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自分で切った傷を、何も聞かずに縫ってくれた先生へ。


この記事では書かなかった、ちょっとした事故の話をしようと思う。

何度も縫ってる人もいると思うけれど、私は基本放置していたので、本当にやばいと思って医療機関へ行ったのは一度きり。私の中では一大事だった。

詳しめに書くところもあるので、ざわざわしがちな人は自衛して欲しい。


その日は、すべての授業がオンラインで、1日家にいるつもりだった。
休憩時間になり、イヤホンを外す。

飲み物を取りに行くかのようにカミソリを手に取った。何故かはよく分からない。
自分が行動しているのを俯瞰で記憶しているから、少し解離していたのだと思う。

いつものように、キャップをあけて、切った。
何の感情もなかった。
辛いも苦しいも悲しいも何もなくて、空っぽの自分のまま切った。

そうしたら、やり過ぎてしまった。
一瞬時が止まったあと、血が溢れ出し、一気に現実に引き戻された。

とりあえずティッシュで押さえるが、間に合わない。
しばらく圧迫して、何重にもガーゼを重ねて、ひとまず蓋をした。

少しして冷静さを取り戻すと、これは受診した方が良いのではと迷い始めた。もともと医療機関には行き慣れている。そこのハードルは低い方だ。

傷がケロイドのようになって残ったら、家族にバレる可能性が高まる。
そのままにしていたら、後から化膿して面倒事になって、余計お金がかかるかもしれない。

そんなことを理由に引っ張り出してきて、受診する方向で行動を始めた。

時は木曜の夕方。

だいたいのクリニックは閉まっている。
救急へ行くほどの傷でもないし、その勇気もなかった。

探してみると、幸いにもその時間にやっている外科が近くにあったので、電話で確認してから行くことになった。
少しずるいかもしれないが、電話口では「切り傷」と言ってあった。

初めての場所だったから問診票を書き、順番を待つ。
診察室に入るなり、元気そうにみえたのか、少しきょとんとした顔で「(切ったのは)どこ?」と言われた。

長袖をたくしあげ、血でびしょびしょになっているガーゼを剥がす。その時点で医師も察したようだった。
切った時刻と道具を質問し、少し周りの皮膚に触れて動かした後、「これは縫った方が良い」と言った。

ベッドに横になり、腕を出す。
「目隠しする?」と聞いてくれたけれど、断った。
自分でやっておいて、ぱっくり開いた傷を怖がっているのが恥ずかしかった。

麻酔を打って、処置が始まる。
いつの間にか看護師さん(看護師以外のスタッフもいたかも)が何人か来ていて、そのうちの1人が私の肩に手を置いた。
処置には何の必要もない、いなくても良いような場所だったけれど、私はそのことを今でも憶えている。
誰かに触れられるのは久しぶりで、とても暖かく感じた。

きっとその場の全員が自傷による傷だと分かっていたけれど、理由や生活や精神状態などには一歳触れずに、ただ処置に必要な話だけをして、淡々と処置をしてくれた。

それが、とてもありがたかった。
自分でも説明できなかったし、誰かと話せる気力はなかったから。

そして申し訳なさでいっぱいになった。


お会計をすると、まず「手術」と記載されていることに驚いた。そうか、あのレベルでも手術というのかと。
そして保険適応にしてくれていることに感謝した。
自損は保険が効かないとどこかで聞いた気がして怖かったけれど、3割負担でお支払いをした。ありがたかった。

抜糸は1週間後。
でも、様子を見るために次の日も来るように言われた。
今から思えば、傷の様子見だけが目的ではなくて、未来の約束を入れてくれたのかなと思う。

実際は本当にギリギリで生きていたから、人との約束を入れてもらったのは、良かったかもしれない。

私は恵まれている。こうして突然出会う人や場所に救われることが多い。

以来、そのクリニックには行ってないけれど、私はずっと忘れないし、とっても感謝しています。

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