よい子のための童話『悪について』
とある路地裏のゴミ溜まりに、ネズミたちが住んでいました。
ネズミたちは困っていました。
恐ろしい爪をもつ1匹の猫が、気まぐれに襲ってくるのです。
ネズミたちはコソコソ隠れながら生きていましたが、それでも被害は絶えません。
「こんな生き方はもう嫌でチュウ!」
1匹のネズミが言い出しました。
「自由に生きていいはずでチュウ!」
隠れて生きてきたネズミたちにとって、それはそれは新鮮な言葉でした。
悪いのは猫だ。自分たちが隠れる必要はない。と気づいたネズミたち。
さっそく猫へ抗議しに行きました。
「やい!猫!オマエは自由を侵害している悪い奴でチュウ!!!」
「自分が何をやってるか!わかってるんでチュか!?」
ネズミの言葉が猫に通じるわけありません。
ペロリと一匹、食われてしまい、ネズミたちは逃げ出しました。
直接抗議するのはマズかった。ネズミたちは反省し、新たな作戦を考え、思いつきました。
「『猫は悪』のポスターを貼りまくるでチュウ!きっと被害が減るでチュウ!」
「『猫から身を守る方法』のポスターを、『猫は悪』のポスターに貼りかえるチュウ!」
「『身を守れ』なんて自由じゃないでチュウ!悪いのは猫!堂々としてればいいんでチュウ!」
ポスターを貼る作業の間に一匹、からだを、グチャグチャにされて、内側が、外側のようになりました。
ネズミたちのポスターは小さすぎて、猫の目には入りませんでした。
抗議には意味がない。ネズミたちは反省し、新たな作戦を考え、思いつきました。
「猫を拘束するでチュウ!アイツも不自由を味わえでチュウ!」
「みんなで紐を持ってグルグル回れば、きっと拘束できるチュウ!」
ネズミたちは猫のまわりをグルグル回ります。猫はネズミたちを追いかけます。
一匹、傷からいっぱい、茶色の液をだして、動かなくなりました。
紐が絡まり、とうとう猫は動けなくなりました。
「やったでチュウ!今日はお祝いでチュウ!」
ネズミたちがお祝いの準備をはじめ、太陽がすこし赤らんできたころ。路地裏に何かが現れました。
それは、ニンゲンの子どもでした。
「かわいそうだね〜」という音を発しながら、ニンゲンは猫の紐を解きました。
猫は、お腹が空いたのか、体を動かしたくなったのか、はたまた、どちらでもないのか。
理由は猫にしかわかりませんが、お祝いの食糧を調達していた一匹を、さんざん爪で、いたぶってから、噛みちぎりました。
ネズミたちは、もうゴミ溜めから出ることはありませんでした。
ネズミたちは諦めたのです。
諦めたから、自由と言い出した一匹を、みんなで、袋叩きにして、殺して、みんなで食いました。
いつもいるネズミがいなかったので、猫は、
いつもは漁らないゴミ溜めを漁りました。
猫は満腹になって、すやすやと眠りました。
めでたくない、めでたくない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?