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「隠れた存在の絵画ミステリーを楽しむ~『ベラスケスの十字の謎』~」【YA㉜】

『ベラスケスの十字の謎』 エリアセル・カンシーノ 作  宇野 和美 訳  (徳間書店)
                                                                                                 2006.11.6読了
 

生まれつき体が大きくならないという障害を持った、いわゆる小人のニコラス・ペルトゥサトは、父親から捨てられ、イタリアからスペイン国王フェリーペ四世の王宮へと連れてこられました。
 
17世紀当時、スペイン王宮ではこういった小人や道化を身近に置き、慰み者として扱っていたようです。
 
連れて来られるガレー船で出会った同じ境遇の大先輩・アセドに、自分を見失わず誇りを常に保てと教えられます。
王宮へとたどりつき働き始めたニコラスは、持ち前の記憶力のよさと賢さから次第に王宮で特別な地位を持つようになります。
 
そのうち国王づきの肖像画家・ベラスケスの館に招かれ、そのとき製作途中であった絵『侍女たち(ラス・メニーナス』の画面の中にニコラスも描きこまれることになります。
 
しかしその絵には、ベラスケス自身とある人物(この人物もこの絵の後列右端に描きこまれています)とのある禁断の約束と、彼らの運命をにぎる秘密が隠されていたのです。
 
 
ダンテの『神曲』の一節に引喩されるニコラスとベラスケスのこの後の行く末、またこの有名な絵の謎に迫る史実とフィクションが入り混じったファンタジーは、『ダ・ヴィンチ・コード』に続く絵画ミステリーで興味を引く物語であると考えます。
 
 
ちなみにこの絵『侍女たち』の中心に描かれている王女マルガリータは、時の国王フェリーペ四世の娘であり(他の子どもは早くに亡くしています)、クラシック曲『亡き王女のためのパヴァーヌ』(ラヴェル作曲)という曲を捧げられています。(この本の内容には全く関係もありませんが、念のため)
ルーブル美術館でこの絵を観たラヴェルが、インスピレーションを得て作曲したとのことです。
 
マルガリータ王女は体も弱かったためか、21歳の若さで亡くなっているようで、この曲もその生き様のせいか哀愁と切なさが漂っているような気がします。


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