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自宅で「お濃いチャイ」を淹れるために知っておきたいチャイのはなし。

スパイスの効いたインドのミルクティー「チャイ」。紅茶の味もミルクの味もしっかり出て、スパイスがミルクの油脂分に溶出された美味しい「お濃いチャイ」を自宅で入れるための情報です。

自宅でチャイを美味しく淹れるために知っておくこととして、1)何を(材料)、2)どうやって(レシピ)、淹れるのか、について紐解いてみたいとおもいます。

ところでチャイは、スパイスを入れないチャイ(砂糖と生乳を使ったミルクティー)と左記のチャイにスパイスを入れたチャイ(マサラチャイ)がありますが、ここではマサラチャイをチャイとして書き進めます。

1. 何を(材料)

1-1. 茶葉

紅茶の茶葉には複数の銘柄があります。日本の緑茶と同じように、紅茶の茶葉も銘柄の別は産地の別に重なっていて、インドにある大きく3つの紅茶の産地はそのまま大きく3つの銘柄になっています。
1. ダージリン(北西部のシッキム州、ブータンとネパールに挟まれたあたり)、
2. アッサム(北西部のアッサム州、バングラディッシュ とブータンに挟まれた辺り、インド最大すなわち世界最大の紅茶葉産地)、
3. ニルギリ(南部タミルナド州南西部の山間部)です。
それぞれの産地でさらに、摘葉の時期や産地での細分化された場所に関連して多くのブランドが知られています。

上記の紅茶葉のなかで、チャイ茶葉にはアッサムCTCがおすすめです。「アッサムCTC」って何でしょう?アッサムの紅茶葉は、茶木の育つ環境(平地、湿潤、陽光)の影響で比較的大きな茶葉、タンニンを多く含む深い発色と渋みの出る茶葉、が育ちます。CTCは「Crush, Tear, Curl」という製茶法の頭文字の略称です(CrushやCurlに代えてCutという説もあります)。
https://blog.englishteastore.com/2010/09/09/what-is-ctc-assam/

アッサムの紅茶は葉っぱが大きいので、製茶の工程で、茶葉を平たくし(Crush)、均一の大きさに裁断し(Tear)、くるっと丸める(Curl)、CTC製法を採用します。茶葉はCTC製法のおかげで、均一の大きさのコロンとしたビーズ玉のようになっています。裁断面があるので茶の成分が外に出やすく、丸めているので茶葉の表面積も広いため、ちょっとの量でも濃く渋いお茶を抽出でき、ストレートで飲むと味も香りも渋い方向に出るのがアッサムCTCの特徴です。このアッサム茶葉の特徴から、アッサムCTCはミルクと併せてミルクティーにするとよいと言われています。

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[写真]アッサムCTC茶葉。高級なものほど大きく綺麗に丸まり、低級なものほど丸まり方がが不揃いでかつぼろぼろになったものが混ざっている。

アッサムCTCのほかにチャイに向いた茶葉はないのでしょうか?これは個人の好みの問題なので何とも言えません。湯にさっと浸せば香りも成分もしっかり出るダージリンのようなお茶はストレートでこそ真価を発揮し、チャイには向いてないと思いますが、そのほうがいいという人もいるのが世の中です。個人的にはスリランカのディンブラもチャイ向きだと思います。でもこの茶葉はすこし高いです。

1-2. 牛乳

チャイに使う牛乳は何でもいいのかと言えばそうでは無いです。成分無調整以上の脂肪分を含んだ牛乳がおすすめです。「脂肪分」がなぜ重要かと言いますと、コクを出す効果と、スパイス成分の溶ける先が油脂分だからです。低脂肪乳や豆乳でさっぱりしたチャイというのも現代的ですが、やはり牛乳と煮出して油脂分にスパイス成分が溶け込んだ「お濃いチャイ」が魅力的です。では脂肪分は高ければ高いほどいいのかというと、これは個人の好みの問題なので何とも言えません。意図的に脂肪分を高めるために生クリームを入れたり、バターを落とすチャイもあるのは、スパイスとの相性に加えてチャイにコクを求めたためです。ただ油脂分の摂取は健康との兼ね合いもありますので、家庭で楽しむチャイであれば、成分無調整牛乳、せいぜいジャージー牛乳(高いけど)でよろしいいのではないかとおもいます。また油脂分が高過ぎますと、往往にして紅茶の風味は相殺されてしまいます。

蛇足ですが、菜食の多いインドでは動物性タンパク質の摂取機会として牛乳を、ストレートで飲むのではなく、加熱して美味しく継続的に摂取できる方法としてチャイが位置付けられているのではないかと思います。

1-3. 水

紅茶の成分を上手に引き出す水はどんな水なんでしょうか?水を考える際の要素は3つあって、1)硬度(ミネラル含有量、多いと硬水、少ないと軟水)、2)含む空気(酸素)の量、3)ph(酸性・アルカリ性)です。紅茶に限らずお茶類の茶葉中の成分は、水中のミネラル分と反応して香や色を溶出しますが、溶出の触媒となるのが酸素です。ミネラルは多ければいいのかというと必ずしもそうではなく、適度なミネラル分があれば十分で、過剰なミネラルは濃い色を超えた黒っぽい発色になったり、香りの邪魔になってしまいます。逆もまた真なりで、ミネラル分のない純水もお茶には不向きな水です。水が酸素を含んでいたほうが良いということは、汲み置きで空気が抜けた水や一度沸かして空気が抜けた水は、酸素が少ないので不向きということを意味します。いうまでもありませんが、水は本来の中性であることが肝要で(ph=7.0、その前後)、強い酸性(ph<5.0)や極度のアルカリ性(ph>9.0)では水そのものに味がついてお茶の抽出には不向きです。こういった情報を総合すると、実は日本の軟水は紅茶を含むお茶の抽出に適しており、特に水道水は勢いよくポットに入れると水中に酸素も含むので、たいへんお茶(もちろん紅茶を含みます)の抽出に向いた水です。

1-4. スパイス

チャイ(マサラチャイ)に入れるスパイスには、様々なものがあります。10人のチャイの作り手がいたらスパイスのレシピは十通りあると言っても過言ではなさそうで、この辺の情報はlabo india #15に整理されていますし、私も手元にあるインド料理レシピ本からチャイのレシピを取り出してみました。

「チャイレシピ集めてみました」

平均的なスパイス(あるいはチャイ(マサラチャイ)を定義する上で構成要素となるスパイス)は、
 ー カルダモン 
 ー シナモン
 ー 生姜
と言えるのではないでしょうか。

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[写真]マサラチャイのレシピ例。9時方向から時計回りに、スライスした生姜、カルダモン、シナモンとアッサムCTC茶葉。

チャイに入れるスパイスにルールや強制はなく、各自が好きなスパイスを好きなだけ入れて楽しむことができて、例えば筆者は上記の写真にブラッックペッパーとクローブを入れるレシピが好きです。そのほか根強いファンのいるチャイのスパイスとしては、レモングラス、オレンジピール、ローズペタル、ベイリーフ、ローレル、アジョワンシード、フェネル(茴香)、スターアニス(八角)、等があります。筆者もインド(ケララ)で習ったチャイのレシピにはスターアニスが入っていて、先生がこれは外すなとスターアニスを指差していたのを思い出します。

ちょっと横道に逸れますが、labo india #15でもチャイにブラックペッパーを入れるはなしに言及する下りがあり、ブラックペッパーに関するトリビア的な会話が記録されています。曰く、
 ・ブラックペッパーは牛乳の臭み消しにいい
 ・アイスクリームに胡椒ふったらおいしくなる
とのことです。またマサラチャイではありませんが、これまたlabo india #15からの情報で、
 ・ストレートティーにちょっと塩を入れるとうまくなる
というのもあります。ぜひ紅茶をストレートでお飲みになるときには塩をはらりとふりかけてみて下さい。

これまでチャイの材料面について記述しました。ここから淹れる方法(どうやって?)について記述してゆきます。本稿では大雑把に、1)お湯を沸かして、2)茶葉を入れて、3)牛乳と砂糖とスパイスを入れて完成、という順番でチャイを作るとします。

2. どうやって(レシピ)

2-1. お湯を沸かす

お湯を沸かす時に、1日汲み置きした水を使うとか、ペットボトルの外国の硬水を使うとか、そんなことはしなくても大丈夫です(むしろこれらの水がよくないのは1−3で上述したとおりです)。水道水から酸素を含ませるように勢いよく入れた水の必要量(紅茶と牛乳を半々にするのであれば、出来上がりティーカップの総量の半分)を鍋に移したら、コンロの火をつけて沸騰させます。

なおシナモンを入れる時は、シナモンは成分の抽出に時間がかかるので、お湯を沸かす前に入れて水から煮出してください。

2-2. 茶葉の量・煮込む時間・火加減

チャイを入れる時の茶葉の量はどのくらいがいいのでしょうか?作る量や茶葉の種類によってまちまちなので特定の量を記述できませんが、アッサムCTCであれば目安としまして、出来上がり100ccあたりティースプーン1杯(小さじ1杯)がよろしいかと。出来上がりが300ccであれば(150ccのティーカップ2杯分、紅茶と牛乳を5:5とするなら150ccの水と150ccの牛乳)、ティースプーン3杯(小さじ3杯)の茶葉が適量です。この目安から出発して量を増減させて、自分の好みの量を見つけてください。

茶葉を入れたらお湯は紅茶になるわけですが、どのくらいどうやって煮込んだらいいのでしょうか。これまた量や茶葉の種類によってまちまちなので特定の時間を記述できませんが、アッサムCTCであれば目安として、出来上がり100ccあたり10秒でいいとおもいます(おこのみで長くしたり短くしてください)。出来上がり300ccなら「10秒x3」で30秒になります(くどいようですが、おこのみで長くしたり短くしてください)。アッサムCTCは茶葉のとこで記述したように、煮出すと苦みなどの成分が出やすい茶葉ですので、煮込む時間が長過ぎますとえぐみを感じる紅茶になりかねません。この目安から出発して煮込み時間を伸縮し、自分の好みの煮込み時間を見つけてください。

煮込むときの火加減は、沸騰後は弱火にするとよろしいかと思います。強火で煮過ぎると酸素が欠乏した水のなかで茶葉とミネラル分が反応できなくなって、ただただ茶葉の土臭さを水に移す羽目になってよろしくないです。酸素が残る水中で起こる茶葉とミネラル分の融合は弱火で煮詰めて長くても5分くらい(水の量にもよりますが)の出来事ではないかと思います。日本の水道水では2〜3分も煮れば味も色も十分な紅茶になります。

2-3. ミルクとスパイス投入して煮込む時間・火加減

チャイを入れる時の牛乳と紅茶の配合比率は5:5、お客様向けや高級感出すなら牛乳多め、が一般的なようです。先の「チャイレシピ集めてみました」でも、紅茶より牛乳を少なくしているレシピは一つだけでした。ただ牛乳と紅茶の割合もまた、各人の好みの問題かとおもいます。牛乳多めでミルク感を楽しみたい人もいれば、紅茶の苦味を楽しみたい人だっていますから。

labo india #15に、チャイとは「茶葉を使った料理である」というケララの風IIの沼尻さんの名言があります。インドでもチャイはミルクと一緒に煮出して作るものであり、煮出す工程を「料理」と表現しても過言ではないように思います。では牛乳を入れた後煮込む時間はどのくらいなんでしょうか?
上記2)の工程で紅茶ができたらミルクとスパイスを投入しますが、ここでもまずは一旦沸騰させます。沸騰後は弱火にするとよろしいかと思います。強火で煮過ぎると吹きこぼれますので、弱火〜中火で2〜3分くらい煮れば味も色も十分なマサラチャイになります。

2-4. 砂糖は入れるか入れないか問題

チャイは砂糖を入れて煮出す場合と、出来上がりに砂糖を後入れする場合では味が違います。煮出す時点で入れた砂糖は「キャラメリゼ(加熱による砂糖分子の崩壊)」されるので、コクと円やかさを演出します。液体の温度は沸点以上には上昇しませんが、溶液が接触し加熱の火があたっている鍋底はキャラメリゼできる温度に上昇しています。当該箇所に接触した砂糖成分は、空気中のフライパンの上のキャラメリゼとはちがう態様で、「キャラメリゼ」されます。もっと言うと、牛乳と砂糖を一緒に加熱すると、カラメル化に加え、糖は牛乳の中のタンパク質やアミノ酸とメイラード反応を起こし、褐色の色合い、芳醇な香り、を引き出します。

お店では砂糖の量はお客様の調整事項なので、飲むときに砂糖を投入します。よってチャイの砂糖後入れ方式では、砂糖はキャラメリゼされることなくそのまま強い甘さになります。

最後に具体的なチャイのレシピをひとつ紹介します。もしよかったらご参考ください。

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参考文献

Labo India vol.15 Masala Chai(マサラ チャイ)
http://www.curry-book.com/archives/labo-india-vol-15-masala-chai

Harold McGee (著),
香西 みどり (監修, 監修, 翻訳), 北山 薫 (翻訳), 北山 雅彦 (翻訳)
「マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで」(2008)
https://amzn.to/3bbmib8

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