従業員の「好きな場所から働きたい」を叶えるEORという選択
筆者は外資系企業でビザイミグレーションのコンサルティングを行っていますが、最近よくクライアントの人事担当者から従業員のリモートワークについての相談を受けます。
最近、人事制度の一環として、従業員が年間の一定期間、勤務地以外の国から勤務することを許可するプログラムを導入する企業が増えています。
よくあるのは年間30日程度の短期間のワーケーションを見込んだものです。これは従業員が世界中の好きな場所から働ける素晴らしい制度で、実際、こうした制度の設定により若く優秀な人材からより興味をもってもらえるようになったという話も聞きます
もう一つは、1年以上の長期間を想定したもので、配偶者の国外転勤への帯同で国内で勤務し続けることが難しくなった場合、引き続きキャリアを継続するため一定期間国外からリモートワークをすることを認めるというものです。
いずれも従業員の生き方、家庭の事情に配慮した素晴らしい制度ですが、一方でこうしたリモートワークへの対応はグローバル人事担当者にとっては非常に頭の痛いものでもあります。というのも、従業員が誤って違法な状態で国外勤務しないようにするため、リモートワークの対象となる可能性がある各国のイミグレーション、税務、社会保険の制度を事前に調査しておく必要があるためです。
対象国が数か国に限られるいうことであればまだしも世界各国が対象となるとリサーチも相当な負荷になります。
そんな中最近注目されているのが雇用代行業者(EOR:Employer of Record)というサービスです。
この記事ではEORというサービスの紹介や、使用にあたり留意すべき点を記載していきたいと思います。
雇用代行業者(EOR)ってなに?
EOR は企業に代わって従業員の雇用手続きを行うサービスで、海外市場に進出を予定しているものの、まだ法人設立まで踏み切れないといった企業や、前述のように従業員が自社の拠点のない国で勤務することとなった場合に、自社に代わって従業員を雇用し給与を支払い、税務申告、福利厚生の管理など行ってくれるサービスです。
また、別の用途としてはよく聞くのは従業員の配偶者が国外に転勤することになり帯同を予定しているが、引き続きキャリアを継続するため一定期間国外からリモートワークをすることが可能であるかというものです。
なぜEORが今注目されているのか
EORのサービスを利用することで企業は現地法人を立ち上げることなく、その国の法令に則った形で従業員を雇用することが可能になります。特に、日本のように言語の壁がある国や、国外から法令にアクセスし理解することが非常に困難な国の場合は、国外企業から見たときにこのサービスを利用する意味は非常に大きいと言えるでしょう。
本当に大丈夫?知っておきたいEORサービス使用のリスク
EORのサービスにリスクがあるとすれば、それは、現時点では各国当局や法令がまだEOR に対応できていない、もっと言うと、追いつけていないということではないかと思います。
例えばEORはビザの申請も「雇用主」として行ってくれますすが、たとえば日本の場合、日本の入管はEORについての公式な見解を現時点では示していません。
EOR は、あくまでも「形式的に」雇用をする会社です。ビザの例でいうと日本の雇用主が従業員のビザを申請するというのは一般的なことですが、本質的な指揮命令系統をもっていない企業について、入管が雇用主として申請を認めるかどうかというのはまだ未知数です。
もしかしたら、EORであることをはっきりと伝えずに提出され許可されているビザ申請もあるかもしれませんが、いつか「実質的な雇用主ではない」という点が問題視される可能性があります。
そもそも、確実な法令順守のためにEORを使用したにも関わらず、これでは本末転倒になってしまいます。
EOR 企業を利用する場合は、当該国の当局がEOR の事業形態を本質的に理解しておりその上で各種許可を出しているのかを事前に確認しておくことが現時点では重要になってきます。
いずれにせよ、会社に縛られて一定の場所で働く時代は徐々に終わりに近づいているのかもしれません。今後もこうしたサービスのゆくえに注目していきたいと思います。
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