎症作用を有する。https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/120/6/120_6_373/_pdf

プロスタグランジン(Prostaglandin, PG)は、動物の組織や器官、軟サンゴなどに存在し、アラキドン酸より生合成される生理活性物質であり、プロスタグランジン(Prostaglandin, PG)の代謝関連の誘導物質を含めてプロスタノイド(prostanoid)と呼ぶ。
https://www.pharm.or.jp/dictionary/wiki.cgi?プロスタグランジン

NF-κB(エヌエフ・カッパー・ビー、核内因子κB、nuclear factor-kappa B)はタンパク質複合体で、免疫反応において中心的役割を果たす転写因子の一つ。ストレスやサイトカイン(免疫系細胞から分泌され、細胞間の情報伝達を担うタンパク質)、紫外線等の刺激により活性化される。つまりNF-κB活性の制御ができないと、クローン病や関節リウマチなどの炎症性疾患をはじめ、癌や敗血症性ショックなどの原因となり、特に悪性腫瘍では多くの場合NF-κBの恒常的活性化が認められる。

転写因子はDNAに特異的に結合するタンパク質の一群で、DNAの遺伝情報をRNAに転写する過程を促進、あるいは逆に抑制する。

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3-c. ACA

ACA(ベニクスノキダケ(樟芝)の菌糸体抽出物から得られる糖タンパク質)は、TLR2/MyD88依存経路(MyD88がないと通れない経路)を介してマクロファージを極性化させます。したがって、マクロファージのM1表現型(上述)を示す炎症誘発性を制御します。
ベニクスノキダケ(樟芝、Ruby Mushroom)は台湾にだけ生息するキノコで、台湾の天然記念樹。

TLRとは、主にマクロファージや樹状細胞などの自然免疫系の細胞が持つ細菌やウイルスなどの特徴的な構造(分子パターン)を見分けるセンサー(受容体)でToll様受容体(Toll Like Receptor、TLR)と呼ばれ、ヒトでは現在までに10種類のTLR(TLR1~10)の存在が確認されている。

MyD88(myeloid differentiation factor 88)は、ミエロイド系(骨髄系)分化因子88、マクロファージの極性化を誘発する物質の伝達に関与している物質。

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3-d. オニオンA

オニオンA(玉ねぎのアセトン抽出物から単離された硫黄含有化合物)は、抗炎症性のM2表現型マクロファージの極性化を阻害することにより、腫瘍細胞の増殖を抑制する。

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3-e. クルクミン

クルクミン(ジフェルロイルメタン、ウコンの黄色色素)は、LPS曝露(細菌の菌体毒素であるリポ多糖(LPS)と接触すること)時に、TREM-1受容体の阻害によって誘発される抗炎症作用を示すが、これは、TREMプロモーター(DNAにおける遺伝子の転写制御を行う領域)のp300(DNA腫瘍ウィルスの癌蛋白質が結合する細胞の標的蛋白質としてみつけられた核蛋白質)活性を阻害し、クロマチン(DNAとタンパク質の複合体で、遺伝子の活性化・不活性化に関与し、分裂期には染色体となる)のリジン残基のヒストン3および4の低アセチル化を含むエピジェネティックな変化(DNAが置かれた環境により受ける変化)を引き起こします。 これにより、NF-κβのp65コンポーネントのTREM-1プロモーターへの結合が減少し、TREM-1発現が抑制されます。

TREM-1受容体(Triggering receptor expressed on myeloid cells 1 (TREM-1)、骨髄細胞上のトリガー受容体)は、炎症性サイトカイン(細胞から分泌されるタンパク質で、細胞間相互作用に関与する生理活性物質の総称。標的細胞にシグナルを伝達し、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現など多様な細胞応答を引き起こす。免疫や炎症に関係した分子が多く、各種の増殖因子や増殖抑制因子がある)の分泌を増幅させる。

ヒストン(真核生物の大きなゲノムを細胞核にはめ込むのに必要な圧縮を可能にし、DNA鎖の核内への収納に関与しているタンパク質)にアセチル基が付加されると(ヒストンのアセチル化)ヒストン中の特定のリジン残基のアミノ基(-NH2(-NH3+))をアセトアミド(-NHCOCH3)に変換することにより電荷を中和し、ヒストン-DNA間の結合を部分的に弱める。クロマチン構造が弛緩することで,DNA鎖に対して転写因子やRNAポリメラーゼ(PolⅡ)がより結合しやすい状態になり、遺伝子の発現が正に制御される。一方,アセチル化が除去されると(ヒストンの脱アセチル化)アセチル基が加水分解により除去され、元のアミノ基に戻ることによりヒストンへのDNAの巻きつきが強められクロマチン構造が凝縮し,遺伝子の発現が抑制される。ヒストンのアセチル化は,アセチル基をヒストンに付加するヒストンアセチル化酵素(histone acetyltransferase:HAT)および,ヒストンからアセチル基を取り除くヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)によって制御されている。

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https://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_3609.php
https://www.medience.co.jp/research/04_04.html
https://sangakukan.jst.go.jp/journal/journal_contents/2010/06/articles/1006-02/1006-02_article.html
http://www.kenq.net/dic/110.html
https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/3778.html

4. 免疫システムを活性化させる献立

免疫反応を活性化させるにはリラックス、睡眠、食事、笑い、などいろいろありますが、活性化させる要素の一つとして知られるものが「スパイス」です。ネギ(葱)やショウガ(生姜)、ニンニク(大蒜)、ターメリック(鬱金)、シナモン(肉桂)、スターアニス(八角)を摂取すると免疫の活性化に役立つと古来より知られていることは、これまでの人生、経験、実感も含め、否定できないと考えています。ただその科学的メカニズムがよくわからない。すくなくとも上記3.の拙訳で理解できたことは、スパイスに限らずいくつかの食品で摂取できる化合物は免疫の活性化に寄与できるということです。

先の3.に登場した、シコ二ン、クロロゲン酸、オニオンA、ACA、クルクミン酸を総動員すると、免疫活性化にバッチリなメニューができあがるのかもしれません!?。

「ベニクスノキダケ(ACA)」と「ムラサキ(シコニン)」をメインの素材にした、「たまねぎ(オニオンA)」ベースのカレーに、すりおろしりんご(クロロゲン酸)とターメリック(クルクミン)を使ったカレー、なんてどうでしょう?

とはいえ手に入らない、入りにくい食材もありますから、

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* ACAを含むベニクスノキダケの代わりには干し椎茸を(生椎茸は加熱で縮んでしまうので、水で戻した干し椎茸を)

* シコニンを含むムラサキの代わりには同じネバネバ系で近縁のモロヘイヤを(あるいはほうれん草)、

使います。レシピは近日公開します。

5. はみ出し情報

5-a. 次亜塩素酸

ウィルスを攻撃するときの免疫の武器は、血液を通じて「酸素」を取り込み「活性酸素」をつくりだし、そこからさらに生成される「次亜塩素酸」です。【免疫細胞】は次亜塩素酸を使ってウイルスを攻撃するのです。コロナウィルス対策でいくつかの地自体で次亜塩素酸を配布しているのはそのためと思われます。
中国では次亜塩素酸ナトリウムを主要成分とする「84消毒液」がスーパーなどで一般的に売られており、コロナ対策で希釈せずに室内に散布し換気を怠っていたところ、高濃度の化学物質を肺胞に繰り返し吸い込んだ状態となり、アレルギー反応によって炎症が起きた事例もあります。
日本でも、ウイルス対策として、厚生労働省や自治体などのHPに、ハイターやブリーチなど塩素系漂白剤を水で希釈して次亜塩素酸ナトリウム消毒液を作る方法が紹介されていますが、用法用量にはご注意願います。
https://www.oote-itsuki.com/about_jiasui.html
http://www.city.yamato.lg.jp/web/kanzai/ziahaihu.html
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200421-00134597-fnnprimev-int

5-b. アルカリ食品のウソ

一時期アルカリ食品が脚光を浴びましたが、いまでは「とんでも健康法」としてすっかり認知され、あまり取り合ってもらえていないのは素晴らしいことかもしれません。コロナの渦中でもアルカリ食品が効く、体を酸性じゃなくてアルカリ性にしよう、みたいな宣伝を見かけましたが、科学的に考えると違うようです。健康な状態のヒトの体は、体の恒常性を保つために体が酸性になると酸性物質を体の外に出し(腎臓により排尿、肺により呼吸)、血液を酸性でもアルカリ性でもない生理的pH(ph=7.4)に保とうとします。アルカリ性食品をいくらたくさん食べても、体(血液)がアルカリ性になることはないのです。
http://www.kraft-net.co.jp/yakushokudogen/yakushoku57/

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