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『アンサーソング』という作曲アプローチ

今日は、楽曲制作の助けになるかもしれない、アンサーソングという作曲アプローチについて書いてみます。

アンサーソングとは

ある曲に対して応える形で書かれた曲というのが一般的な認識だと思います。ただこれは聴く人、歌う人目線の話し。作ってる立場からだと、テーマに方向性を与え具体的な言葉や音まで短時間で落とし込む手法です。

例えばテーマが『月』の場合、まずは膨大なインプットの中から月にまつわるものを思い出しては曲に出来そうだなとかエピソードが足りないとか、探りながら曲の方向性を決めていくと思います。曲先行なら、月をイメージする音色や旋律を探ることから始めるかと思います。
いずれも砂漠でオアシスを探すかの如く漠然としててどの方向に進んだら良いかさえ分かりません。

こんな時は『月』が入ってる好きな曲のアンサーソングを考えてみます。
すると歌詞でも音色でも基準を設けたことで迷うことが大幅に減ります。あとは同じ方向に進むも良し、真反対に進むも良し、自分のセンスで肉付けしていくのみです。

元曲を決めた後のことは例を挙げてみます。

ジョニィへの伝言/五番街のマリーへ

アンサーソングと言われて真っ先に思い浮かぶのがこの曲。
リアルタイムの記憶は無いものの、カラオケで刷り込まれ歌えたりもします。
どちらもペドロ&カプリシャスさんの曲。情緒があって高橋真梨子さんの声が染み入ってくる素敵な曲です。

想いはあったが別々の道を選んだ男女の物語が対になってます。組曲ともいえます。
二人とも友達を頼らず自分で行動してたら違ってたんじゃない?ってツッコミ入れときます。

作曲に話を戻します。
ジョニィへの伝言が1973年3月、五番街のマリーへが同年10月と続けてリリースされました。作詞は2曲とも阿久悠さんで、マーケティング的な部分も狙って書かれたことでしょう。
単体でも素敵な曲が、対にしたことでドラマ性に相乗効果が生まれ、長く愛され続ける要因になったのだろうと思います。

歌詞の場合、『問いかけ(メッセージ)に対する回答』と『物語の続き』の2つのアプローチが考えられます。五番街のマリーへは後者ですね。

この2曲は同じ作家さんですが、他人が書いたものに自分が返事をする、自分が続きを書く、というアプローチも全然ありです。感銘を受けた曲ならより作りやすいと思います。

マデオン(Madeon)/ 中田ヤスタカ

こちらは、元曲に対し音楽的アプローチで応えるパターンです。
中田ヤスタカさんがインタビューでアンサーソングと明言されてるので、Finelを受けてのCosmicExplorerとなってます。

マデオン(Madeon)君(敬意をもって君づけで呼ばせて頂いてます)と中田ヤスタカさんは交流があるので、まるで音楽で会話してるみたい『僕ならこうヤルよ』という声が聴こえてきそうです。私とは別次元の方々です。

会話とまでいかずとも、『この音色を自分ならこう料理する』みたいに思うことはないでしょうか。音色に限らずリフやフレーズ、コード進行などもアリだと思います。
曲先行ならゼロから作るよりも『元曲』という物差しのお陰で、はるかに作りやすいと思います。
好きな曲をコピーすることがれば、もう一歩踏み込んでアンサーソングを書いてみるといい鍛錬になります。

せっかく名前を出したので、マデオン君をご紹介。
彼はフランスのエレクトロ・ダンスミュージックのアーティスト。彼を語るうえで外せないのがこの動画。コレ見てファンになった方も多いハズ。私もその一人です。
マデオン君は中田さんの大ファンで影響を受けたと明言している通り、彼の曲に中田節を感じることが出来ます。中田ヤスタカさんを聴く方はぜひチェックを。


DON'T TRUST ANYONE OVER 30 / オレンジミント

最後は、どこにも明言されてない私の思い込みによるアンサーソングです。これがアンサーソングだったら素敵だな~と思うので紹介させて下さい。

DON'T TRUST ANYONE OVER 30 は、1986年に発表されたムーンライダーズさんの10周年記念アルバムに収められてるタイトル曲。『30以上を信じるな』って、ボブ・ディランさんの言葉らしいです。

僕はいなくなると愛する人達に告げる男、最後はひとり夜の線路に座り込む・・・。
何が彼をそうさせたのか全く描かれず結論が聴き手にゆだねられてます。大御所が書く詞は難解です。ただ【虚無感】は感じ取れると思います。


このアンサーだと思うのがオレンジミント。
アニメ物語シリーズに登場する式神童女、斧乃木余接(おののきよつぎ cv.早見沙織さん)のキャラソンです。

作詞 meg rockさん、作曲・編曲 ミト(クラムボン)さんによる作品。親しみやすく可愛い曲調のポップスでキャラクターのイメージに良く合ってます。
ただ可愛いだけじゃなく、こちらも【虚無感】を感じる歌詞になってます。

ここからはアンサーソングではないかと思うに至ったポイントを挙げてみます。

初めは、イントロや間奏にスキャットが入ってるとことか、Bメロで物語が動き出す感じとか、サビのコード進行とか、編曲面でこの2曲作りが似てるとぼんやり思うだけでした。

元曲の序盤にこんな歌詞があります。

いつか贈るよ小さな手袋
君はわがままをそれで包み込め
一生今のパパの気持ちが
わからなくてもいいから

オレンジミントの主人公は、この手袋を贈られた子供じゃないか?
こう思ったが最後、もうこの子の後日譚としか思えなくなりました。

オレンジミントのサビ前の歌詞。

Bメロ

あの流れ星 願いをのせて
目指していた未来も全部
わからなくなってゆく

Cメロ

ああ 僕たちはこんな風に
今日をやりすごす
ああ 矛盾だらけなんだけど
今夜はおやすみ

この子は、日々の出来事に非力な自分を感じながら、やり過ごすことで乗り越えてます。似たような虚無感を描きながらも、こちらは希望も描かれてます。
Bメロの太字にしてる歌詞は、曲が進むにつれ変わります。

目指していた未来は遠く
見失いがちだけど

目指している未来にちょっと
近づいているのかな

細やかながら良い方に向かってる兆しが読み取れます。
それはなぜか?

ああ 僕たちは・・・

この子には虚無感を共有できる人がいるからに違いありません。

パパが孤独を選んだ理由も気持ちもわからないけど、僕には虚無も分かちあえる人がいるから乗り越えられるよ

この虚無の中に見える【希望】が素敵です。物語の続きであり、回答でもあり、アレンジも寄せてある。なんと綺麗なアンサーだろうと思た次第です。


ミックスの時にリファレンスを設けるような感覚で、曲の構想を練る物差しとしてアンサーソングはおすすめです。単に参考にするのと違うのは、自分なりの回答が必ず曲に乗る点。「パクリじゃね」と言われても「オリジナルソング」ですと胸張って言えます。

アンサーであることを明言する義務も必要もまったくないので、大いに参考にさせてもらい、思いを曲に乗せましょう。

ではまた、enjoy♪

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