どん底から。
深い穴の底から叫んでいた。
「私はここにいる」
手を伸ばしても、這い上がろうとしても届かなくて諦めた。
でも、身体は上がるのを望んでた。
たくさんの人が穴があるのを知らずに通り過ぎた。
全ての力を使い果たし、地面だけを見つめていた。
何年がすぎただろう。
雨が降っても、どれだけ寒くても、何も感じなかった。
ある晴れた日、穴を照らす太陽に影が差した。
金色が閃いた。
誰かが覗き込んでいた。逆光で表情は見えない。
・・・すてき。
口をついて出た声は掠れていた。聞こえたのだろうか。
あの人にこのどん底はどう見えているんだろう。
何かを掴もう、と手が自然と伸びる。
じっ、と見られた気がした。
と感じると同時に風を感じた。急降下してくる。
微笑みを湛えていた。
何やってるの?
君も本当は翔べるでしょ?
え? そう思うと同時に ふわり、と浮かんだ。
おいで。
穴から出ると、たくさんの人が集まっていた。
「おかえり」「やっと出てきたね」 本当は自分で翔べた。
気づかなかったのは、私だけだった。
「言っただろ」
子どものように、いたずらっぽく笑うその人に、もう少しだけ早く出会っていたらよかったかもなぁと考える。
「・・・どうした?」
気づいたら、泣いていた。
ここから、始まる。
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