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救急外来ドリル

“俺が来るまでよく堪えた 後は任せろ”(鬼滅の刃 第42話:後ろ)

救急外来ってなんだか緊張しますよね.医師や看護師,事務が忙しなく行動し,複数のモニターのアラーム音,そこに救急要請の電話や患者,家族からの怒号….居心地のよい場所とは思えないでしょう.

救急外来で皆さんが恐れていることはなんでしょうか? 何か重大な疾患を見落としているのではないか,本当に帰して大丈夫なのだろうか,誰もが考えると思います.私も救急医となり10年以上が経過しましたが,毎日のように悩んでいます.

診断エラーは,「患者の健康問題について正確で適時な解釈が為されないこと,もしくは,その説明が患者に為されないこと」と定義され,①診断の見逃し(missed diagnosis),②診断の間違い(wrong diagnosis),③診断の遅れ(delayed diagnosis)の3つに分類されます.救急外来では,患者さんが病状の早期に訪れること,病歴や身体所見が取りづらい場合があること,さらには冒頭のような環境の問題などから,一般の外来と比較するとエラーが起こりやすい場所といえます.見逃しをゼロにすることは難しいですが,可能な限り少なくするために,時間を味方につけ患者さんに不利益が生じないように介入する必要があります.また,急性心筋梗塞,大動脈解離,くも膜下出血などは,初診時に診断できなければなりませんが,虫垂炎や片頭痛,帯状疱疹などは,症状に対する介入は必要であっても,その場で確定診断できるとは限らず,その後の経過を確認し診断します.定義にある通り,病状説明が患者さんにきちんと為され,介入が遅れないよう対応できれば,それは問題ありません.

診断エラーを回避するためには,知識よりもさまざまな認知バイアス(本書のコラム参照)やシステムの問題が影響するといわれますが,最低限の知識は必要ですよね.最近ではスマホ1つでなんでも調べられますが,皆が陥りやすいピットフォールを楽しく学ぶことができるものはパッと思いつきません.本書は救急外来で頻度の高い,そして皆さんが苦手としている症候をドリル形式で綴ったものです.救急外来診療を擬似体験し本番に臨むもよし,診療の合間に解いて知識を整理するもよし,診療後に振り返りとして使用するもよし,ぜひぜひ有効活用してください.

冒頭の言葉は,映画の国内興行収入が400億円に到達という凄まじい記録をつくった「鬼滅の刃」から,冨岡義勇の台詞.この一言を自身が上級医から言ってもらうことができるよう,本書を読み解き救急外来業務を乗り切りましょう! 私もこの一言を皆さんに言うことができるよう努力します.

出典:「救急外来ドリル」(坂本 壮/編)羊土社,2021


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