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【ドン・キホーテの店舗戦略】『見えるマーチャンダイジング』

以前、無印良品についてのnoteを書いた際に参考として読んだファッション業界コンサルタント小島健輔氏の記事(※参考とした記事はこちら)がおもしろかったので、同氏の著書『見えるマーチャンダイジング』の内容紹介と、本書の内容をもとにドン・キホーテのマーチャンダイジング戦略について考えたことを書いてみたいと思います。

本書は1992年出版。ファッションビジネス向けに書かれたもので専門用語がかなり多いですが、マーチャンダイジングの考え方が体系的に整理されていて、2023年現在においてもファッションビジネスのみならず小売業全般に適用できる内容となっています。


1.ビジュアルマーチャンダイジング(VMD)とは何か

"見えない"マーチャンダイジングの問題点

マーチャンダイジングとは「お客さんに、どんな商品を、いくらぐらいでどうやって提供するか」を決めることです。

マーチャンダイジングが"見えない"状態とは、アナログマネジメント(マーチャンダイジングを金額で管理・制御する方法)により、商品数の構成 / 陳列フェイス(商品の棚割り)が管理できず、不良在庫が増加しコストが増大している状態を言います。

救世主"VMD"

このような"見えない"マーチャンダイジングの問題点に対し、売上向上、在庫・コスト削減の特効薬となる技術体系が"見える"マーチャンダイジング、すなわちビジュアルマーチャンダイジング(VMD)です。

VMDには、水平的VMDと垂直的VMDという2つの領域があります。

水平的VMDとは

水平的VMDは店舗マネジメントの領域です。
店舗におけるひとつの陳列ラックから視野を広げると、いくつかのラックが集まってカテゴリーとなり、それを表現するVP(ビジュアルプレゼンテーション)が点在し、それら全体をストアデザインが包んでいます。
これら①フェイシング(陳列表現)、②VP、③ストアデザインの3点を合わせたマネジメントの考え方が水平的VMDです。

水平的VMDの効果

水平的VMDの徹底により顧客は売り場のどこに何があるかを一目で把握できるとともに、各商品の訴求ポイントがビジュアルで表現されているため売場案内等の無駄な接客を省略できます。
また、店側では品出し等のイベントリィ業務が極小化できることで、その時間を専門ノウハウを活かしたコンサルティングセールスに充てることができます。

垂直的VMDとは何か

垂直的VMDは商品企画~売場展開に至る工程のマネジメント領域です。
商品企画の段階で売場におけるフェイシングを設計し、それと同時に商品の補給体制を定めることで[商品企画→生産→流通→販売]という一連の工程を効率的にマネジメントする考え方が垂直的VMDです。
個人的には、製造業におけるサプライチェーンマネジメント(SCM)の小売業版というイメージだと理解しました。

垂直的VMDの効果

垂直的VMDの実施により、適切な商品構成、商品数を管理することができ、商品企画から販売に至る工程全体が効率化されます。
また、工程を通じて自社の感性と品質が貫徹されることで、企業理念から競争戦略、機能戦略に至るまで背筋の通ったマネジメントを実現することができます。

まとめ

  • 水平的VMD:店舗マネジメント
    【目的】
    見やすく、買いやすく、買いたくなってしまう商品陳列により、顧客と店双方のストレスとコストを極小化すること
    【内容】
    水平的VMD = フェイシング + VP+ ストアデザイン

  • 垂直的VMD:商品企画~売場展開に至る工程のマネジメント
    【目的】
    商品企画→生産→流通→販売という一連の工程を効率的にマネジメントすること
    【内容】
    商品企画の段階で売場におけるフェイシングを設計し、それと同時に商品の補給体制を決定

2.ドン・キホーテの戦略

ここまでの内容を踏まえ、特徴的な店舗運営で一番最初に頭に浮かんだドン・キホーテ(株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)における戦略ストーリーについて考えてみます。

水平的VMD-"圧縮陳列"でワクワク・ドキドキのコト消費を実現-

ドン・キホーテといえば、"圧縮陳列"と呼ばれる商品の陳列手法が代名詞です。

出所:ドン・キホーテ

商品が隙間なく天井高くまで積み上げられ、店内は半ば迷路のようになっており、顧客は目当てのものを探し出す"宝探し"のような感覚で買い物体験をすることになります。

また、迷路のような店舗の中で商品を見つけるため、段ボールにはこれでもかというほど手書きのポップが張られています。("POP洪水"と呼ばれる)

出所:ドン・キホーテ

ドン・キホーテでは、「ポップライター」と呼ばれる専門のポップ職人を毎年500名程度採用するほど力をいれているようです。

"圧縮陳列"と"POP洪水"は、創業者である安田氏が訳あり商品を仕入れて販売していた際、その量が多すぎて店舗に収まりきらなかったため、苦肉の策として段ボールのまま商品を積み上げて商品説明のためにPOPを張りまくったことから生まれたものです。

いずれも、「見やすく、買いやすく、買いたくなってしまう商品陳列により、顧客と店双方のストレスとコストを極小化する」という水平的VMDの考え方とは真逆のことをやっているように見えますが、ドン・キホーテの戦略ストーリー全体を見てみると、あえて常識の逆を行く独自の店舗マネジメントを行うことが、他社が模倣できない競争力の源泉となっていることが分かります。

垂直的VMD-現場への権限移譲と圧縮陳列でSPAを実現-

ドン・キホーテではNB(ナショナルブランド)とPB(プライベートブランド)の双方を取り扱っています。(2022年6月期時点で商品PB比率は15%程度)

2022年8月に改訂された同社の中期経営計画では、2025年の目標とするPB比率を25%としており、ドン・キホーテ流SPA(製造小売り業態)を推進していくことを目標に掲げています。

垂直的VMDにおいて重要となる商品の補給体制については、ドン・キホーテの迷路のような売場では、整然とした売場に比べて品出しが非効率となるように思えますがどのようなオペレーションを行っているのでしょうか。

実は、この点についても"圧縮陳列"そのものが優れた在庫マネジメント機能を果たしています
一般的にはバックヤードに在庫を抱え、物流部門が直接関与すべきところを、ドン・キホーテの場合はバックヤードを持たず、仕入れ・在庫管理・販売・損益責任までを現場に任せています。

各店舗において特徴のある迷路のような売場であっても、現場を信頼・リスペクトして権限移譲を行うことで、現場が「変化対応力」を身に着け、オペレーションの強さを実現していると言えます。

一貫した戦略ストーリーで他社が模倣困難な強みを確立

以上に見てきたように、ドン・キホーテは独自の店舗戦略により差別化、コスト優位を実現しています。

また、"現場への権限移譲"、"圧縮陳列"、"PB"などを中心とする各施策が相互に関連しており、機能戦略のレイヤー・競争戦略のレイヤー・企業理念のレイヤーまで一貫したストーリーとなっているため、他社がドン・キホーテの施策の一部を切り取って真似したとしても同社の戦略を模倣することができないという強みを有しています。

ドン・キホーテの戦略ストーリーの全体像を図に整理してみました。

筆者作成

全ての施策が企業理念のレイヤーにある「顧客最優先主義」へ連なっており、自社のファンを獲得することで正直な顧客意見を受け、それをPBへ反映するというサイクルを構築しています。

戦略ストーリーの"一貫性""強さ"(機能戦略→競争戦略の因果関係の蓋然性)、"長さ"(ストーリーの時間軸)、"太さ"(各施策間のつながりの多さ)の全てを兼ね備えるとともに、差別化・コスト優位・ニッチという競争戦略の3類型すべてを実現しているドン・キホーテの戦略は、非常に優れた戦略だと言えます。

3.おわりに

『見えるマーチャンダイジング』の内容をもとに、ドン・キホーテの店舗戦略について考えてみました。

個人的には、ドン・キホーテの店舗は圧迫感があり、商品を探すのに疲れてしまうのであまり好きではありませんが、子どもは「ドン・キホーテに行けば何かおもしろいものがある」と思っているらしく、店頭の水族館も楽しみにしているので休みの日にはしぶしぶ付き合っています。

出所:ドン・キホーテ

現在では若者だけでなく、ファミリーや女性層をターゲットとしたMEGAドンキにも注力しているみたいなので、機会があれば足を運んでみたいと思います。


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