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【東洋経済】 TVとジャニーズについての根幹的な問題提起しています。

1.【筆者のコメント】
ここに書いてある事は、略ほぼ筆者が書いてきた事なので、大手ジャーナリズムがやっとこれを書ける環境になったのだと理解しました。

ただ一点だけ書かれていなかった事があります。
TV衰退の一番大きな時代背景として、消費市場は飽和しており既に広告で簡単に売れる時代ではないと言う事実です。
もっと言うと、商品によっては供給者(=プレイヤー)が淘汰されて寡占状況になってきていると言う事も、TVCMを必要としない背景にあります。

例えば、トヨタ自動車は、TVで単体車種の宣伝は新発売時だけです。その代わりTVでは「トヨタイムズ」と言う自社Webメディアの告知を多くしています。
余計な話ですが、トヨタは日本国内の販売店の統合をし始めており、将来人口減少時代に必要なモビリティー企業に変革しようとしています。



2.テレビ局の放送収入激減と「ジャニーズ問題」「70年間築き上げてきたやり方」はもう続かない

境 治 : メディアコンサルタント 2023/11/17

民放キー局の今年度第2四半期決算が出揃った。コロナ禍で乱高下した放送収入は2022年度に大幅に下落したが、同じ傾向が今年度も続き、放送事業の売り上げ減少がこの先も続くことが確定したと言っていいだろう。

「放送離れ」と激減する放送収入

キー局は持ち株会社制をとっており、グループ全体の数字からは放送事業そのものの状況は見えてこないが、決算資料から放送収入だけを抜き出してみるとよくわかる。

2023年度第2四半期では日本テレビ-6.4%、テレビ朝日-1.9%、TBSテレビ-3.9%、テレビ東京-5.0%、フジテレビ-8.3%と各局とも放送収入は前年比ダウンとなった。タイム(番組の提供CM枠の収入)ではテレビ朝日(+1.9%)とTBSテレビ(+1.1%)はプラスとなったが、スポット(番組と番組の間に流れるCM枠の収入)はいずれもマイナスで、テレビ東京(-11.2%)とフジテレビ(-12.6%)は1割を超える大幅減となった。

2023年度第2四半期のキー局放送収入。タイムとは番組の提供CM枠の収入で、スポットとは番組と番組の間に流れるCM枠の収入のこと(各局の決算資料を基に筆者作成)

原因はさまざまあるが、なんと言っても視聴率が激しく下がっているのが主要因と思われる。2020年度にはコロナ禍で巣ごもり生活を強いられ、ゴールデンタイムのPUT(総個人視聴率)は39.1%にまで上がった。

ところがこのとき、多くの人々がテレビをネットにつないで無料のYouTubeをはじめ、有料のNetflixやアマゾンプライム・ビデオなどの配信サービスがテレビで楽しめることを知った。それが「放送離れ」を引き起こし、視聴率はみるみる下がっていった。今年度のゴールデンタイムPUTはついに30.9%にまで下がり、年内には30%を割るかもしれない。

放送事業は視聴率をベースにしている。特にスポットCMはGRP(Gross Rating Point)という視聴率の合計値を基に取引されるので、視聴率ダウンはそのまま売り上げ減につながるのだ。企業はスポットCMを発注する際、例えば「関東で1000GRP流したい」といったオーダーをする。CMを流す時間の視聴率の合計が1000%になるようにテレビ局は調整するわけだ。10%のCM枠なら100本だが、5%の枠だと200本必要になる。視聴率は売り物そのものなのでPUTが下がると売り上げも下がる構造だ。

第2四半期の放送収入とゴールデンタイムPUTの推移を合わせてみると、ここ数年で起こったことがわかる。

2020年度はPUTが39.1%に上がったが放送収入は激減、それが2021年度にはPUTが36.6%に下がったのに放送収入は持ち直した。だが2022年度、2023年度とPUTも放送収入も下がる一方。今後の傾向が決定的になり、人々の「放送離れ」が確定した。同じ傾向が今後ずっと続くだろう。

これを補う可能性が、キー局が共同でスタートしたTVerや、サイバーエージェントがテレビ朝日と組んだABEMAなどのテレビ局が携わる配信サービスにある。企業はCM投下の意欲を失ったわけではない。最近は、スマホを落とし所とする新サービスが続々登場してテレビCMでアプリのダウンロードを促している。

放送でなくても配信でCMを流したいと考える企業は多い。テレビで流れる配信CM市場はCTV(Connected TV)市場と呼ばれ成長が期待される。そのニーズに見合うだけの視聴者をTVerやABEMAが獲得できるかが今後の課題だ。ただ、来年一気に放送収入の落ち込みをカバーできるはずもなく、何年もかかるのは間違いない。

仮にテレビ局が配信サービスで再び売り上げを上げるとしても、そうなるまでの間にローカル局の中にはなくなるところもあるかもしれない。いや、キー局がなくなる可能性だってないとは言えない。これから数年間、再編の嵐が吹き荒れると、放送局の人々自身がすでに考え始めているようだ。

テレビ局が抱える「ジャニーズ事務所問題」

ところで、放送収入とは別にテレビ局が抱える悩みが、ジャニーズ事務所問題だ。11月12日の午前10時からテレビ朝日が1時間かけて自己検証番組を放送した。他のキー局とNHKは放送済みなので、こちらも決算同様に出揃った形だ。60分間丸々使ってCMも一切入れずに放送したことには本気を感じたが、放送後にX(旧Twitter)を見ると、すこぶる評判が悪い。

いちばん最後の割には、他の局がすでに行った局内のヒアリング結果を見せ、日本テレビがすでにやったように報道や編成関係の局長が顔出しでコメントし、唯一新しかったのが社長が自ら顔出しでコメントしたことぐらい。通り一遍のことをおさえた構成だ。ネットで前々から言われていた「ミュージックステーション」にジャニーズ事務所のライバルグループが出演してこなかったことについてはまったく言及がなかった。まだ忖度しているのかと言われても仕方がないだろう。

テレビ朝日の検証番組についてはより専門的な視点で語る人が他にいるので、ここではこの辺にしておきたい。ただ私がここで言っておきたいのは、テレビ朝日も含めて各局とも1回やっただけでは済まないだろうことだ。自局のアナウンサーが出てきて襟を正して反省の態度を示したが、ジャニーズ事務所自身の今後が見えてきてテレビ局の側の今後もプレゼンしないわけにはいかない。

ジャニーズ事務所の問題を「企業の宣伝部はさほど気にしていない」などと軽く扱う向きもあるようだが、もっと根源的な企業とメディアの関係の問題だ。そしてこの件が、放送事業の売り上げが下がるだけだとはっきりした今年に同時に問題になったことの意味を考えるべきだと思う。

もはや宣伝部だけの話ではないことは、当初から経団連など企業の側が再三コメントしていることからも汲み取れる。問題への対処を誤ると、企業から「選別」されかねない。

テレビCMは企業にとってブランド価値を示す場であり、グローバルで活動するような大企業にとっては信頼できないメディアと取引を続けることは大きなリスクになる。ジャニーズ事務所の問題は明確に人権に絡む事件であり、性被害を起こしていた創業者の事務所とズブズブでつきあってきた日本のテレビ局も咎を受けざるをえない。そこをきちんと反省したうえで今後を示せないメディアは、ヘタをすると企業が取引を停止しかねない。これまでの経済団体のアナウンスは十分それをにおわせる内容だったではないだろうか。

実際、すでに自己検証を番組の中で行ったTBSは、さらに「会社としての検証」を準備中だと言われている。TBSの検証は土曜日夕方の「報道特集」の中でのもので、会社としてではなく番組として検証した内容だった。日本テレビも「news every.」の中だったが局の幹部が出演し、テレビ東京、テレビ朝日は特番として放送したので会社として検証した感が強い。TBSとしては、企業からの信頼を得るにはあらためて会社としての検証が必要と考えているのではないか。どんな検証を行うのか、その放送が待ち遠しい。

放送収入の激減とジャニーズ事務所問題が同時に顕在化したことには、テレビ局の事業としてのあり方から社会の中での役割まで根本的に見直すときだという意味があると筆者は考えている。
70年間築き上げてきた今のあり方だが、もう持たないのだ。


バラエティだらけで多様性が見られない

筆者(境 治)が一番感じるのは、テレビ番組に多様性が見られないことだ。
19時を過ぎると、基本的にバラエティだらけだ。その間を埋めるようにドラマが入り、ニュース番組もあるが、基本的に「テレビ=バラエティ」になってしまった。同じタレントが次の時間には別のチャンネルに出て、クイズやゲームや街歩きやグルメで遊んでいる。

視聴率のため仕方ないというのかもしれないが、いまやその視聴率がぐんぐん下がっている。視聴率を追い求めて同じタレントで同じような番組を作って、その結果視聴率が下がっているのだ。「テレビ=バラエティ」という頭を、切り替えるべきときではないか――。
人々は、特に若い人は、テレビを見て笑いたいんでしょう? それはもはや思い込みで、だから視聴率が落ちている。そんなことでは国民や企業との間に「信頼」は築けなくなった。

テレビ朝日の検証番組では「公共性」という言葉が何度も使われた。民放だって国民の資産である電波を使う公共的な存在のはず。そこにテレビ局が向かうべき次の方向性がある。公共性で人々の関心を集め、社会の役に立ち、企業が認めてくれる。「信頼」が今後は必要になる。

2023年度を、テレビ局は「信頼」を取り戻す元年だと捉えてもらいたいものだ。

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終わり

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