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荀子 巻第十九大略篇第二十七 66

人に君たる者は臣を取るに慎しまざるべからず。匹夫は友を取るに慎しまざるべからず。友なる者は相いたもつ所以なり。道同じからざれば何を以て相い有《たも》たん。薪をひとしくして火を施せば、火はかわきたるに就き、地を平らかにして水を注げば、水はしめりたるに流る。れ類の相い従うや、くの如きの著しきなり。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

ざるべからず→《打消しの助動詞「ざり」の連体形+連語「べからず」》(二重否定で意味を強めて)…しなければならない。…せよ。
匹夫→身分の低い男。教養のない、ただの人。
有→⑥たもつ。(イ)親しみ守る。大切に守る。
道→みち。ことわり。人が守り行うべき決まり。道理。
施→ほどこす。めぐむ。めぐみあたえる。
燥→かわく。かわかす。からからになる。
就→つく。むかう。行く。
溼→じめじめしている。水気を帯びている。
拙訳です。
『君主が家臣を採用する時は慎重にしなければならない。ただの人が友人を選ぶときは慎重にしなければならない。友人というのはお互いを大切に守る根拠である。守り行うべき決まり事が同じでなければ、何をもってお互いを大切にするのだろうか。薪を均一にして火を与えれば、火はカラカラに乾いた方に向かって行き、地面を平にして水を注げば、水はじめじめと水気を帯びている方に流れる。そもそも似ているものどうしが互いに言うことをきくのは、先に挙げたような火や水の例の顕著なものである。』

友を以て人を観ればんぞ疑う所あらん。友を取るには善人なるべく慎しまざるべからず。れ徳の基なり。詩に、大車をたすくる無かれ、れ塵冥冥たり、と曰えるは小人とる無からんことを言うなり。

(金谷治訳注「荀子」岩波書店、1962年)

夫→「それ」と読み、「そもそも」「いったい」「さて」などの意を表す。
類→たぐい。なかま。似ているもの。同じ性質をもつもの。また、それを区別する。
従→したがう。言う通りにする。言うことをきく。
疑→ためらう。しりごみする。迷う。とまどう。
将→たすける。救う。支える。
維→「これ」と読み、あとに続く語を強調する意。
冥冥→①暗い形容。
拙訳です。
『友人からその人を観察すればどうして迷うことがあるだろうか。友を選ぶには善人でなければならず慎重にしなければならない。これが道徳の基礎である。詩経に、「大きな車を助けて(後ろから押して)はいけない。塵で真っ暗になる。」とあるのは、(大きな車を小人に例えて)つまらない人と一緒に居てはいなけない、ということを言ったのである。』

上に立つ人は部下を慎重に選ばなければならないのに対して、一般の人は友達を慎重に選びなさいと教えてくれています。友人は助け合う存在ですが、何をもって助け合うかと言うと、お互いが同じ基準・道理を持っていることで助け合うことができます。友人を見ればその人がどんな人かが分かります。同じ基準・道理に適う相手は善人でなければならず、友達選びは慎重にしなければなりません。翻って自分も友人を貶めないように、きんちと善人でいなければなりません。
令和六年の初読書、素晴らしい友人と、素晴らしい一年を過ごせればと思っています。

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