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「生活者との対話、共感を通してブランドの存在意義を高める」グリコのデジタルマーケティング

2020年9月9日(水)~11日(金)に開催するリード エグジビジョン ジャパン主催の「第1回 Japan マーケティング Week【関西】」。

期間中はマーケティングの最先端が学べるセミナーも開催します。基調講演として、江崎グリコ株式会社 常務執行役員・マーケティング本部 本部長 奥山 真司様に『デジタル化時代に求められるマーケティング、ブランディングの原則』のテーマでご登壇いただきます。今回は講演に先駆け、デジタルマーケティングについて伺いました。

江崎グリコ株式会社
常務執行役員・マーケティング本部 本部長
奥山 真司様

奥山様

1989年P&G入社。マーケティングキャリアを経て、P&G Korea社長(2008年)、P&G ジャパン社長(2012年)を歴任。2016年に江崎グリコ入社。現在は常務執行役員マーケティング本部長を務める。

デジタルは手段であり目的ではない

ーー 講演内容とかぶってしまいますが、まずはデジタル化時代のマーケティング、ブランディングの原則について、かいつまんで教えていただけますか。

奥山さま(以下敬称略):まず第一の原則は、「デジタルは手段であり目的ではない」ということ。経営者やマーケティング担当の方々は、「DMPの構築」「これからはDXの時代」など所謂“デジタルあるあるに”日々取り囲まれていると思います。そうすると、デジタル化の波に乗れていないことになんとなく焦ってくると思うのですが、闇雲に焦燥心に駆られることはとても危険なことです。

グリコのデジタルマーケティング施策は、それ自体が目的ではありません。まず、生活者の理解、ブランドの提供価値など根本的なところを深く掘り下げたうえで、各ブランドが定義しているブランドプロミス(約束)を届ける手段としてデジタルマーケティングをおこないます。数あるマーケティング施策の中の、1つの選択肢です。デジタルマーケティングがもてはやされたり、これからはデジタルという機運があったりしますが、デジタルは手段であり目的ではないことをまずは認識することが大切です。

第二の原則は、「ブランドの存在意義」が明確であることです。コロナ禍になって、信用できるもの、私にとって価値のあるものしか選びたくない、という人がこれまでよりも増えてきました。一言で言えば、「偽物には騙されない。本物しか選ばない時代」になったということ。この時代に大切なのは製品の提供価値だけではなく、「生活者に必要とされる、役に立つ存在意義」です。

「あなたのブランドはなんのために存在しているのですか?」「あなたのブランドは誰の役に立つのですか?」という質問に担当者は10秒以内で答えられないと、そのブランドは“なくても困らないもの”のリストにはいってしまう非常に危険な状態だと言えます。

ポッキーがこの質問に答えるのであれば、「Share happiness(シェア・ハピネス)」。これは実は奥深い。というのも、動物の中で何かを分かち合うことで自分の幸せを感じることができるのは人間しかいないからです。それだけShare happinessは、大きなチャレンジを持っています。ポッキーは、チョコを美味しくしましたとか、軸の焼き加減が・・・・・・とかは言いません。なぜならそれはメーカーが勝手に作った“買って欲しい理由”だからです。それではロングセラーであるポッキーでは通用しません。

では何のために、誰の役に立つためかというと、「世の中の全ての人々をShare happinessにする」ということ。ポッキーブランドの全てのマーケティング施策は、この存在意義を生活者に共感され、認めていただくために実行されているといっても過言ではありません。

ーー毎年11月11日に開催されている「ポッキー&プリッツの日」は社会に浸透していますし、みんなでポッキーやプリッツを食べるというまさにShare happiness、「ブランドや製品の存在意義」を体現されていますね。

ポッキーの日

この「ブランドや製品の存在意義」を達成するために製品設計はどうあるべきなのか、広告はどうあるべきか、ひいてはデジタル施策はどうあるべきか。そういうマーケティング戦略を川上から川下まで設計できるか、これが第3の原則になります。

この3つの原則を全て実行するためには、「デジタル上でアナログマーケティングができる力を持つ」ことが大切です。デジタル上であっても、そこには生活者との双方向の対話がなければいけないということ、あるいは、心に突き刺さるようなコンテンツがなければいけないということです。

限りなくアナログ的な人間の深いところ、ブランドの深いところに基づいたインサイトとコンテンツ、ストーリーを作れる力、生活者と対話をする力、そこからヒントを見つけてともに作り上げていく力などが必要になってくると思います。心に響く共感、人肌を感じられるマーケティングができなければ、デジタルマーケティングをマスターしたとは言えないのではないでしょうか。


お客様を第一とするなら対話するのが当たり前

ーーデジタル上で人肌を感じられるマーケティングをするためには何が大切になるのでしょうか。

奥山:組織の大小を問わず、メーカーであってもサービス業であっても大抵の企業理念を見ると「顧客第一主義」だとか「お客様のため」などに近いことを掲げていますよね。いうは易く行うは難い。「その企業理念、実行できていますか?」という一言に尽きます。

実行という観点で一番わかりやすいのは、日々の仕事の習慣として実際にお客様の家庭訪問を定期的に行う、お客様と直接対話をしているかどうか。それが当たり前というマインドで居続けることが大事です。
グリコでは頻繁にお客様と直接対話をしています。物理的にお宅に訪問して、いろいろな生活周りの未充足、お困りごとを聞いていく。対話の中でヒントを見つけています。コロナ禍により、最近はZoomなどを使ってオンライン上での対話にシフトするため、オンラインでの仕組みもつくりました。

良いコンテンツとか消費者の心に刺さるメッセージは、量的なデータからは見えてこないと考えています。もちろん量的なデータが大事ではないというわけではありません。例えば非常に大きな投資を伴うような新製品などは、n=1という1人のインタビューだけでは判断できないところがあります。リスクヘッジという観点で量的なデータをきちっと読み解くことも大切です。

ーーお客様とブランドが出会う場として、店頭での売り場やイベントがあるかと思います。しかしながら、コロナ禍の今はソーシャル・ディスタンスであったり、外出自粛が求められリアルな場を持つことが難しいと思います。こういった状況をどう考えられていますか。

奥山:コンビニも、スーパーマーケットも、ドラックストアにも行くことが憚れる状況下ですので、私達はEコーマスにももちろん力をいれています。ただ、グリコではEコマースではなくCコマースと呼んでいます。このCは、「Conversational」のC。つまり、対話を通したコマースということです。

話を戻すと、デジタルマーケティングという名の付くいろいろな施策に投資をしたとします。いくつかの施策が効果があったとした場合に、その商品を買いに行くのはオンラインではなくコンビニやスーパーなどの実店舗でした。これが今までの習慣です。
今はそのような状況ではなく、購買する場所もデジタルになってきました。カスタマージャーニーと言われている、商品に対する認知・訴求・質問・購買・推奨という一連の流れがデジタル上ですべて完結する、あるいは、すべき時代になっているということだと思います。

考えてみれば、デジタル上で知ってバスに乗って買い物に行く、というのはちょっとおかしな話でもありますよね。スマホで見て知ったものをスマホから離れずその場で購入できる。お客様から見てもシンプルですし、我々からしてもお客様の導線をあちこち、ふらふらさせなくていいわけです。

ただ一方で、デジタル上でお客様を引き付けて購買という行動まで起こしてもらおうとすると、ますますブランドの価値が試されることになります。
どういうことかというと、実店舗では例えば、特売コーナーがあったり、お客様の導線上に棚があります。特売コーナーなどは営業担当者が競ってスペースを争う場所なんです。そこではじめてブランドと接触するお客様もいらっしゃるわけで、ここには営業の仕事が介在していて、ブランドの価値は営業担当者の多いなる努力に助けられているという側面もたくさんあります。

ところがオンライン、デジタルになるとマーケターと並走してくれる営業はいません。
生活者がオンライン上で見るブランドはそのままのブランドのわけです。そうなると、ますますブランドとしての本物感、その存在価値が試されると。シンプルでやりやすくなる反面、ブランド・マーケティングの担当は逃げ道がなくなる、というのも確かだと思います。


ロングセラーの秘訣は市場を創ること

ーーグリコはポッキー、プリッツ、ビスコ、など長く愛されているブランドが多いです。昭和、平成、令和と時代を乗り越えてきた秘訣は何でしょうか。

奥山:ロングセラー、長く愛されるブランドには共通している要素が1つあると考えています。それは「あらたな価値で市場を創った」ことです。例えば、今でこそチョコレートとスナックが混じったようなチョコレートスナック市場は当たり前のような市場ですが、ポッキーが出る前はこの市場は存在しませんでした。

そもそも、お菓子なのに栄養があるという新たな市場を創ったところからグリコは始まっています。グリコはキャラメルではなく健康栄養菓子なんです。グリコーゲンという成分が入っていますので、健康栄養菓子であると。そのDNAがあってビスコの発売もクリームの中に酵母を入れることにこだわりました。ですからパッケージに書いてあるとおり「おいしくてつよくなる」なんです。※現在のビスコは「乳酸菌」が入っています。

それまでは、ビスケットを食べて健康にいいというものは存在しませんでした。そして生活者にとっても価値のあるものだったと。

裏を返せば、既存市場の中でシェア争いに終始するようなブランドはロングセラーになる確率は少ないと思います。生活者自身が自分の言葉では言えないような未充足を見つける努力をして、そこから出てきた機会を新しい製品価値として提供することで、結果として新しい市場や新しい生活習慣ができる。こういうことに成功したブランドが長く愛されるのではないでしょうか。

ーーありがとうございます。



【お知らせ】
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日本最大級のマーケティング商談展、Japan マーケティング Week [春] を開催します。

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