見出し画像

第2回 スープのおはなし

【森とスープと絵本のおはなし会】
◇おはなし:かずぅ(森のスープ屋の夜)、聞き手:高橋香苗(DOOR)
◇日時:2020/1/9,場所:DOOR

ある雪の日に小さな森と出会いました。暗闇にぽつりと見えたのはあたたかな炎のゆらぎ。その灯りに導かれて晩秋にスープ屋をはじめました。春夏秋冬をいくつか過ごし、やがて一冊の絵本ができました。 扉の向こう側でみた森とスープと絵本が奏でた世界。長い旅のほんの一瞬、深く刻んだのは真っ赤な記憶。  かずぅ

第1回:絵本のおはなし
第2回:スープのおはなし
第3回:森のおはなし


第2回
スープのおはなし

かずぅ
(皆さんにスープをお出しして)
今日のスープは、大山の國吉農園さんのお野菜をたっぷり使っています。國吉さんは、地域おこし協力隊として岡山から移住された方です。お野菜は自然栽培で肥料や農薬は一切使わず、土の栄養だけで作られています。最初はお野菜が小さかったんですけど、今では立派なお野菜になりました。。今日は3時のスープということで、はちみつも入れたおやつ気分のスープです。あとはお野菜の甘味と少しのお塩とハーブ、白みそで作っています。パンは鉄鍋で焼いています。酵母は、森の空気を取り込んで育てています。スープ屋オープン前から森の酵母を継ぎ足して使っています。自分でパンを焼く前は、地元のパン屋さん「よしぱん」のよしみさんが「スープのためのパンを焼くよ!」と言ってくださって、とても有り難かったです。そうしたら別の地元のパン屋さん「麦ノ屋」の出井さんが来られて「ここだったら、空気中にいい菌が飛んでるから自分でやってみたら」と言われ、自分でパン作りをやってみることにしたんです。でも、出井さんは作り方を教えてくれない。アドバイスは、酵母と乳酸菌の関係というフレーズ。どうしたらいいのと思いながらもやり始めました。そのことをよしぱんさんに伝えたら、「それができるのならかずぅが焼いた方がいいよ、もしダメだったらパンは作るから言ってね」と言ってくれた。最初にできたパンはせんべいみたいなパンでした。でも食べてみたらすごくおいしくて。これが膨らんだらどんなにいいかと思って作り続けました。そしてオープン1週間前。貯蔵室に入れた酵母がタッパーを突き破って外にあふれていました。その時くわしいことは分からなかったけど、何が起きたかは分かりました(笑)

香苗さん
このパンは別のところでは焼けないし、森から酵母を取り込んで育てていって、かずぅの手で混ぜて作られる。貴重ですね。

かずぅ
パンを作るとき、温度に気をつけるんです。夏に一度発酵中のパンが爆発して、朝の5時によしぱんさんに電話して助けてもらったことがありました。

香苗さん
それは発酵しすぎて?

かずぅ
はい(汗)

香苗さん
今はいかに楽に安定してものを作れるかですよね。スープ屋のパンは、その時その時、手をかけていないといけない。

かずぅ
スープ屋のオープン前、つなぎを着て森を開拓してました。森は一面が笹でしたので、笹を刈ったりして。直前になって、「あっ、スープ屋をオープンするんだった!」とスープのことすっかり忘れてて、慌てて地元の農家さんに連絡したら「芋とカボスしかないよ~。」と言われました。それでもなんとか雑穀、豆乳などを加えて作りました。

香苗さん

だしは芋とカボスだけ?

かずぅ
そうなんです。それでも「最初のスープの衝撃が忘れなれない」と言ってくださるお客さんがおられて。わたしは、あるお野菜で作ることに喜びを感じます。スーパーに行くとあれもこれも買ってしまう。スープは、農家さんが持ってきたものだけで集中して作ろうと思いました。買い物に時間をかけるのではなく、スープを作るのにじっくり時間をかける。大根を大きく切ったり、細かく線切りにしたり。考えることにも時間をかける。
そう心からそう思った時、急に車の運転ができなくなったんです。ある時、笹刈りをしていたら自分が腐葉土になってしまいそうな感覚になったんです。その直後、イベント用に作るスープの買い出しに車で出かけました。そうしたら運転がとてもつらくなり、コンビニに車を止めました。それで、すぐにマスターに連絡して迎えに来てもらいました。

香苗さん
運転ができなくなった。

かずぅ
はじめは車に乗ることって、わたしにとって死ぬんじゃないかと思うくらいなことでした。でも田舎暮らしは車が必要で、苦手だけど運転していました。森に来て意識が変わってきて、運転していたら息苦しくなって体が動かなくなった。これは「森にこもっていいよ」ってことだなと思って... 車の運転をやめました。

香苗さん
かずぅは、そういう気質なのかな。これもあれもできない、これをしようと思ったら他ができないタイプなんじゃないかな。幼い時はどんな子だった?

かずぅ
昔は眼鏡をかけていてあられちゃんみたいだった(笑)登校拒否の子を迎えに行ったり、いじめられても鼻歌歌ったりして、もっといじめられたり、そういう感じの子でした。

香苗さん
皆と一緒でなくて自分のものさしをもっていますね。お父さんとの関係は素敵でしたね。

かずぅ
ありがとうございます。母の方は、口うるさくて... ずっと反面教師だと思っていました。悔しいけど最近似てきたなあって思ってます。母は2011年に亡くなったんですけど、死に目には会えないと思っていました。ところが、病気が分かったら、娘のもとに行きたいと言って鳥取に来てくれたんです。大雪のお正月でした。そして、こっちに来て10日目で亡くなりました。母には最高のプレゼントと宿題をもらいました。看取れてよかったです。

香苗さん
親孝行できて、子供としては幸せよね。お母さまは、まじめでしっかりした方で、これもしてあれもしてはできない。かずぅもこっちを選んだらあっちはできない。それがいい結果として、地元の生産者からの野菜を買って、それがスープになっている。そういうのは自分の流儀なんでしょうね。

かずぅ
農家さんには「お野菜がなくなったら閉店です」と言っています(笑)わたしは今畑にあるもので作ることに喜びを感じます。

香苗さん
お母さま、お父さまの影響があって、自分がやっていることはだいたい親がやっていることだったりしますよね。

かずぅ
やってることは同じです。親は亡くなってからも影響力がありますね。わたしは17歳と18歳の子供がいます。何か教えてあげることはできないけど、今自分がやっていることを見てもらうことはできるかな...と。

香苗さん
きっと言葉よりも影響力がありますよね。

かずぅ
父は、母が亡くなってから酒に溺れて、どうしてこうなったんだろうと思っていました。でも亡くなってから、父の生きぬいた姿はすばらしかったなぁと思ったんです。入院中は、手や腰をベルトで固定されていました。それを見て自分はそうなりたくはないと思いました。そして森に帰ってから、たくさんの種を植えました。びわやりんご、いろんなハーブ。両親からもらった宿題...。これから森の薬草を使っていろんなことを実践していきたい。今、実践中です。

香苗さん
一見すると、森の中にスープがある物語があって、絵に描いたような理想があるんだけど、止むに止まれないことがあったり、知り合いの農家さんの野菜があって、1つ1つに出会いがあって成り立っているんだなぁと思いました。今日のスープも盛り沢山ですね。蜂蜜も作ってらっしゃる?

かずぅ
昨年から日本みつばちを飼っています。近くの方から群れを分けてもらって、養蜂家見習いでやっています。

香苗さん
スープの中に、ものすごくいろんなものが入ってて、それはかずぅが必然というか、人生がたどり着いた先というか、それがスープに凝縮されていますね。

かずぅ
お野菜を混ぜているとバラバラしていたお野菜が手をつなぐ瞬間が分かるんです。昔、父が和恵の和に意味を込めたと言っていました。スープを作る時、輪っかのイメージがあって、そうなる瞬間を感じながら作っています。やっていることはいつもと変わらず、単純な作業です。お客さんに味は何味と聞かれますが、何味とも説明が難しいです。

香苗さん
融合した瞬間が感覚的に分かる。

かずぅ
朝の味見の時は森に出て、全神経を集中させます。「よし」と思える時もあれば、思えない時もあり、その時は何度も何度も味見を繰り返します。できあがったものは、何かが飛び出ていない、みんなが輪っかになったもの。美味しいという感覚とは違います。自分の全神経を集中させないと融合したかは分かりません。自分との日々の向き合い。それにお客さんを付き合わせているような感じもしますが...。自分だけだとやってることが分からないけど、お客さんが来て喜んでくださる。良かったなぁと思います。

香苗さん
森のスープ屋さんの時(ランチ)は宣伝してないのに、どんどん口コミが広がり、かぎつけるようにして人が来られて見えない形で人を引き付けていました。それも時代なんでしょう。本物に出会うのには必然があって、スープ屋さんには行きたくても行けない人もいる。私が行った時はなんとも言えない体験をしました。お店に入って、スープを飲んでから帰るまでの間に、自分の中で切り替わりがあって、何か残るものがあるというか...。

かずぅ
森に来てから、体と心のいらないものがどんどんそぎ落とされていくような時があるんですけど、その時森の浄化力がすごくて、ついていけなかったんです。だけども、それに委ねることにことにしたら、楽になりました。弱々しくもこの体とお付き合いしながら何とか生きています。

香苗さん
皆さん集中して聞いていらっしゃいますね。おはなしに聞き入ってしまいますよね。夢の世界を提供している人は、よく言うんですけど、水面下では泳ぐためにバタバタしている水鳥のよう、表面ではきれいに泳いでいるけど下では一生懸命水をかいているんです。だから、すがすがしくて、夢のようなエッセンスを提供できると思うんですよ。

それでは、ここで休憩タイムに入りたいと思います。

つづく


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?