20231024 不可逆な変化

若手社員が会社に来なくなった。
メンタル系の療養でしばらくは休暇になるとのこと。

私も数年前、ストレス性の自律神経失調症の初期症状に苦しみ、精神疾患という地獄の入口を垣間見た。映画館や電車で急な息苦しさを感じたり不眠が続いた。映画中にジワジワと焦燥感が募り、外になんとか這い出た時には発狂するか死ぬかという心地だった。

それでも地獄の“入り口”と書いたのは、初期段階で自己療養でなんとか回復したからだ。自己療養で回復というと、なにか懸命な努力の末、症状を克服したようだがそんなことは全くなく、ただ仕事が比較的暇で私生活もストレスがない期間がたまたま数ヶ月続き、勝手に治った、だけだ。

精神疾患の恐ろしいのは「もう元の生活に戻ることはないのではないか」という実感をありありと感じることだ。実際には精神疾患は脳の病気であり、治療法がある。が、日々ランダムに発現する症状に苛まれていると、“治る”というイメージがどんどん遠ざかり霞の中に隠れていってしまうような恐怖を感じる。

一般的な病気であれば、症状は良くなるか悪くなるか、しかない。徐々に良くなっていれば安心するし、悪くなれば不安になる。ただいずれにせよ、少なくとも未来の見通しは立つ。一方精神疾患は(長い目で見れば傾向はあるだろうが)症状がランダムに現れる。予期できないがゆえに、病に振り回されてしまう実感を強く感じた。

重度の精神疾患であれば、もうほとんど自我が擦り切れるくらい、病に引きづり回される気分なのではないか。ほとんど自分の人生を生きることができず、“苦痛”が私を生きている境にまで達するのではないか。地獄の入り口に立った私は身震いした。

そのような人がこの日本に何十万といることにも戦慄する。
想像力を振り絞って彼らを理解し、優しさを振り絞って彼らと向き合わなくてはならない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?