見出し画像

《イギリス情報》 イギリス人がこよなく愛するクリームティー

イギリス人の日常にある美味しい習慣 

文・撮影/市川路美 

イギリスのクリームティーとは何なのか 

イギリスといえば紅茶。イギリス人が紅茶をよく飲む人種である事は世界的に有名です。最低でも一日5杯の紅茶を飲むのだそう。そんな紅茶好きのイギリス人が、心から愛する食習慣がクリームティー(Cream Tea)。名前からウィンナ・コーヒーのようなホイップクリームがのった紅茶を想像してしまいますが、紅茶とスコーンのセットを意味します。

クリームティー

イギリスではスコーンを食べる時に必ず濃厚なクリームが添えられるので、クリームティーと呼ばれるようになりました。ランチとディナーの間に食される、イギリスの典型的なおやつメニュー。

イギリスの軽食と言えば、3段に重なったプレートにスコーンをはじめケーキやサンドウィッチなどが加わるアフタヌーン・ティーの方が有名かもしれません。クリームティーよりボリューム、そしてお値段がかなり豪華になるので、イギリス人にとってアフタヌーン・ティーとは誕生日や特別な日に大切な人と楽しむスペシャルなもの。日常的にはクリームティーを楽しんでいます。紅茶とスコーンのセットは、イギリス全土のカフェやティールームの定番メニュー。喫茶店だけではなく家庭でも、おやつの時間にクリームティーを楽しむ人が多いです。

イギリスのティールーム

クリームティーの由来はイギリス南西部の町デボンにあります。997年にバイキングによって破壊された修道院を建て直した際、多くの地元の人達が協力してくれました。そのお礼として修道士達が、パンにクロテッドクリームとストロベリージャムを塗ってふるまったのがクリームティーの元となったとされています。

イギリスのスコーンに欠かせないクロテッドクリーム

日本でもお馴染みのスコーン。薄力粉、バター、牛乳で作るイギリスを代表する焼き菓子です。外はカリッとしているけど中はフカフカのパン系、外側も中身も全て固いビスケット系、色々な食感のスコーンが存在します。

中はフカフカなスコーン
中も外も固いスコーン

一般的にアメリカなどイギリス国外で食されているスコーンはそのまま食べる系なので、スコーン自体に味が付いています。イギリスではスコーンに味を付けないので、ジャムとクリームを付けて食べます。ジャムはストロベリーが定番ですが、ブルーベリーやラズベリーなどのベリー系のジャムも人気があります。少し苦味のあるマーマレードと合わせて食べても美味しいです。

何よりも大切なのはクリームで、王道は何といってもクロテッドクリームと呼ばれる2000年以上前から存在するイギリス特有の乳製品。

クロテッドクリーム

乳脂肪分の高い牛乳を遠心分離機でクリームと無脂肪乳に分け、クリームだけを煮詰めてから一晩かけてゆっくり冷ますと完成する濃厚なクリームです。

原産地名称保護制度では、クロテッドクリームと名乗るには乳脂肪分が55%以上なくてはならないと規定されています。乳脂肪分80%のバターよりは低いのですが、40%の生クリームより多い。この乳脂肪分のパーセンテージが味と食感に反映し、バターと生クリームの中間点にあるようなクリームです。

ただクロテッドクリームにはバターのようなしょっぱさや生クリームのような甘さがなく、牛乳そのものの味がします。とても濃厚なクリームなのですが、甘さが無い分あっさりした感じもあり、口に含むとスーッととろけます。何とも形容し難いとても美味しいクリームで、スコーンとの相性が抜群と言うより絶対的。

何にでも合いそうなクリームなのですが、意外にもスコーン以外には微妙に合わず、食パンは勿論、いけそうだったホットケーキにも何となく合いません。スコーンの食感と素朴な味にドンピシャリ過ぎて、他のものと合わせると「コレジャナイ」感が滲み出てしまうのです。

ただクロテッドクリームの産地に住む人達は何にでも使うようで、クラッカーの上にナッツと一緒にのせたり、パウンドケーキなどの生地に加えたり、オムレツやシチュー系の料理やスープなどに入れてコクを出したりするのだそうです。

ジャムが先か、クリームが先か

イギリスに昔からあるスコーン論争。イギリス人は形式が大好きな人種なので、スコーンに塗るのはジャムが先かクロテッドクリームが先かで結構もめます。

特にイングランド南西部に位置するデボン州とお隣のコーンウォール州の人達のこだわりがとても強いです。この地域は気候が温暖なので、豊かな牧草地が広がる乳製品で有名な土地です。クロテッドクリームの2大産地となっていて、この2つの地域の人達は決してクロテッドクリームとは呼びません。お互いに自分達の地名を入れた名で呼ぶので、デボンの人達はデボンシャークリーム、コーンウォール州の人達はコーニッシュクリームと呼んでいます。

デボン流の食べ方は、手で横に半分に割ったスコーンにクロテッドクリームをたっぷり塗ってからジャムを付けます。コーンウォール州では最初にジャムを一面に塗り、クロテッドクリームをスプーンでポトンと落として食べます。

左がデボン流、右がコーンウォール流

頑固者が多いイギリスなので、誰もが自分達の作法が正式だとして譲りません。ただスコーンの食べ方にこだわりが強いのはデボン州とコーンウォール州の人達がメインで、その他の地域のイギリス人は結構いい加減。デボン州が舞台のドラマなのに、スコーンにジャムを先に塗っていたと問題になったり、ある首相はクロテッドクリームが先でもジャムが先でも味は変わらない、なんて発言をして両州の人達から大ブーイングを受けました。ちなみにエリザベス女王はコーンウォール式でスコーンを食べるのだそう。

個人的にはどちらが先でも味は変わらないと思うのですが地元の人達に敬意を表し、デボン州ではクロテッドクリームを先に、コーンウォール州ではジャムを先に塗って食べています。

ダブルクリームとそれもどき

スコーンにはクロテッドクリームが最高かつ絶対なのですが、ダブルクリームの方を好むイギリス人も一定数います。

ダブルクリーム

乳脂肪分55%のクロテッドクリームに対して、ダブルクリームは48%。かなりぽってりした生クリームの位置付けでしょうか。クロテッドクリーム同様甘さを持たないので、ジャムと一緒に使用します。

クロテッドクリームとダブルクリーム、いずれもスコーンを食べる時に欠かせないクリームですが、イギリス国外だと入手が困難なので、もどきレシピが存在します。

しっかり冷やした乳脂肪分の高い生クリームを蓋つきの瓶に入れ、上下によく振るとホイップクリームになります。その状態から5分くらい振り続けるとダブルクリームに、更に振ればクロテッドクリームに近い状態になるのだそうです。そのまま振り続けると最終的には乳脂肪分と水分が完全に分離し、バターとなってしまうので見極めが肝心です。

 クロテッドクリームとジャムの黄金比率は1対1だとされていますが、大抵のイギリス人達はジャムの2〜3倍の量のクロテッドクリームをのせて食べています。

実はイギリス人、クリームが大好きなんです。スーパーではクロテッドクリームやダブルクリームが既に塗られた状態のスコーンが売っていますが、かなりたっぷり目な分量です。

スーパーのクリーム入りスコーン 

スコーンに欠かせないクロテッドクリームとダブルクリーム。かなりどっしりくるので、日頃ミルクティーを飲む人もクリームティーではミルク無しのストレートで紅茶を飲むのだそう。

美味しいイギリスの紅茶

イギリスを訪れたら、イギリス人が愛して止まないクリームティーを是非楽しんで下さい。


(2022年3月31日発行「素材のちから」第44号掲載記事)

「素材のちから」本誌をPDFでご覧になりたい方はこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?