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加害者としての騒音問題が泥沼化して3年、とりあえず解決した後、答え合わせができた話

 リディラバという、社会の無関心の打破を理念に、日本の社会問題全てを対象にした事業展開を行うソーシャルベンチャーに転職して2年。自らが社会問題の当事者となっている自覚はいくつか思い当たるものの、その始めと終わりがはっきりした経験をしたので、Facebookに連続投稿したものを再編集し、記録としてここにまとめておきます。
 ついでに、いつかやってみたかった有料コンテンツにもチャレンジしています。目次の4と5は有料設定にしましたが、私とFacebookで繋がっている方(実際お会いした方が対象です)は投稿にて全文確認することができます。

1.クレームの始まり

「この棟は一番最後に建てられて、工期もかなり遅れていたので、手抜き工事?なんですよ。上下階を隔てるコンクリートが設計より薄いんじゃないんですかね。」

2018年に築30年の中古マンションを購入。気合い入れて2ヶ月かけたリノベーションも完了し、入居した翌日、静かに来訪した下階の彼女は困った様に教えてくれた。

「子どもも巣立って、静かな老後を暮らせると思っていたのに…。」

目を逸らしてため息をつくのを見ると、申し訳なく思ってしまう。この部屋は私たちが来るまで長く入居者がおらず、空き家だった。更にその前は老婦人の一人暮らしだった。対して当時3歳、1歳、0歳の5人家族がやってきたとなれば、無音からのギャップは大きいだろう。
その後も、月2-3回ペースで彼女は来訪した。

「出窓下の収納扉、アレの開け閉めも響きます。」

据え付けの収納、扉が大きい分太鼓みたいな音はするな。

「キッチンかリビングか、床が軋む様な音が。」

冷蔵庫の前は踏んだら必ず軋むとこあるな。

「ロボット掃除機は頭の上をセスナ機が飛んでいるみたい。」

1時間動きっぱなしだしな。

「深夜に洗濯されてます?干す時の窓の開け閉めの音も、壁を伝って聞こえるんですよ。」

共働きだと洗濯は夜しかできないし…

「これは何とも難しいと思いますけど…フローリングの防音床は湿度高いと軋むでしょ?あの音もねえ…」

元々カーペット仕様の床をフローリングにしていたのは前の住人だ。うちがリノベーション時に貼り替えるに当たって、防音等級を上げた床材を使った。踏むと少し沈むから、クッションが仕込まれているんだろう。そして確かにこの床は、わずかに軋む。発生場所はランダム。この音も…?

「お子さんの足音何とかなりませんか。トトトトトって走ってる…ほら!その音!!」

何回目かの訪問で、廊下を通り過ぎた長女を指差してクレームを述べたエピソードは、妻はその後何度も語った。走ってない、歩いてるだけだったと。

「ダダダという地団駄をやめさせて下さい。」

「お兄ちゃんは大分静かに歩かれますが、下のお子さんですかね…。」

「何事かと思いました。カルタ取り?床ではやめてもらえます?」

「もうすごい音!お客様は15:00ごろまでというお話でしたので、守っていただかないと!」

友人を呼んだ時、一軒家の子どもだったりすると、うちの子の歩き方が忍者に見える。大勢の来訪者がある時は、事前に知らせるという取り決めがいつの頃からかできていた。うるさくなるのが分かっていれば外出の予定を入れてくれる事もあるらしく、そうであれば気が楽だと思ったが、必ず外出するとも限らないらしく、事前に知らせた客人が帰るはずの時間を過ぎると、客人がいるのも構わず来訪してクレームがある。
彼女は1人暮らしらしい。時折木管楽器ぽいケースを担いで出かけるのを目にする。そして、激しく耳が良いようだ。
マンションの隣人は選べない。一応事前情報は集めており、特段気にする様な方は住んでいない、と聞いていた。まさか、ここまでクレームを受け続ける事になろうとは…。
認識した後ではもう遅い。何せ私たちはこの物件を購入している。ここで暮らすしかない以上、対策して、コミュニケーション取って、折り合いつけて行くしかない。覚悟を決め、終わりのない防音対策の日々が始まった…。

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(冷蔵庫の前の軋む床。マーキングして踏まない様にした。)

2.終わりのない対応

とりあえずマンションではよくある基本的な防音対策は行った。
洗濯機の防振マットを買い替え、ロボット掃除機を動かす時間は日中に。
キッズスペースにはニトリのジョイントマットを敷いた。
床が軋む箇所はマーキングして踏まない様にし、開け閉め音がうるさいと指摘のあったサッシには油を差した。
問題は子どもの足音だ。注意はしているし、打突音にならない様な歩き方も常に指導している。下階の方へ努力している事を示そうと、保育園に大人しい歩き方を指導している旨共有し、園でも忍者走りをさせる様お願いもした(実効性は期待していない。みんなとドンドンはしゃぐのが楽しいに決まってるから)。
そもそも子どもは走るもの、騒ぐもの。言って聞かすにも限界があるし、言って聞かなくて怒るのもいい加減やめたくなる。

「本当はお父さんお母さん、このくらいの事で怒るのもどうかと思っているんだけど、、」

と常々思いながら怒っている。
でも中途半端に言い聞かせていると全く改善しない。そもそもこんな事で、という前提はいつの間にか薄れ、あれほど言ったのにいう事を聞かない、という事実が濃くなって、怒気だけが過剰になっていく。

「下の人に迷惑だから!!」

はまだいい方で、

「下の人が来たらあなたが謝りなさい!」
「下の人に聞かせたいの?!」

下の人どれだけ鬼キャラなんだと言わんばかりの扱い。怒って聞かない時点で怒るのをやめるべきと分かっていても止まらない。なので、物理的に打突音を軽減するため、防音効果のあるタイルマットを敷設。家全面はムリなので、足音が特に聞こえると言われたリビングとキッチン、廊下の一部に置いた。
そもそも私自身ホコリアレルギーで、カーペットやタタミはダメな方。長男もその反応が出ている。だから全面フローリングにしたのに、あえてカーペットを選ぶ事になるとは…。
更に冬の間は、3人分のフワフワルームシューズを用意。明らかに打突音は軽減される。これはあったかいし一石二鳥となった。
一度カルタ取りの札を取る時の音がうるさいと指摘を受けたので、座布団の上で行い、二本指で取るルールを導入して対策。この時は「こんなクレームってある??!」と半ば呆れてしまい、検索して同様の事例を探したほどだ。ぱっと明らかなものは見つからなかったが、当時愚痴る投稿をFacebookにしたら、何人かの友人が同様の体験を返信してくれた。思いの外よくあることのようで驚いた。
夜、外に干している洗濯物の、金属製の角ハンガーと物干し竿の金属同士が擦れる音が、風の強い日は特にうるさいという指摘もいただき、接触する箇所にテープを巻いて対策した。
その他も数多くの対策とクレームの繰り返し。さすがに当初より頻度は減っていき、2-3ヶ月に一度程度にはなったものの、クレーム自体が無くなる事はなかった。

上2人が大きくなっていうことを聞くようになったら、一番下が歩きはじめ、全員すくすくと育つので体重も増え、足音問題は常態化し、クレームもその内容がメインになってきた。1日のうち、子どもが家で活動しているのは平日で朝2時間弱、夜は長くて3時間弱程度なのだが、それが耐えられないらしい。

子ども達が通う保育園でコロナ感染者が複数出た時、2週間の休園に。平日も日中子どもが3人家にいる状態は、またクレームの元と思った私たちは、下階宛に事情を説明して我慢してもらうお願いの手紙を書いた。それを義父母の家へプリントアウトしに行った時、内容が義父の目に留まった。

「そこに住んでいる子どもが家にいるという至極当然の事に対して、赤の他人に許しを乞うとは、明らかに異常だ。当事者だからその異常性が分からなくなっている。」

そう聞いてはっとするモノはあった。
当事者だけでは解決しないから、現代の社会問題は解決しないまま残り続けている。当事者から遠い人たちを、社会問題の現場に繋ぐことが、解決のスピードを上げる。
そう考える今の会社に転職していたはずなのに!正に当事者だからこそ客観視できなくなっていた状態を、認知できていなかった事に愕然とした。
ここから、解決に向けて大きく歯車が回り出す。入居後、丸3年が経過していた。

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(物干し竿が台部に擦れて音が出るのを防ぐクッションテープ。下階の方は、この場所の下の部屋に寝ていたらしい。)

3.弁護士の介入

義父の提案は「弁護士へ相談」だった。
行くところまで行った感じ。私たち夫婦もそこまで…する?と思ったし、下階の方もまさか弁護士が出てくるとは思わなかっただろう。
でも、当事者間で解決できなくなっている実感値はあったので、ここは義父の提案に100%乗る事にした。お世話になっている不動産屋さんの紹介で、虎ノ門近くのマンション騒音案件を多く取り扱う法律事務所を訪問する。無料相談枠という事だが、気風の良い所長さんが対応してくれた。
要点は、

・今回の内容を勘案するに(経緯詳細は別途まとめて確認してもらった)、騒音基準値以上の音が、間断無く発生していたとは考え難い。
・であれば片山家から出ていた音は生活音であり、「受忍限度」の範囲内であると言える(もちろん正確には測定しなければ分からない)。
・出るとこ出てハッキリさせる(調停)という手もあるが、過去の判例からお互い配慮して生活しましょう、となる事が殆どで、費用面労力面からもお勧めしない。
・2者の間に弁護士が入り、やり取りする事も可能。一度「受忍限度超えない生活音に対してクレーム言って来ないで欲しい」という内容証明郵便を出すだけか、その後も継続的に2者の間に入るかで費用が変わる。

との事だった。騒音クレームを言われる側の案件は珍しいらしい。そういうものなのかな。

「経験上、こういったケースの騒音トラブルでちゃんと測定すると、実際は騒音に該当する音が無かったという事がほとんど。クレーム出す方が鋭敏過ぎるんですよね。強くクレームつけている方が、法に照らすと実は弱い立場にあるという事になります。」

そうなのか。出るとこ出たら、たぶん生活音だという事になる。でも下階の方が聞こえる音が減じられる訳ではないから、双方歩み寄って解決しましょうという事になるのだそうだ…。
よくよく考えてみるに、私たちは下階の方と対立したいわけでは決してなかった。私たちが騒音を出しているのなら直ちにやめたいと思っていたし、下階の方が音に鋭敏なのであれば、それに合わせた対応もできる限り取りたいと思っていた。
相手の身になってみれば、たまったものではないとも思う。こちらの出す音が聞こえ過ぎるくらいに聞こえているのであれば。実際当初ほどの細かいクレームは無くなっていたので、我慢いただいている側面も大きいのだろう。
しかし一方で、来客のあった時や晩ご飯の時、いきなり押されるチャイムの音が私たち家族に大きなストレスを与えていた事も確かだった。マンションの入り口のチャイムとドア横のチャイムは音色が違い、入り口チャイムが鳴らずにいきなりドア横チャイム音が鳴るのは、マンション内の住人が訪問してきたという事を示す。ドキッとしてディスプレイを見ると、物憂げな下階の方の鼻から上が写っている…妻と顔を見合わせて、お互いに表情がこわばる。実際の下階からの訪問は、3年経った今では2-3ヶ月に1回のペースになっているとは言え、訪問を受けた時のやり取りはどれも鮮明に覚えている。平常時でも、この音は聞こえているだろうな、これは大丈夫なんだっけ、あ床軋むとこ踏んじゃった、と常に考え続けているコストはかなり大きい。気にせず走ってしまう子どもたちを叱ってしまう私たちの弱さもある。何が大丈夫で何が大丈夫じゃないのか。下階の方の聞こえた音の話を全部間に受けると、何も音が立てられなくなってしまう。もちろん彼女も、物を落とす音、子どもの泣き声などは生活音で仕方ないし、我慢しますと言ってくれている。がその後に(でも聞こえてるけどね)と暗に言われている気しかしなくなっていた。
今後、子どもたちが大きくなるにつれて、3人それぞれ1人の時間が増えてくる。みんな同じレベルで下階の方へ配慮できるかと言えば、限りなく可能性は低いし、その調整コストは家族間でも、下階の方との間でも新たに発生し続けるだろう。
これら全部考えると、もう直接交渉は限界だ。
3年間よく頑張った!
費用はかかるが、内容証明郵便を弁護士から出してもらい、以後音に関する連絡は、弁護士を介して行ってもらう様申し入れをする事にした。
弁護士からの手紙は、こちらのこれまでの対応と、どれほど困惑している状況か、改善し続けたい意思はあることなどを含め、送付。
到着後、すぐに下階の方から弁護士事務所へ電話があった様だが、その後書面でのやり取りに移行。弁護士を介することに了解した旨の連絡もあったようだった。以降、何もなく2ヶ月が過ぎた。
そしてその日は突然やって来た。

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(静音構造のタイルカーペット。これを敷いてから足音が軽減されたと言われた。)

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