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「肌が本来もつ力を信じて、引き出すこと」創業時の信念を貫くオルビスの戦略

ここ1~2年で、頻繁に目にするようになった「D2C(ダイレクト・トゥー・カスタマー)」。D2Cとは、メーカーが製造した商品を顧客へ直接販売するビジネスモデルのこと。店舗展開に重きを置いておらず、インターネットを利用したシンプルな商品構成で展開しているのが特徴です。

もともと韓国やアメリカでD2Cブランドが注目を集めていましたが、ここ最近は日本でもD2Cブランドの勢いは増しています。新進気鋭のスタートアップが話題を呼ぶことも多いですが、30年以上の歴史を持つ企業がリブランディングをして、通販会社から”ビューティーブランド“に変わり、“スマートエイジング”の価値を提供しているD2C企業へ進化した例もあります。

それが、2020年9月2日(水)~4日(金)に開催されるリード エグジビジョン ジャパン主催の「第12回Japan マーケティング Week 夏」、翌週9月9日(水)~11日(金)に開催される「第1回 Japan マーケティング Week【関西】」で登壇されるオルビスです。講演タイトルは『“通販会社”から“ビューティーブランド”へ進化したオルビスのブランド戦略』。本記事では講演に先駆けて、オルビス株式会社 執行役員 商品・QCD担当の西野 英美さまにお話を伺いました。

オルビス株式会社
執行役員 商品・QCD担当 西野 英美様

オルビス株式会社執行役員西野英美

2002年早稲田大学卒業。 2002年 オルビス(株)入社。スキンケア、メイク、メンズ、海外ブランドと多岐に渡る商品企画の経験を持ち、2014年発売のブランドの基幹スキンケア『オルビスユー』の初代ブランドマネジャーを務める。その後、原価・開発管理のマネジャ ー、新規獲得プロモーションのマネジャーとキャリアを重ね、2018年より商品企画部長に就任。2018年 10月リニューアル発売の「オルビスユー」、2019年1月発売の「オルビス ディフェンセラ」とヒット商品を生み出し、2020年1月より執行役員に就任。


10ヶ月でリブランディングを行うスピード感

ーー2018年1月にブランドビジネスに舵を切り、10月にはリブランディングした「ORBIS U(オルビス ユー)」を発売。大ヒット商品となりました。めまぐるしいスピードでのリブランディングだったと思うのですが、振り返ってみてポイントはなんだったのでしょうか。

オルビスは1987年に創業しました。この頃はバブル経済の真っ只中で、あらゆるものが華美で豪華で、化粧品の箱さえもキラキラしていました。そんな時代にアンチテーゼとして、オイルカットでシンプルなスキンケアを提案していたのがオルビスです。「化粧品そのものが化粧する必要はない」。本当に必要なものを見極め、長く使い続けられること、地球環境へも配慮し、通信販売という配送ハードルがあるにもかかわらず、早くから簡易包装に着手していました。

オルビスはECのプラットフォーマーでもなければ、リテーラーでもない。事業を正しく認識し、創業当時から変えていない思想が“スマートエイジング”という価値で、時代にマッチしたこと、そして、圧倒的なお客様起点、本質的なコストパフォーマンス、先行者メリットを取りに行くスピード感といった創業時からのスピリットを今一度呼び覚まして全社員総出で同じ方向に向かって取り組めたことが、リブランディング成功の背景にあると考えています。

リブランディングは、2018年1月に小林が代表取締役社長に就任してから取り組みが始まりました。小林が「オルビスはECのプラットフォーマーでもなければ、リテーラーでもない。事業を正しく認識し、ブランドビジネスをやるんだ」と全社員に唱えたんです。これがきっかけで、創業時から大事にしてきた「大手に果敢にチャレンジするベンチャースピリット」に立ち返り、リブランディングを進めていきました。ポイントは、ひとりひとりの個性とシンプルさを重視するリベラルな集団、ブランドでありたいというところです。

ーーブランドビジネスをする前は、何がビジネスの軸だったのでしょうか?

オルビスは通販化粧品のパイオニアとして、カタログを主体にビジネスをしていたんですね。DMを毎月200万部くらい送って、毎月楽しみに待っていてくださるお客様に向けて、メイクアップ品や、ヘアケアボディ品、健康食品、ボディウェアなど、バラエティに富んだ商品を開発していました。新商品を毎月のニュースとしていたため、とにかく目まぐるしい数の開発を続け、気づけば世界観は薄れ、ブランドとしての価値で繋がる意識も希薄化していました。

旧オルビスユー

そこで、リブランディングを機にオルビスの世界観の統一を考えました。象徴となる商品は、2014年にエイジングに効くブランドとして打ち出した「オルビス ユー」です。リブランディングを担う商品なので、私たちが大切にしてきたことやオルビスの信念を改めて見つめ直し、とことんメンバーと共にディスカッションを重ねました。なぜオルビスがやるのかを考えるためにも、 「ここちを美しく。」というブランドメッセージに何度も立ち返りました。

「自分らしく前向きに、美しく生きる人々であふれた世界を実現する」というオルビスのミッションを含めて、何かあったときに立ち返る場所ができたのも、リブランディングを進めるうえで良かったと思います。

ーーリブランディングを進めていく中でとくに印象的だった出来事はありますか?

「誠実」ということに対する姿勢です。私は、2002年からオルビスにいるので、意識はしていても体の随所に良くも悪くもデータマーケティングがこびりついていて、考え方が引き戻されることがよくあります。

通販ビジネスを行っていたときは、無意識のうちにお客様の不満を解消する、要望を叶えることが誠実だと思っていました。顧客データがあるからこそ、要望・感想・質問・クレームなどお客様から寄せられた声を企画書に必ず入れていましたし、もし不満が10件あったのであれば、その不満を解消するのが誠実だと思い、ものづくりをやってきました。

ところが、小林が私たちに言ったのは「誠実の意味をはき違えている」という一言。「誠実というのはお客様の期待を超えて、斜め上に一歩引き上げるようなリーダーシップを発揮すること」だと。この小林の言葉がリブランディングをやってきた中でとくに印象に残っています。


持ち帰れる体験を提供する体験特化型施設

ーー2020年7月に表参道に体験特化型施設「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」をオープンされています。D2Cブランドは、コンセプトショップを展開することが多いイメージがあるのですが、販売をメインにした店舗展開ではなく、体験型のコンセプトショップをオープンした理由を教えてください。

SKINCARE LOUNGE BY ORBIS外観

D2Cブランドがコンセプトショップを展開することは珍しくないことです。ですが、ブランドによって目的も異なりますし、大事にしているものも、掲げているミッションも違うので、各ブランドごとに個性が出るのは当然です。

オルビスは通販ビジネスで拡大してきた会社。だからこそ通販の対極にある「体験できる重要性」も感じていました。オルビスの思想をリアルに体験いただく、手触り感のある形でブランドを伝えていくことが必要だということで、体験特化型施設を作ろうと決めました。

コンセプトショップで体験を重視しているところは多く、例えば韓国のD2Cブランドのコンセプトショップは、思わずSNSにあげたくなるようなお店の内装だったり体験だったりを重視しています。それも戦略の1つだと思うんですけど、私たちは体験をその場で終わらせません。お店で得た体験を持ち帰って、自分のライフスタイルに取り込めることを重視しています。

例えば、「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」の中には商品の触りごこち、使いごこちを体験いただける水場をご用意しているのですが、そこから出てくる水の温度は約36度です。なぜ約36度かというと、洗顔をして洗い流す時に肌に最適と言われている温度だからです。「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」でお客様に洗顔を体験いただくと「思っていたよりも温かい」みたいな反応をされるんですね。この体験を家に持って帰って欲しくて。

洗面所、パウダールームで洗顔をするときに、今までは水で洗っていた方も、「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」はもうちょっと温かかったなということを思い出しながら、肌のために良いこと、綺麗になるために良いことを無理なく習慣化できます。「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」では、このように商品ではなく、自身の肌状態を理解し、美しさを引き出す正しいスキンケア方法を学びながら、気軽に商品をお試しいただけるようなさまざまなコンテンツを用意しています。

「SKINCARE LOUNGE BY ORBIS」ではコミュニケーションにも工夫をしています。1階はどなたでも気軽に入れるようにオープンなスペースになっていて、ジュースバーもあります。それから各商品に見立てたミニチュアピースが置いてあって、それをパズルのようにはめられる専用パレットを用意しているんですね。お客様からしてみると、商品を買うというよりも、気になったものを集めてはめていく感覚。そして、スタッフがそれを見ると、お客様が気になっている商品に気づくことができる。これは新しいコミュニケーションの方法だと思います。

あと、大切にしているのはパーソナライズです。ライフスタイルやその人の価値観によって綺麗やここちよさは違うので、本当にその人にとってここちよいビューティーの提案を考えていくうえで、「この商品はこのように使っていくのがあなたにとってはおすすめですよ」「顔のパーツや比率の分析から、あなたに似合う色はこれですよ」といったように、サイエンスとテクノロジーを駆使してビューティーの提案を広げていくことを目指しています。

「第12回Japan マーケティング Week 夏」開催のご案内

西野様に、今回のインタビューの続きをお話しいただくのが、9月東京と大阪で開催する「Japan マーケティング Week セミナー」です。先日インタビューをした、澤様や奥山様をはじめ、有力企業の経営陣が登壇します。併催の展示会は、オンライン・オフラインに関わらず企業の課題解決に貢献するマーケティングツールやサービスが一堂に会す、またとない機会となっております。ご興味のある方は、ぜひご来場ください。
9/2(水)~9/4(金)開催 【第12回 Japan マーケティング Week 2020 夏】
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9/9(水)~9/11(金)開催【第1回 Japan マーケティング Week 2020 関西】
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