スタンディングオベーション

15年ごろ前、部署内の平均年齢は低かった。故に常にみんなでBBQをしたり、スノボ旅行に行ったり、飲みに行ったりと会社外でも一緒に遊ぶことが多かった。会社もチームワーク向上等の為こういったイベントをサポートしていて、色々なイベントが企画されていた。

そのイベントの一つがMovie Nightで、要するにみんなで仕事後に映画を観に行こうという簡単なものだったがこのイベントの幹事が絶対団体行動をしない同僚Bだった。私はなぜか彼と仲が今でも良く、現在は海外に住む彼が帰国するときは会うし、私が彼の国に行くことがあれば連絡をして会う。ただこのBはだいぶひねくれもので、こういったイベントに参加なんて絶対しないし、企画するなんてもっと考えられない。なぜ彼がこのイベントの幹事を引き受けていたのかは謎だが、私としてはひねくれものな彼がせっかく企画しているのだから行ける時は行かねば!と思い極力参加するようにしていた。

あれは忘れもしない第3回目の開催日。最初の2つは何を観たか全く覚えていないが、この3回目はトランスフォーマー1だった。トランスフォーマーはたぶんアメリカ人にとってはガンダムのようなもので私の年代なら誰しもが幼少期にテレビで観て育っている。私も子供のころ弟と観ていたので再現度の高い映画を楽しんだ。

事件は画面が暗くなり、エンドスクロールが流れたときに起きた。主人公の名前が流れ、2,3人名前が表示された後、まだ真暗な劇場で突如Bが立ち上がった。先に出てトイレにでも行くのかと思ってみていたら彼はいきなり拍手をしだした。そして

「いぇええええええい」

と叫びだしたのだ。

私は唖然と彼を見上げたし、彼の反対側に座っていた別の同僚もびっくりして彼を見上げていた。そして私に視線を向け、どうしようこれ、といった表情をした。

映画館はまだ真暗で立っているのは彼一人。叫んでいるのも彼一人。私たちは必死に彼の腕を引っ張っり座らせた。それでも彼の叫びと拍手は止まらない。

しばらくしてようやく静かになって、劇場が明るくなった時私たちは皆Bに対して怒った。映画館で何をしてるんだ、最後まで静かにしてろ!と怒ると彼は逆に怒り出した。曰くヒロインの女優の演技は素晴らしかった。皆なぜそれに対して賞賛しないのかと。

は???

要するに彼はお気にいりの女優の名前が出ている間、拍手喝さいしたかったのだ。当然劇場の他の客は私たちを見ている。本当に恥ずかしかった。私たちは極力彼と離れて劇場を後にした。後にも先にも目の前でスタンディングオベーションをしたのは彼一人。ある意味素直に褒めることができる彼は正しいのかもしれない。一緒にはいたくないけど。

その後このMovie Night第4回目が開催されたかというと...私が知る限り開催されていない。

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