《デンマーク情報》 無限の可能性を持つスモーブロー
デンマーク発祥のお洒落なオープンサンドウィッチ
文・撮影/市川路美
デンマーク生まれの北欧の国民食スモーブロー
男女平等ランキングで常に上位となる北欧の国々では共働きが基本です。そうなると料理する時間をなかなか持てないのが悩みの種。美味しい事は勿論、バランス良く栄養素がとれ、飽きる事のないバラエティ豊かな外食が必要でした。
そんな贅沢な望みを全て叶えてくれたのがスモーブロー。薄くスライスしたパンの上にスプレッドを塗り、サラミ、ハム、チーズ、野菜など、色々な具材をのせて食べるオープンサンドウィッチです。
スモーブローはデンマークで生まれ、瞬く間に北欧の国々に広まりました。専門店が乱立するようになり、ランチや夕食をスモーブローを購入して済ませてしまう人が多くなりました。現在では発祥の地デンマークのみならず、北欧各国でとてもポピュラーな国民食のような食べ物となっています。
スモーブローは外食やテイクアウトが主流ですが、もとを辿れば家庭料理。ランチとして作ったミートボールやサーモンの残りを、バターを塗ったパンの上にのせてディナーとして食べたのが始まりです。
当初のコンセプトは残飯処理。だからとてもシンプルな姿形をしていたのですが、より美しく進化しました。美しいだけではありません。より美味しく、よりバラエティ豊かに、より栄養価を考えたスモーブローへと発展していったのです。
デンマーク語でスモーはバター、ブローはパンを意味します。なので基本的にはパンにバターを塗って具材をのせたものは全てスモーブローと呼んで良いのですが、一般的には彩り豊かで美しいオープンサンドの事をスモーブローと認識しています。
このスタイルを確立したのは、1888年にコペンハーゲンにオープンしたスモーブローの専門店、イーダ・ダヴィドセン(Ida Davidsen)。5代続くスモーブローの老舗で、考案されたスモーブローは350種類以上に及びます。全てのメニューを書き留めると長さが140メートルに達するので、ギネス(世界記録)にも登録されています。
スモーブローの起源
サンドウィッチは2枚のパンで具を挟みますが、スモーブローは1枚のパンの上に色々な具材をのせて作ります。かつて中世の貴族達は、皿の代わりに薄くスライスしたパンを使っていました。これにヒントを得てオープンサンドウィッチの原型が生まれたとされます。
ただ貴族達はパンの上にのる具材しか食べませんでした。料理の汁気を吸ったパンは食べずに残され、召使い達が翌日に野菜などと一緒に煮込んで食べました。具材と一緒にパンも食べる、今あるオープンサンドの形を作ったのがデンマークで、スモーブロー発祥の地とされています。
スモーブローを構成するもの
1 パン
北欧の人達は基本的にライ麦パンしか食べません。勿論スモーブローもライ麦パンを使って作ります。日本ではライ麦パンが入手し難いので、トーストした食パンで代用するしかありません。
スモーブローにおいてパンは皿の代わりをします。具材のボリューム感が大切なので、出来るだけ表面積の大きいパンを選ぶ必要があります。バゲットでは表面積が足りません。出来れば食パンのようにフワフワではなく、ずっしりした食感のあるパンを使うのが理想。食パンで作るのなら、せめてトーストして使いましょう。
2 スプレッド
スプレッドとは伸ばすの意味からなる言葉で、パンなどに薄く伸ばして塗るものの総称です。スモーブローの基本は、名前の通りバター。でも組み合わせる食材に合わせて、バターの代わりにサワークリームやマスタード、クリームチーズなどをスプレッドとして使います。
3 具材
肉、腸詰系、魚介類、野菜、何でもありです。栄養価や彩りも考慮して組み合わせましょう。
4 トッピング
具材の上に飾られるトッピングはベーコンやキノコなどのソテー、薄くスライスしたラディッシュなどの野菜などを使います。個々の具材にあった特製ソースも重要なトッピング。一番上層の目立つ箇所なので、美味しさに加え彩りを重視する必要があります。インターネットでスモーブローの写真を検索してみて下さい。創意工夫のある彩り豊かなスモーブローが多いので、見ているだけで楽しいかと思います。
パン、スプレッド、具材、トッピング。この4つの要素を基本に、色々な食材を組み合わせて作るのがスモーブロー。作る人の数だけ種類がありますが、とても人気が高く、基本のスモーブローとして定着した組み合わせも存在します。
●スモークサーモンのスモーブロー
北欧を代表する食材と言えばサーモン。ライ麦パンにクリームチーズやサワークリームを塗り、スモークサーモンとお好みの野菜やピクルスをのせ、最後にディルを置いて作ります。とてもシンプルですが、まさに王道の美味しさ。
スモーブローには星の数ほど種類がありますが、老若男女問わず常に一番人気の組み合わせです。何処のお店にも必ずある、定番中の定番のスモーブロー。
●獣医さんの夜食
獣医さんが動物の長時間のお産に向けて体力をつける為に、お肉を沢山食べられるよう考案されたオープンサンド。ライ麦パンにスプレッドとしてレバーペーストを塗り、メインの具としてローストビーフをたっぷりのせます。
トッピングはコンソメのジュレ、フライオニオンやクレソンなど。肉系のスモーブローの中で、一番人気の組み合わせです。
●流れ星
好物を一度に全部食べられるようにとの願いを込めたスモーブロー。とにかく具材が盛り沢山なのが特徴です。メインとなるのは白身魚のフライ。その上に小エビを茹でたものをのせ、ケチャップとマヨネーズで作るオーロラソースをたっぷりかけます。
トッピングはホワイトアスパラガス、トマトやキュウリなどの野菜、豪華版だとキャビアがたっぷりのせられます。カラッと揚げた白身魚のフライと、茹でた小エビの食感と味のハーモニーがとても素晴らしい一品。流れ星の名に負けない、欲張り三昧なオープンサンドウィッチです。
近年のスモーブローは具材の盛り沢山ぶりに拍車がかかってきています。余りにも具沢山過ぎてパンが全く見えないスモーブローが多く、ここまでパンからはみ出るのならパンの上にのせる意味とは何なのかを真剣に考えてしまうほど。流れ星はそんな理不尽系スモーブローを代表する具沢山オープンサンドウィッチです。
進化するスモーブロー
スモーブローはサンドウィッチや日本の皆さんが考えるオープンサンドのように、手づかみで食べる事の出来ない料理なので、基本的にナイフとフォークを使って食べます。スモーブローは年々進化していて、もう美味しいだけではスモーブローと呼ぶ事は出来ません。美味しくて、美しくて、バラエティ豊かで、栄養価が高いオープンサンドウィッチ。それがスモーブローです。
スモーブローは日々の食事ではありますが、おもてなし料理の定番にもなりました。ホームパーティーの主役は何時だってスモーブロー。より美味しく、より美しいスモーブローを作る為に、色々な工夫やテクニックが生まれています。日本の手巻き寿司のように、トッピングとなる具材を色々と用意し、各自お好みでオープンサンドを作ってもらうやり方も流行ってきています。
北欧の国民食となったスモーブロー。その可能性はまさに無限大。北欧らしい、スタイリッシュで機能的なオープンサンドを日本でも是非作ってみて下さい。
(2021年9月30日発行「素材のちから」第42号掲載記事)
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