ショートショート#1「駅伝家族」

 駅伝の醍醐味は襷を渡す瞬間だ。
走ってきた選手は、「後は任せた!」と次走者に思いを託す。
襷を受け取る側は、「よくやった!」と労いの言葉を掛ける。
一瞬の出来事だが熱い言葉を掛け合う、胸の熱くなる瞬間だ。

高校二年生の僕は父・母・妹と四人で横浜市内の権太坂で暮らしている。
両親は共に北海道の出身だが、箱根駅伝を愛するあまり生観戦可能なこの地にマイホームを建てたらしい。
我が家には母お手製の襷がある。
刺繍で「足立家」と記されている。

小学4年生になった頃、友達の家には襷がないということを初めて知った。
襷がなくてどのようにコミュニケーションをとるのだろうと、当時の僕は不思議に思ったものだ。

「今日も稼ぐのよ」
母が肩から襷を外し父へ渡す。
「任せろ。夕食は頼んだ」と父が襷を持ち、妹と共に家を出る。
そしてバス停にて、
「家庭科も手を抜くなよ」
「会議で寝ないでね」
と、父と娘が繋ぐ。
胸の熱くなる瞬間だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?