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『ミーン・ガールズ』 今頃何で記事になる。

この人が言いたかった事

2023年3月、ミュージカル映画版『ミーンガールズ』のクランクインが映画の公式SNSでアナウンスされた。
ケイディを演じるのは『エブリデイ』(18)や『Honor Society』(22)で主演を務めたアンガーリー・ライス。ティナ・フェイとティム・メドウスは続投するそうだ。「So fetch」な本作は今でも輝きを失っていないのである。

なんだ、映画の宣伝か??読んで損した。



■『ミーン・ガールズ』にどうしてみんな夢中(obsessed)なの?

CINEMORE 2023/8/22(火)

★『ミーン・ガールズ』あらすじ

両親が動物学者のケイディは、15歳までアフリカで生活し、天真爛漫に育ってきた。16歳になってから初めてアメリカの学校に通うことになり、ケイディは自分が“普通の女の子”ではないと気付く。初めての学園生活は戸惑うことが多く、周囲からも浮きまくり。
しかしそんなケイディにも2人の友人ができる。2人は学園のはみ出し者だったが、何も知らないケイディに学園生活の色々なルールを教えてくれる。そんな矢先、ケイディは学園の一軍女子である女の子3人組に気に入られ、彼女たちのグループの仲間入りを果たすのだが…。

★広がり続ける『ミーン・ガールズ』

 アメリカの学園コメディ映画『ミーン・ガールズ』(04)をミュージカル化した「MEAN GIRLS」は、2018年に本国アメリカのブロードウェイで上演され、同年のトニー賞では作品賞、主演女優賞、脚本賞など、最多の12部門でノミネートされるなど高い評価を獲得している。

日本でも2023年1月から2月にかけて公演され、生田絵梨花主演、石田ニコル、松田るか、松原凜子、小野塚勇人、壮一帆といったメンバーが脇を固めている。  

では元になった『ミーン・ガールズ』はどのような映画なのだろうか? 
本作は2004年に公開されて以降、『ブレックファスト・クラブ』(85)や『ヘザース/ベロニカの熱い日』(89)、『クルーレス』(95)等と並ぶティーン・ムービーの古典として、アメリカを中心に今もカルト的人気を博している。
例えば、劇中で主人公ケイディが片想いの相手アーロンに「今日は何の日?」と尋ねた10月3日は、「ミーン・ガールズ・デー」と呼ばれ、毎年その日になるとGIF、引用、ミームなどのSNS投稿で盛り上がり、各地でイベントなども開催されている。  

更に本作の文化的影響は、何と政治の世界まで及んでいる。
当時のバラク・オバマ大統領が、本作の有名な台詞「Fetch」を引用したツイートを投稿したことや、ヒラリー・クリントンがドナルド・トランプに対して、本作の台詞である「Why are you so obsessed with me ?(どうしてそんなに私に夢中なの?)」のGIFをツイッターに投稿したこと、さらにアイルランドの首相レオ・バラッカーが新型コロナウイルスによる規制を緩和すると発表した際に、劇中の「the limit does not exist.(限界はない)」という台詞を引用したことからも、その影響の大きさが分かるだろう。  

また音楽の世界でも、マライア・キャリーは自身の楽曲に本作の台詞を引用するほど大ファンであることを公言しており、アリアナ・グランデも自身のMV『thank u, next』で大々的にオマージュを捧げているなど、その影響力は止まることを知らない。何故、ここまでの人気があるのか。2024年で公開20周年を迎える本作だが、その魅力を掘り下げてみたい。


★物語は存在しない? 原作について

本作はロザリンド・ワイズマンのノンフィクション「女の子って、どうして傷つけあうの?―娘を守るために親ができること」(原題: Queen Bees and Wannabes)が原作である。

ワイズマンが10年以上かけて何千人もの女の子たちにリサーチを行ったこの本では、思春期に入った女の子たちの行動原理、学校でどのような社会/派閥が形成されているのか、そこから発生する女の子同士特有のいじめのメカニズム、それに対して親はどう対処すればよいのかなど、具体的な事例を用いて詳細に紹介している。
一言で表現するなら「子育てHow to本」だ。断片的な事例のみが紹介され、そこに物語は存在していない。  

よって、映画で描かれる、アフリカから転校してきた高校生のケイディが、学校で一番人気な女子グループ「プラスチックス」に潜入し、学校を牛耳る凶悪な女王レジーナ・ジョージの統治を終わらせようするストーリーは、脚本を担当したティナ・フェイによるオリジナルなのである。


★ティナ・フェイと「サタデー・ナイト・ライブ」

 本作の脚本と出演を務めたティナ・フェイは、「サタデー・ナイト・ライブ(以降、SNL)」出身の女優兼脚本家。「SNL」はアメリカ三大ネットワークテレビ局のひとつであるNBSで、毎週土曜の夜に生放送されているコメディ番組だ。
毎回ゲストがホスト(司会)を務め、コメディアンたちによるスケッチ(コント)の間に生バンドの演奏が挟まれる。2023年で第48シーズンを迎える「SNL」は、コメディアンがスターへと上がる登龍門であり、古くはジョン・ベルーシやエディ・マーフィ、マイク・マイヤーズ、クリス・ロック、最近でもケイト・マッキノンやピート・デイヴィッドソン、さらには『ドント・ルック・アップ』(21)を監督したアダム・マッケイといった名だたるスターがこの番組から輩出された。  

97年からこの番組に参加していたフェイは、99年に前任者のアダム・マッケイからの推薦で女性初のヘッド・ライター(ライターやコメディアンのネタを取捨選択する番組の責任者)に抜粋された。ヘッド・ライターとして活躍している最中、偶然ワイズマンの原作を知ったフェイは、「SNL」のプロデューサーだったローン・マイケルズに映画の話を持ち込み、マイケルズと繋がりがあったパラマウント経由で映画の原作権を獲得した。
前述したように、ゼロから物語を生み出す必要があったフェイは、原作を換骨奪胎、紹介されている事例の中から特にエゲツないトピックを抽出しつつ、そこに自分自身の高校生活を振り返りながら物語を作り上げていった。  
脚本家とプロデューサーが「SNL」のスタッフということもあり、本作は「SNL」のコメディアンたちも出演している。ロン・デュバル校長役のティム・メドウス、レジーナの母親役のエイミー・ポーラー、ケイディの母親役のアナ・ガステヤーの3人に加え、フェイ自身も数学の教師であるシャーロン・ノーバリー役で出演、登場して10秒足らずで服を脱ぎ始めるという、コメディアンとしての矜持を見せつけてくれる。


★あの人もこの人も! 魅力的なキャスティング

『ミーン・ガール』を語る上で、キャスティングの素晴らしさは外せない要素だろう。
主人公:ケイディを演じるのはリンジー・ローハン。前年に撮影された主演作『フォーチュン・クッキー』(03)(監督は本作と同じマーク・ウォーターズ)の全米興行収入は1億ドルを超え、一躍全米を代表するティーン・アイドルになっていた。  

監督のウォーターズがローハンに出演を打診したところ、最初にローハンが興味を持ったのは、学校の女王レジーナ役。しかし、ローハンがレジーナになった場合、それに立ち向かうことができる女優を監督が思い付かなかったこと、パラマウント社の社長が『フォーチュン~』で成功したローハンに悪役を演じさせるのは興行的に上手くいかないと判断したこと、またローハン自身も、意地悪な女の子を演じて観客に嫌われてしまうのは嫌だと思い始め、最終的には主人公のケイディを演じることとなった。  

学校で最も権力を持つ女子グループ「プラスティックス」のリーダーで、学校に君臨する女王レジーナを演じるのはレイチェル・マクアダムス(「レジーナ」はラテン語、イタリア語、ルーマニア語で「女王」を意味している)。同年に公開された『きみに読む物語』(04)の令嬢役とは対照的に、世界は自分のためにあると信じるソシオパス高校生を嬉々として演じている。当初マクアダムスは、主人公ケイディ役でオーディションに参加していたが、ウォーターズはマクアダムスが高校生を演じるには少し歳をとり過ぎていると感じていた。ローハンがレジーナからケイディに役を変更することもあり、マクアダムスをレジーナに当てはめてみたところ、キャラクター的に早熟で大人っぽく見えるのは理にかなうと、最終的にこのキャスティングに至った。
ちなみに、監督はレジーナの役作りにあたり、『摩天楼を夢見て』(92)のアレック・ボールドウィンを参考にさせたという。  

底抜けにおバカだがどこか憎めない性格のカレン役は、今作が映画初出演のアマンダ・サイフリッド。彼女がその後に演じた役たちと比較すると、今作のおバカキャラは少し異色に思われるかもしれない。彼女は元々レジーナ役の候補で、カレン役の最有力候補はブレイク・ライブリーだった。しかし、プロデューサーのマイケルズの提案により、サイフリッドがカレン役でキャスティングされることになる。ささやくような独特な声が特徴のカレンだが、これは『お熱いのがお好き』(59)のマリリン・モンローを参考に、サイフリッドと監督が作り上げたキャラクターだ。  

グレッチェン役のキャスティングは難航したそうで、まだ新人だったアシュレイ・ティスデイルやメアリー・エリザベス・ウィンステッドも候補として上がっていた。最終的に役を射止めたのは、ドラマ「サンフランシスコの空の下」の次女役やアニメ『ワイルドソーンベリーズ ムービー』(02)で主人公の声を担当するなど、俳優/声優とマルチに活動していたレイシー・シャベール。その時のオーディションのお題は、グレッチェンが「ジュリアス・シーザー」の感想文を読みながら感情を爆発させてしまうシーン。彼女の圧倒的な演技で起用が決まった。  

こうして同級生を演じた4人だが、実際の年齢はバラバラ。撮影時、ローハンとサイフリッドが17歳、シャベールが21歳、マクアダムスに至ってはなんと25歳で、ローハンよりも母親役のエイミー・ポーラーの方が年齢が近かった。


★レイティングとの戦い

フェイが執筆した最初の脚本(初期のタイトルは『Homeschool(ホームスクール)』)は、現状の映画よりもかなり下品で冒涜的な表現やFワードも相当入っていた(特にレジーナは『グッドフェローズ』/90のジョー・ペシよりも多くのFワードを持つキャラクターだった)。だが、スタジオの要請でPG13として公開する必要があったため、幾つかの場面で表現がオブラートに包まれることとなった。  

例えば、カフェテリアでケイディが転校生の意識調査の協力を持ちかけられるシーン。突然、「Is your muffin was buttered?(マフィンにバターは塗っている?)」と聞かれるのだが、もともとこの台詞は「Is your cherry popped?(処女は失っている?)」だった。また、レジーナたちが学校中の生徒や先生の陰口を書き込んだ「Burn book(悪口ノート)」のシーンで「Amber D'Alessio made out with a Hot Dog(アンバー・ダレッシオはホットドックとイチャついていた)」との記述があるが、オリジナルでは「Amber D'Alessio masturbated with a frozen Hot Dog(アンバー・ダレッシオは冷凍ホットドッグで自慰行為をしていた)」とより直接的な表現になっていた。このような修正以外にも、未成年が飲酒している場面は画面に映さないようにする、レジーナの家にある裸体の銅像は局部を蔦で覆い隠すなど、PG13にするための配慮が徹底された。  

ただ一方で、監督たちが当時のMPAA(アメリカ映画協会)と戦って残った台詞も存在する。体育館である生徒が発する「But I can’t help it if I’ve got a heavy flow and a wide-set vagina(でも生理が酷くてヴァギナが大きいからしょうがないじゃない)」という台詞を、MPAAは削除するように求めてきたが、監督はその時公開していた『俺たちニュースキャスター』(04)を引き合いに出し抵抗する。この作品では、ウィル・フェレルが勃起するシーンがありながらもPG13であった事実を武器に、「解剖学的な観点から自分の体の構造について話しているだけなのに、性的な文脈として捉えられるのは女性差別だ」と訴え、最終的にこの台詞を残すことに成功した。  

相当な修正を要された本作ではあるが、完成した映画からは全くその過程はうかがえず、むしろ台詞の爆発的な面白さは白眉と言えるだろう。「Get in loser, we're going shopping」「You wanna do something fun? You wanna go to Taco Bell?(気晴らししよう。タコベル食べに行く?)」「Is butter a carb?(バターって炭水化物だっけ?)」「I’m kind of psychic. I have a fifth sense.(実は霊感というか、第五感があるの)」といったユーモラスでパンチの効いた台詞が、休む間もなく全編に渡って繰り広げられる。その中でも最も有名な台詞が、グレッチェンの口癖である「Fetch(いいね)」だ。冒頭で触れたバラク・オバマのツイートでも引用されたのがこの言葉。劇中ではイングランドのスラングだと説明されているが、実際はスラングでもなんでもなく、ゼロからでっち上げてしまった偽物のスラングなのだそうだ。  これらの台詞はそのインパクトや汎用性から今でもミームやGIFとして広く流通しており、映画は知らなくてもこれらの形で『ミーン・ガールズ』に触れた人間も少なくないだろう。


★何故、今も愛される作品なのか?

キャストの魅力や台詞の面白さが満載の本作だが、学校という狭いコミュニティの中で生み出される歪な人間関係のパワーゲームを鮮明に描いた点に、この作品のキモがある。
孤立することへの恐怖、所属しているグループ内での同調圧力や嫌がらせを耐えなくてはいけない状況、学校内での自身の地位をあげる為の友人への裏切り行為など、誰しも学生時代に経験がある息苦しさや苦々しさを、ポップで笑える作風の中に忍ばせている。そんな“毒”が、男女や世代を問わず深く刺さってしまう普遍性を与えているのだ。そして、学生生活の困難さを描くだけではなく、そこからさらに一歩先の視点を描いている点も本作の魅力であろう。  

興味深いのは、マーク・ウォーターズにはダニエル・ウォーターズという実兄がいて、ダニエルもまたアメリカ学園映画の名作を手がけている。彼が脚本を担当した『ヘザース/ベロニカの熱い日』は、学校の人気女子3人組グループ「ヘザース」の取り巻きとして日々こき使われている主人公:べロニカ(ウィノナ・ライダー)が、ひょんなことから知り合った転校生JD(クリスチャン・スレーター)と共に、ヘザースのメンバーを一人ずつ殺していくというブラックコメディ。学校を牛耳る3人組の女子グループをアウトサイダーと協力して崩壊させるというプロットの同一性から、『ミーン・ガールズ』が『ヘザース~』を下敷きにしているのは明らかであろう。  

だがこの両者が決定的に違うのは、「意地悪な子」を記号的にしか描かず、平和の為には殺しても問題ないという結論に至る『ヘザース~』に比べ、『ミーン・ガールズ』は「意地悪な子」を絶対悪とは描かず、誰もが嫌な人間になる可能性を持っているからこそ相互理解の道も見出せるという、一歩先の視点を描いている点にある。フェイはインタビューで、かつての自分もちょっと「意地悪な子」だった時があると語っており、その実体験が、本作の「意地悪な子たち」に対するどこか温かい眼差しに繋がっているのだろう。そんな多角的な視点こそ、本作が学園映画の古典として愛され続けている理由ではないだろうか。 

文:島田元輝 太陽企画「move-」チームメンバー。ジャンル映画愛好家。最近は、VHS以降、日本でソフト化されていない映画を発掘する「VHS考古学者」みたいなことを精力的にやってます。

(c)Photofest / Getty Images



終わり

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