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NODA・MAP「兎、波を走る」の感想

野田マップの「兎、波を走る」のビデオを見た。

見に行くつもりだったけど、4、5回抽選に外れて、見に行けなかった作品だ。

それを期日限定のビデオ配信していたのだった。

で、その感想なのだが、残念ながら、かなり酷評にならざるを得ない。

それは、この芝居に対するというより、野田芝居への酷評である。

古い話で恐縮だが、私が本格的に芝居に「ハマった」のは、夢の遊眠社の「半神」を見たのがきっかけだった。「世の中にこんなものがあるんだ!」と、大げさでなく思った。故に、野田芝居への思い入れは人一倍強くて、芝居を見るためだけに何度も新幹線で渋谷や池袋に出かけた。

中でも、特に「番外編」は面白くて、「赤鬼」や「THE BEE」なんかは、手放しで絶賛した。

しかし、近年、「番外編」はなくなり、大人数の本編だけになり、人気俳優を使ったいかにも「野田的な」跳んだり跳ねたりする芝居を見る中で、少しずつ違和感を感じ始めていた。

「この人は本当にこんな芝居をやりたいのだろうか?」と思った。番外編とのスタイルの違いなどから考えても、40年前の形式をなぞる必要があるのか疑問だったし、キャスティングを見ても、「営業的(興行的)な理由」を感じざるを得なかった。

それでも私は見続けた。しかし、やがて「もういいかな」と思う出来事に出くわした。それは2016年の「逆鱗」という作品である。これは、人間魚雷回天を扱った反戦劇である。あえて「反戦劇」と書いたが、それにふさわしい明確なメッセージ性を持った芝居だった。最初「あれ?こんなわかりやすくていいの?」と思った。野田作品は、難解さが一つのウリであって、それ故に凡人には理解の及ばない鬼才としての評価を得ていたのだから、少なからず驚いた。で、次に、まあ、わかりやすくてもいいのだが、そのメッセージの平凡さに驚いた。まさに古色蒼然とした「反戦劇」の域を出ないのだ。

私は、個人的に、「テーマありき」の作品は苦手である。それは、芝居でも映画でも小説でも同じだ。しかし、一概にテーマやメッセージを否定するつもりはない。ただ、それが、単なるプロパガンダであって、作品が、その「例え話」になってたりするのだと、受け付けられない。この「逆鱗」には、そういう臭いを感じてしまったのだ。

悪い予感は当たってしまうもので、これ以来、野田マップの作品は、どれもこれもわかりやすくて、メッセージ先行の造りになってしまった。どれも同じパターンなのだ。「ロミオとジュリエット」とか「不思議の国のアリス」とか、そういう枠組みで始まって、いつものように「野田仕立て」の言葉遊びや派手な動きの中から、本当のテーマが顔を覗かせる。そういう仕掛けだ。それが、人間魚雷だったり、日航機事故だったり、今回は北朝鮮の拉致事件だったりするわけだ。

で、話を戻すと、今回の「兎、波を走る」は、入り口が「不思議の国のアリス」で、出口が「拉致事件(横田めぐみ)」だった。

十歩譲って、テーマありき、メッセージありきでもいいだろう。そういう芝居もあるだろう。問題は、そのメッセージだ。

先に「逆鱗」を古色蒼然とした反戦劇と書いたが、今回の「拉致事件」もそうだった。「異常な独裁国家による非人道的な拉致事件は絶対に許してはいけない」まさに、この30字ばかりの説明で収まってしまうような陳腐なメッセージでしかなかったのだ。それを、いろいろと野田色でデコレーションしているわけだが、中身はそれだけである。まさに「寓話」そのものだ。

もう、これだったら、デコレーションなしの新劇でやったらどうなの?と思った。プロパガンダ芝居でいいじゃない?と。

拉致事件を批判するのは大いに結構。大事な問題だ。ただ、そのメッセージがあまりにも凡庸なのだ。通俗的なのだ。何か、独自の鋭い切り口とかないの?と思わざるを得なかった。

そう言えば、話の中で、よど号事件の赤軍派を扱ったシーンもあった。世代的には彼らへのいろんな思いもあるだろう。しかし、それは「自己陶酔した勘違い野郎たちの好き勝手」という平凡極まる評価に過ぎなかった。おいおい、作家だろ?もう少し深い言葉はないの?と思った。例えば、つかこうへいは「飛龍伝」で、全学連闘士と機動隊員の愛憎半ばみたいなのを書いてるよ。そういうアプローチはないの?「左翼思想にかぶれた若者の暴走」って、そんな大味な認識って、サンケイ新聞レベルじゃん。

もう一つ大きなモチーフとして「母」というのも扱っているのだが、これもありきたりの域を出ない。

偉そうに言わせてもらうと、「人間」が描けてないのだ。新聞記事なら「事件」を扱えばいいだろう。でも、作家は「人間」を書かなくては・・・・と思うのは、私の思い込みなのだろうか?

正直言って、野田秀樹は狂気の異才、鬼才であってほしかった。こんなに人畜無害の薄っぺらい「常識人」であったなんて、そんな姿を見せてほしくなかった。私が過大評価してたのだろうか?ないものねだりだったのだろうか?こんなのだったら、宮崎駿の方がよっぽど深いよ。(宮崎ファンの人、怒らないで!)

もういいよ。この人なら、文化勲章とかあげるのにふさわしい。何の毒も危険性もないから、どうかあげてやって下さい。


【蛇足】
野田作品で一番面白かったのは「THE BEE」で、あれは、原作の筒井康隆と野田の半分ずつの面白さだと思っていたのだが、残念ながら筒井康隆の面白さが90%だったのですね。

もう、あのパターンでやればいいんじゃないの?脚色と演出で行こうよ。それしかないよ。オリジナルは無理だよ。オリジナリティがないんだから。

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