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手づくりグリーティングカード17:そっと告げるバレンタインデーカード

今回はバレンタインデーカードについてのお話です。


冬の街に咲く赤

イギリスは思い出のある国です。その話は長くなるので割愛しますが、さて、かの国ではクリスマスデーが過ぎ、年が明け、十二夜も終わると長いクリスマスはようやく終わります。

クリスマスのデコレーションが片づけられた街はがらんとして、明かりを失ったような暗さ。それは冬特有の曇天と日の短さのせいもあるでしょう。

1月は気分がふさぎがちになるという話も聞きますし、実際に日照不足から体調を崩す人もあるようです。

しかし、やがて2月にもなれば再び街には華やかさが戻ってきます。2月14日の「バレンタインデー」を前に、ショーウィンドウには赤いハートや赤いバラのディスプレイ、そして赤いバレンタインデーカードとあちこちで「赤」が咲き始めるのです。

主役のカード

バレンタインデーは祝日ではありませんが、恋人たちやカップルはおめかしをして外で食事をしたり、観劇をしたり、少し特別なひとときを過ごします。

贈り物をすることもよくあります。
男性から女性への贈り物ナンバーワンといえば赤いバラ。バレンタインデー当日にはバラの花を1輪手にした、あるいは花束を抱えて道ゆく男の人もちらほら。

スパーマーケットにずらりと並ぶチョコレートや泡のワインを見ると、それも人気のプレゼントのよう。ジュエリーの売り上げがぐんと伸びるのもこの時期です。

では、女性から男性へのプレゼントはというと、実はこちらはあまり聞いたことがなく・・・。いづれにしても、近年、商業化された感もあるバレンタインデー。それを疎んじてプレゼントは買わないという人もいますし、特別なことはしないというカップルもいます。

でも、そんな場合でもたいていすることがひとつあります。それはバレンタインデーカードをおくることです。

片想いのカード

愛のメッセージとしておくるバレンタインデーカード。イギリスにはふたつの種類があります。

ひとつは、すでに愛を育んでいるカップルや恋人たちの間でおくり合うカードです。パートナーや恋人をどれほど愛しているか、チョコレートもとろけそうなほど甘いメッセージが綴られたカードがあれば、いたってシンプルなもの、イギリスらしいユーモアのあるものもあります。

そして、もうひとつは片思いの人へおくるカードです。カードで恋心を打ち明けるという訳なのですが、さらにユニークなのはそのカードには自分の名は書かないこと。代わりに ”from your secret admirer" (ひそかに憧れている者より)などと署名します。

なんでもデジタルのこのご時世に、紙のグリーティングカードで愛の告白とは、しかも自分の名は告げないなんて、まるで中世のおとぎ話のようですが、すましていても少しはにかみ屋さんのところがあるイギリス人らしいと思います。

恋の行方

気になるのは匿名のカードが届けられた後のことです。

例えば、ここに妙齢の女性がひとりいたとしましょう。
朝会社に着き、自分のデスクに座ったら一通の封筒が引き出しの中に。開けてみればバレンタインデーカード、名は「君をいつも遠くから見つめている者」。

カードを手に「誰だろう?」とあたりをそっとうかがう彼女。その視線の先で、ある男性がこちらを見て優しく微笑んでいます。

心臓がどくん。実は彼女もその人を悪しからず想っていたのでした。
「あの、今度の週末、一緒にお食事でもいかがですか?」
お昼の休憩時間に思い切って男性に声をかけた彼女に、
「うれしいです、ぜひ」

恋が始まり、やがて二人は人生のパートナーに。めでたしめでたしです。

一方、こんなシナリオも考えられます。
食事に誘うところまでは同じですが、その返事は、
「ちょうどよかった、実は僕も誘おうと思っていたんです。僕の婚約パーティーがあるんですよ。良かったら来ませんか」

彼女はとんだ勘違いに赤面し、そのうえ失恋のダブルパンチです。

とはいえ、これは彼女の胸の内で起こったハプニング。だれにも見えません。バレンタインデーの「君(きみ)」もまだどこかにいます。

ちなみに匿名のカードをもらっても、興味がなければそれきりでいいそうです。カードをおくった人もその様子を見て叶わぬ恋だと察するのでしょうかね。

真心をこめて

匿名のバレンタインデーカードにまつわるエピソードが、トーマス・ハーディーの小説「遥か群衆を離れて」の中にあります。

舞台は19世紀のイングランドと少しばかり昔ですが、ヒロインのバトシェバが地元の裕福な農場主ボールドウィンに、ある年バレンタインデーカードをおくります。

バトシェバに恋心を抱いていたボールドウィンはうれしさに舞い上がり、バトシェバに求婚します。ところがカードをおくったことは軽率な行為だったとバトシェバに謝られ、その結果ボールドウィンの心は深く傷つくのです。

昨今ソーシャルメディアにおける匿名性が大きな社会問題となっていますが、バレンタインデーカードといえどもお遊びやいたずらはいけません。どのようなカードでも誠実な思いだけを託しておくってくださいね。










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