大盤解説会に初参加したときの日記

2021/8/3に行われた叡王戦第二局の大盤解説会に参加した感想をしたためた長い長い下書きが見つかったため、公開してみます。
内容は正確性及び客観性に欠けています。

いわゆる観る将をいつ初めたのか正確には記憶していないが、歴は長くなく、2年も経っていないと思われる。ミーハーと言われればそれまで、という感じだ。棋力と言えばひよこどころか卵、つまり初心者と名乗るのも憚られるレベルである。ネット上であっても対人が怖いので将棋ウォーズはやっておらず、暇な時間にswitchの将棋トレーニングで基礎のキを学び、移動時間にスマホでぴよ将棋を楽しむ程度だ。

大盤解説会に参加しようと思いたったのは、私が藤井聡太二冠のファンであるからに他ならない。その経緯については特に記さないが、とにかくそれで、対豊島将之竜王という好カード中の好カードということもあって、応募に踏み切ったのだ。とはいっても、前述のとおり、味噌っかすレベルの棋力しか持ち合わせていない小娘が大盤解説会に参加していいものなのか、という不安はあった。ただ、応募の時点では、そこまで当たると思っておらず、軽い気持ちでの応募だった。

ところが数日後、私の元に当選メールが届く。戦慄した。ツイッターで大盤解説というワードを検索してみる。どうやら落選した人も少なくないようで、私は幸運であるようだった。初めて参加するという文字もちらほらと見かけたので、少し安心した。

以下が当日勢いよく書いた日記である。(一部加筆)

※当記事では叡王戦での話を書いているため、豊島竜王ではなく豊島叡王とさせて頂きます。

2021/08/03

叡王戦第二局大盤解説会
山梨県甲府市常盤ホテルにて

前日は甲府駅近くのホテルに宿泊した。午前中は県立美術館に行く予定だったが、一時間の寝坊をした挙句、朝ごはんを食べた後も眠かったので大盤解説会に向けてコンディションを整えるために昼寝(?)をすることにした。

チェックアウトが11時だったため、10時45分まで眠り、11時のバスにどうにか乗り込んで湯村温泉郷へと向かった。そういうわけで、10分頃には常盤ホテルの前に到着していた。外観は簡素な千と千尋の神隠しの湯屋という感じ(失礼)で、迎賓館という趣は感じられなかった。

駐車場では室谷先生と北浜先生が青空大盤解説(正式名称は忘れた)を行っていて、こんな場所で!と驚いた。さながら、テレビの撮影現場を見たような気持ちで(実際、間違ってはいない)、ドキドキとした。ついでに、室谷先生が本当に美人でスタイルが良くて驚いた。北浜先生はなんだか可愛らしい雰囲気だった。

所謂温泉街というものを想像していたが、ただ温泉宿が密集している場所というだけで、団子屋さんやお土産屋さんがあったりする風ではなかった。セブンイレブンでお茶(伊右衛門)を買った後、やることもないので、とりあえず常盤ホテルに入ってみることにした。温泉に入れるかもしれないという淡い期待もあった。大盤解説会の受付は13時からだから、2時間ほど時間があることになる。ロビー以外は侵入禁止とのことなので、ロビーのソファで涼みつつ寛ぐことにした。

ロビーの天井は高く、広々とした空間の先はガラス張りで、綺麗な日本庭園を見ることができる。簡素に感じた外観とは打って変わって、静謐な雰囲気は高級ホテルの趣があった。ソファも古びた感じはなく、立派で、座り心地も良かった。窓に背を向けると、正面に広い出入り口、左手にはお土産売り場、そのさらに左にはトイレと庭園に出る扉があった。そして右手の奥が大盤解説会の会場に続いているようだった。

2階の廊下からはロビーが見下ろせる作りで、和風の手摺り(欄干と呼びたくなるやつ)がなんとも言えない風情を醸し出していた。下からは明瞭ではないが、廊下の奥には襖(もしくはそのように見える扉)があり、その先にも部屋があるようだった。数人の棋士やスタッフが出入りしていたので、控え室があるのだと思う。

エレベーターの前のソファに座って、しばらく雑談をしたり、ガラス窓のすぐそばに位置する池で泳ぐ鯉を眺めたりしていた。ふと、時計を見るとお昼休憩が近い。今日の将棋飯は何になるのだろうと呑気なことを言っていたら、左手から、すー、と人が通り過ぎて行った。あれ、と思った時にはエレベーターに乗り込み、扉が閉まっていく。和装で背は高くなく、眼鏡をかけていることだけは分かった。

ほぼ間違いなく、豊島叡王である。

一瞬のことに驚いていたが、昼休憩の際にここを通るなら、藤井二冠も通るはずであるとすぐに思い至る。そして予想通り、数分遅れて、藤井二冠がスタッフとともにやって来た。直視して良いものなのかも分からず、ちら、ちらと目をやった。何か神々しいものでも見るような気持ちだった。不敬という言葉が頭に浮かぶ。こんな態度では不敬罪に問われるのではないか(もちろん問われるはずはない。)と不安に思った。藤井二冠もやはりエレベーターに乗っていった。

2階の廊下の天井は鏡張りになっていて、歩く人の旋毛がロビーから見える。ワゴンを押した男の人が廊下を歩いていた。ワゴンの上には丼やら何やらが乗っていて、どうやら本日のいわゆる将棋飯のようだった。一瞬だったので、丼の中の茶色からして親子丼なのではないかと当たりをつけた。数分後に公開された昼食写真によると、この丼の中身はカレーうどんで、藤井二冠の昼食だった。対する豊島叡王の昼食はカレーライス。相カレーである。

しかし、着物にカレーうどんは悪手なのではないか。高価な和服にカレーが飛ばないように注意しながら食べることを想像すると、胃が痛い。自分なら味わうどころではない。『甲府名物』なんて銘打ってるから、タイトル戦では名物を食べるように心掛けている(はずの)藤井二冠が選んでしまうのだ。カレーうどんと着物の相性なんて占うまでもなく最悪なのだから、そもそも選択肢に入れておくべきではないだろうと勝手に憤ってみたりした。

12時半頃から、段々と大盤解説会の参加者がロビーに集まり出した。13時を迎える前に、早い番号の人から受付が始まりだして、静謐なロビーは一気に騒がしくなった。

係の人が受付番号を読み上げたり何やらしているうちに、ワゴンを押した人が出入り口に向かって行った。ほとんどの人は気にも止めていなかったが、ワゴンの上には空になったお皿と銀色のランプ型の容器が置かれていた。豊島叡王が昼食を終えたのである。となると、暫くの後にエレベーターから豊島叡王が降りてくるに違いないと確信し、ぢっと待った。幸いと言うべきか、私の受付番号は76で、呼び出しは1から20といった具合だったので余裕があった。

※この時、アベマ将棋チャンネルAIなしカメラにおいて、昼食の食レポを放送していたので、運ばれていた食事は食レポ用だった可能性が高いと思われる。

思惑通り、豊島叡王がエレベーターから出てきて、外に続く廊下を歩いて行った。何か特別な美しさに溢れていた。背筋は伸び、着物に皺はなかった。しずしずという表現がふさわしいほど、静かな佇まいだった。それでいてぴりり、と引き締まった闘志を感じた。何も言えず、じっと見つめるばかりだった。やはり、神々しささえあった。何か幻を見ているかのような…。

興奮が覚めやらぬまま、しかしふと思ったのだが、普段は藤井二冠のほうが先に昼食を終えている印象があるにも関わらず、未だ藤井二冠の姿は見ていない。先ほどからずっとエレベーターを監視しているのだから見逃すはずもない。やはり、カレーうどんが手強いのではないか。少し気の毒に思った。せめて紙エプロンか何かが用意されていれば良いなぁ。

そんな勝手な心配をしているうちに、エレベーターから藤井二冠も姿を現した。番号の呼び出しは進み、ほとんどの人が右手奥の呼び出し係のそばに集まっていた。エレベーターは左側にあるから、誰も気が付いていない様子だった。私は気の利いた反応もできず、ただぽかんとしていた。藤井二冠は私の方に向かって(おそらく私自身に向かってではないが)ぺこり、と二度お辞儀をした。私はその特別美しい所作という訳でもない至って普通のお辞儀にうっとりとする思いで、やはり、ただ見つめるだけだった。目を離すのが惜しくてお辞儀を返すことすら出来なかった。藤井二冠も豊島叡王が歩いたところを同じように歩いた。豊島叡王と比べて藤井二冠のほうが幾分か背が高く、痩せてはいるのものの華奢という訳ではなく若者らしい背格好だからか、しずしずというよりもてくてくという雰囲気があった。しかし豊島叡王と同じように、背筋は伸びていたし、着物姿は美しかった。私よりもずっと若く、私なんかが一生のうちに着ることはないような高価で格式高い着物を身につけて、そこに存在していた。それだけで言葉にしようがない感動があった。ただ人の姿を見ているというよりも、彼の指す将棋の美しさ、その志の気高さを見ているかのような錯覚があった。私は夢見心地でその背中を見送った。同じ人間とは思えなかった。人はその心の在り方でこんなにも違う姿をするのだと思い知った。人の最も美しい瞬間は、きっとその心のうちに滾る情熱のために命を削る瞬間なのだと思わずにはいられない。

ようやく本題に入る。ついに大盤解説会が始まった。

会場はホールで、感染症対策のために椅子が等間隔に並べられていた。他の人に話しかけたりするようなイベントが発生する雰囲気ではなかったのが嬉しかった(何級?とか聞かれたら怖くて泣いてしまうため)。正面には大盤があり、左手のスクリーンには現局面、右手のモニターには対局室が映し出されていた。私は4列目に座って、辛うじて大盤上の駒が判別できたが、それ以上後ろの席では視力が良くないと大盤を見るのが困難な気がした。

写真撮影可(動画は不可)というアナウンスがあり、とても驚いた。信じられず、他のファンの方たちが写真を撮っている中でも、なかなかスマホのカメラを向けることができなかった。

解説は三浦弘行九段で、聞き手は山田久美女流四段だった。二人が登壇すると、本物だ!と子どものように心がはしゃいだ。二人とも群馬県出身で、姉弟子と弟弟子の関係にあるためか、和気藹々とトークが始まった。三浦先生はテレビで見たままの三浦先生だった。グレーっぽいスーツまで、そのままだった。左足のズボンの裾が靴下の中に入っているのに気がついて、私は勝手に気不味く思った。解説は、序盤の戦型から、私でも少しわかる程度には初歩的な内容から始まったが、靴下が気になってしまって恐らく半分も頭に入らなかった。誰か教えてあげて欲しいと思うのと同時に、三浦先生に恥をかかせることがあって良いはずがないとも思った。

三浦先生が『豊島さんのファンか、藤井さんのファンか』という質問をした。私は気恥ずかしくて手を上げることができなかった。誰にも見られていないのに、曖昧に笑ってみたりした。周りを見回さなかったのでわからなかったが、どうやら女性が多く、藤井二冠のファンも多いようだったから、恥ずかしがる必要もなかったのかもしれない。将棋を指さない観る将という方も多く、大盤解説会に参加する人はバリバリに指すアマチュアみたいな人ばかりだと思っていたので意外だった。どうやら怖がる必要はなかったらしい。もちろん知識があればより楽しめるのだろうけど。

斜め前に座っていた男性は、どう見ても眠っていた。こんな貴重な場で勿体ないなと思ってしまうが、人それぞれなのだろうか。それにしても棋士の先生に失礼ではないのだろうか。先生方には慣れた光景なのだろうか。せめて自分は寝ないようにしようと固く誓う。

休憩時間になり、靴下の事をスタッフにこっそりと伝えようかと思ったものの、出しゃばった事をするのも憚られ、うろうろと廊下を歩いたりトイレに入ってみたりした。その間に何度か三浦先生とすれ違った。不思議な気持ちだった。

休憩の後は解説者が変わって、青野照市九段だった。恥ずかしながら青野先生を存じ上げていなかったが、袴姿は堂々としていて、歴戦の猛者の風格があった。青野先生は叡王戦第二局の立会人なのだそうだ。藤井二冠は子どもように純粋なまま将棋が強くなったような人だから、きっと負けたら泣きたいほど悔しいに違いないというような話をされていた。それほど、将棋に対する想いが強いのだろうという事である。私はなるほどと思った。

どうやら棋士は話好きが多いのか、将棋のこととなると我を忘れるのか、青野先生も三浦先生も話がなかなか終わらなかった。司会進行係の人は、腕時計を見せるしぐさをしたり、指でバッテンを作ってみたりしており、大変そうだった。勝手にハラハラして、壇上とスタッフを何度も見比べた。恐らく何十分か時間をオーバーした後、どうにか纏まって、休憩に入った。

休憩が終わると今度は、鈴木大介九段がやってきて、三浦先生とのダブル解説となった。何という贅沢。鈴木先生はテレビで見たよりも痩せたように見えた。二人は十歳の頃から知り合いで随分仲がいいようだった。鈴木先生の解説は軽快な語り口で、時折冗談を言い合ったりもして、会場内からは時折笑い声も聞こえたし、私も笑った。

二人の仲の良さ故なのか、私の知識不足故なのか、検討に夢中になっているのか、何を言っているのか聞こえないような瞬間が何度かあった。控室で検討をする様子はこんな感じなのかな、と想像が膨らむ。貴重な体験をしている喜びを噛み締めた。よく見たら三浦先生のズボンのすそは靴下の外に出ていた。

局面の進行に関しては、棋士のような記憶力が無いのでうろ覚えになるが、大体が解説の予想通りの進行をした。三浦先生がこれは指したらすごいと言う3九銀を見事に藤井二冠が指して、心なしか会場は盛り上がった。そこで鈴木先生が、「若いと言うのは信頼である。私も若い頃は、投了した先生に「あれって詰んでるんだよね?」と聞かれたことがあるが、今は誰も投了してくれない」というようなことを言って会場を沸かせた。

いつの間にやら藤井二冠が優勢を築いている。最後の休憩の後は、三浦先生ではなく鈴木先生が解説だった。双方1分将棋になり、手に汗握る重大な局面を迎えていた。鈴木先生が言うには、藤井二冠のほとんど勝勢のようだった。ところが、豊島叡王が予想外の金打ちをしたところから、流れが変わっていった。その後は予想外の指手が続いた(ような記憶がある)。藤井二冠が端歩を攻めて、数手後に、8八と金として金を取った。解説の鈴木先生も、おや、という感じだった(ような記憶がある)。後ろの席に座っている女性はスマホでAI評価値を見ているのか、小声で評価値がひっくり返ったと悲鳴を上げていた。聞かなかったことにした。

解説の方でも、予想外の数手がやはり悪かったのか、形勢が逆転しているとの事だった。藤井玉は次の一手で詰むという状態で、こうなるともう、豊島玉を詰ませるしかない。恐らく豊島玉は詰まないだろうということだったが、しかしその変化が見えず、鈴木先生はその場にいない三浦先生に助けを求めた。スタッフがどこかへ行ったと思ったら、数分後に三浦先生が登場して、笑ってしまった。大盤解説会ってそんな自由な感じなのか。三浦先生は詰まないと断言したものの、三浦先生の言う変化では豊島玉は詰んでしまう。一瞬、これはもしかするのかも知れないぞ、という空気になった。鈴木先生は「余裕綽々で出てきたのに詰むじゃないですか」と三浦先生を揶揄った。1分将棋だからどんどん進む盤面の進行もそっちのけで、検討が行われる。とうとう詰まないことが証明された。勝敗は気にしないと決めていたものの、やはり残念ではある。三浦先生はそれを見届けると、控室に戻ってしまった。

対局室が映し出されているモニターを見れば、藤井二冠は少しぐったりとして元気を失っているようだった。その後も一手一手進んでいく。恐らくもう、本人にも負けは分かっているとのことだった。投げ場を見計らっているのだという。胸が痛い。いつか相手が間違えるのを祈って、一手詰めまで指してしまいたくならないのだろうか。苦悶の表情(顔は見えていないので完全に妄想)で一手、また一手と藤井二冠が駒を動かす。時折横を向いたり、何が悪かったのか反省しているのかも知れなかった。終盤まで優勢を築いていた対局だったから、諦めきれないのかも知れない。青野先生が言っていた、「藤井二冠は誰よりも勝ちたいという思いが強い」という言葉が蘇った。どれほど悔しいのか、その胸中は計り知れない。それでもやはり最後まで指すことはなく、藤井二冠は投了した。私は少し涙が出た。

会場内は拍手に包まれた。豊島叡王への祝福と、藤井二冠への労いと、そして素晴らしい対局への賛辞の拍手だ。棋譜が残されていくことがなんだかとても尊いことのように思えた。その暗号めいたものは、将棋という伝統が続く限り、誰かがその美しさを理解することができるのだ。

終局後、驚くことに、大盤解説会場に豊島叡王と藤井二冠が顔出しをするという。私は出入り口の真横の席を陣取っていたから、とても嬉しかったし、期待で胸がドキドキとした。壇上では鈴木先生が本日の対局のポイントを振り返っていたので、出入り口と壇上とを交互に見た。今思うと失礼だったかもしれない。

鈴木先生が「対局後で色々と思うところもあるだろうから、質問に答えられないこともあるかもしれませんが、ご容赦ください」というようなことをおっしゃっていて、その気遣いに感心し、また感動した。

進行役のスタッフの方が「お二人を拍手でお迎えしましょう」と言った。出入り口の奥に人影は見えない。反対側の壁に屏風が立ててあり、その奥がもう一方の出入り口なのだと気がついた。きっと、そちら側から入って来られるに違いない。

会場が拍手で包まれた。やはり、屏風の奥から、豊島叡王と藤井二冠が現れた。斜め前に座っていた人は、二人が反対側から会場に入ってきたことに気が付かず、誰もいない廊下に向かってカメラを向けていた。

豊島叡王はともかく、藤井二冠もあまり変わった様子はなかった。対局後で二人とも疲れているだろうに人目に晒されて、棋士も大変だなあと思った。鈴木先生がいくつか質問をし、それに二人が答えた。距離の問題もあるのだろうが、二人から昼間見かけた時のような緊張感はなくなっていた。特に豊島叡王は安堵しているようにも見えた。

藤井二冠はやはり、8八とが良くなかったようだと言っていた。棋士はやはり、AIなんて見なくても正確に形勢判断ができるんだなぁと改めて驚いた。最後に大きな拍手を一身に受けて、二人は会場を後にした。

そのあとは抽選会だった。本当は三浦先生の役割だったそうだが、流れだ鈴木先生が行うことになった。山田先生は「弟弟子はどっかいっちゃった」とぼやいた。

抽選会ではポスターや色紙が当たるそうだ。私はくじ運が良いほうではないので、どうせ当たらないだろうと高を括っていた。ポスターの抽選が終わり、色紙の抽選が終わった。最後に、叡王戦のスポンサーである不二家のお菓子詰め合わせの抽選が行われた。司会進行のスタッフが「とても貴重な品です」となんだか仰々しい口ぶりで言っていた。不二家のお菓子詰め合わせも、まさかそんな風に言われるとは思ってもみなかっただろう。当選者の番号と名前が読み上げられていく。3人目に呼ばれたのは私の番号だった。まさか当選するとは!

家に帰って中身を見てみたら、当たり前だが、不二家のお菓子の詰め合わせだった。至って普通で特に変わったところは見受けられず、どのあたりが貴重なのか、私の乏しい知識と想像力では判断できなかった。ミルキーの包み紙みたいな柄の厚紙製の箱だろうか。それとも、このラインナップのことだろうか。しかし、いずれにしろ、初めて行った大盤解説会の抽選会で当選したという経験そのものが貴重だったと思う。

余談だが、途中、解説には参加しなかったものの、屋敷先生が会場内後方、恐らく関係者席にいた。最初、屋敷先生のそっくりさんかと思ったので、驚いて何度も後ろを振り返ってしまった。他の人はあまり気にしてない様子だった。みんな慣れているのかも知れない。

緊張しながら参加した大盤解説会だったが、玄人に話しかけられるというような心配していたイベントもなく、途中で寝てしまうようなこともなく、本当に楽しかった。棋力がないながらも、将棋って本当に面白いと思えたし、棋士の先生方を間近で見て、貴重なお話を聞けて、感動ものだった。最後の1分将棋の応酬では文字通り手に汗を握り、次の一手が気になって1分が5分くらいに感じた。普段AI評価値を眺めているので、評価値がないのも新鮮だった。しかし、一番のハイライトは何と言っても間近で藤井二冠を見た事である。人を見てあんなにも感動を覚えたことがなかったから、そんな自分に驚いてしまった。興奮冷めやらぬまま、帰りの電車内で狂ったように書いた感想(?)の九割がこのnoteを占めているため、多少誇張的な表現が散見されるかもしれない。それほどの衝撃だった。なぜそんなにも心が震えたのか、その答えを明らかにするためにも、まだ藤井聡太二冠の、将棋のファンで居続けようと思う。

そういえば、当日買った伊右衛門のラベルを剥がしたら、大大吉が出た。ツキのある一日だった。


※事実確認をせず記憶を頼りに書いているため、多分事実とは異なる記述があります。

※特定の人物や団体を誹謗中傷する意図は一切ありません。

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