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10回クイズ中に死んだ鈴木の顛末

「なあ鈴木」
「ん?」
「ピザって10回言って」
「いいよ。ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピザ、ピ…」
「…」
「…」
「どうした?」
「…」
「おい」
「…」
「え?」
「…」
 死んだ? え?
「鈴木?」
「…」
「おい、ピザって10回言えよ。まだ6回だぞ」
「…」
「おい、マジかよ」
「…」
 ちょっと待って。え、呼吸してないし。どうしよ。え。マジか。
「おい」
「…」
「おいピザって言えよ」
「…」
 人って10回クイズ中に死ぬことあるの? やばいマジでやばい。とりあえず救急車…。1、1、9。
―はい、こちら救急車。
―あ、救急車の方ですか?
―はい。どうされましたか?
―あの、友人が息をしてなくて…。
―息を? 詳しく教えてください。
―ちょっと意味が分からないと思うんですが、聞いてください。あの、10回クイズをしてたんです。
―10回クイズ? 
―そうですよね、そうなりますよね。あの「ピザって10回言って」ってやつです。
―ああ。で、あれが?
―あれで、ピザって10回言っているうちに、黙り込んでそれで…いや説明してる場合じゃないんですよ。とにかく、早く救急車を寄越してください。
―…ちょっとねえ、イタズラ電話はやめてくださいよ。
―イタズラじゃないんですよ。本当に息してないんです。
―いくらなんでもねえ、10回クイズ中に人は死にませんよ。嘘つくんなら、もっとまともな嘘ついてくださいよ。(ガチャッ)
 え、嘘だろ。こんな塩対応ってある? てゆうか人の生き死にに関わることで、塩対応とかだめじゃない? 「はい、こちら救急車」って出たけど、おかしくない? あいつやばくない? いや、いまはとにかく鈴木だ。おい鈴木…。だめだ息してない。人って何秒息してないと死ぬんだっけ。あるよね、そういうの? あれ、もうアウト? 顔色もけっこうすごい感じになってるし。青。鈴木、青。とりあえず、警察か。1、1、10。
―はい、こちら警察。事件ですか、事故ですか。
 え、どっちだろう。事故っちゃ事故か。事件ではないよな、10回クイズだし。
―事故で、お願いします。
―はい事故で。事故一丁入ります!
―え?
―で、どうされましたか?
―あの、友達が、息をしてなくて。
―息を? それは大変だ! どうして?
―あの、ちょっと引かないでくださいね? その、10回クイズ中に急に…。
―10回クイズ?
―ですよね、ですよね。あの「ピザって10回言って」でお馴染みの。
―ああ。
―あれの最中にですね、急に息をしなくなって。
―おちょくってます?
―いや、本当に、本当なんです。とにかく、救急車でもパトカーでもなんでも寄越してください。鈴木が死にます。
―鈴木だか田中だか知りませんけどね。警察をおちょくるのもいい加減にしてくださいよ。人は10回クイズ中に死にませんよ。(ガチャッ)
 マジかよ警察。なんでこんな塩対応なんだよ。てゆうか考えてみたら、10回クイズ中に死ぬ人もいるだろ。なんだよ事故一丁って。こうなったらもう、あれか、お母さんか。俺が人生でつまずくたびに、すべて救ってくれたお母さん。いくら借金をしてもすべて肩代わりしてくれてたお母さん。(コール音)
―はい、こちらお母さん。
―あ、お母さん?
―あらとおる、どうしたの大好きよ、愛してる。ちゅ。
―お母さん、ちょっと落ち着いて聞いてね。
―お母さんはいつだって落ち着いてるわよ。
―友達の鈴木が、息してないんだ。
―なに? 息を? あら大変。
―警察に電話しても救急車に電話しても断られて。お母さん、車で迎えに来てくれない?
―わかった、今すぐにいくわ! 任せて息子! で、なんで息をしてないの?
―それは、あの、10回クイズ中に…。
―10回クイズ?
―ほら、あの「ピザって10回言って」でお馴染みの。
―ああ、あれね。
―あれの最中に、息をしなくなって。
―…はあ。とおる。ちょっとお母さんをおちょくるのもいい加減にしなさい。10回クイズ中に人は死にません。もう勘当です。(ガチャッ)
 え? 勘当? いま勘当って言った? 勘当までのスピード速くない? 感情の遷移どうなってるの? ちょっと待っていまはでもそれより鈴木だ…でも電話するところももうない。鈴木…ああもう、青いとかじゃなくて、紫? 白? もう見たことない色になってるよ…。……。まあいっか。うん、まあいいや。よし鈴木の死体を解体しよう! よかった、今日はちょうどチェーンソーを持っているんだ。コンセント、コンセント…。あったあった。差し込んで、このプラグを引いて。(エンジン音)おおー! いい音! これこれー! まずは首を、ごしごしと削いで、クーラーボックスに入れてと。よし、これであとは、足と手だな。ここでこれを読んでいる人に、お願いです。「ピザ」って10回言ってみてね。うん、うん。じゃあここは? そう、肘だね。(エンジン音)肘の折れ目に刃を入れると、腕というのは切りやすいんだね。次は、間違えやすい、膝だね。(エンジン音)膝も肘と同じで、切るべきポイントだね。これで、四肢が解体されたよ。頭部を囲うような感じでクーラーボックスに詰めて。よし、これでおっけー。いいかい? これでみんなも目撃者。遺体が発見されたら、重要参考人として警察に連れていかれるよ! 僕はいまからプライベートジェットでドバイに逃げるよ。バイバイ!

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