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エデンの逃亡

「ねえ、」
「はい」
何度も「ねえ、」と呼ばう。その度「はい」と応える。
決して名を呼ぶことはなかった。だからそれ以上の応えを持ち得なかった。
彼女は。
「死にたくない」
そう言っていた。そう言って飛び降りた。
赤い紅い、惨憺たる夕焼け空を背にして、彼女は身を投げ出した。
地面に散らばる肉塊と脳漿と血液とその他諸々の体液が、それでも、彼女を構成していたのだと思えば、紅玉に勝るとも劣らないほどに美しかった。

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