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ワイヤレスでもワイヤードでも使える業務用イヤホン

色々な方がレビュー動画やレビュー記事を投稿しているのでご存知の方も多いと思われるイヤホン、SENNHEISER "IE 100 PRO BT BUNDLE"。ざっくり説明すると、かのSENNHEISERがリリースする「プロフェショナル向けイヤホンシリーズのBluetooth対応モデル」。ゼンハイザージャパンさんに使う機会を頂いたので、感謝の意を込めてレビュー記事を書かせて頂こうと思います。

iPhone 12 miniの弊害。 無い! 穴が、無い!

"IE 100 PRO BT BUNDLE"、いきなり我が家に届いたわけではありません。

いきなり届いたらそれはそれで嬉しいのですがそんなことはなく(苦笑)、僕の手元に届いたいきさつというものがあります。きちんと。

僕はすでにリリースされていたSENNHEISER "IE 40 PRO"というモデルを愛用しているのです。この"IE 40 PRO"、なかなか使い勝手がよく。

脚色されていないモニターライクな音質、耳にフィットして外れにくいフック形状。レコーディング現場では使いませんでしたが、移動中のリスニングやオンラインミーティングでは愛用しているイヤホンです。

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イヤホンもヘッドホンも仕事柄好きです。しかし、正直なところイヤホンをいくつも持ちたくはない訳です。荷物も増えます。少ないに越したことはない。何より僕はすぐ失くします。あんな小さいもの失くすに決まってるじゃないですか。なんで世の中の人がAir Podsを失くさないのか理解に苦しみます(笑)。

ということで、1機種でオールラウンドに使えるイヤホンを求めているのですが、市販のイヤホンはオーディオ的脚色のあるものが多く、パッと聴き音はよくても疲れる、音のチェックには使えない、など、「このイヤホンだけ持っていればだいたいイケる」というイヤホンにはなかな出会えませんでした。

そこに現れたのが"IE 40 PRO"でした。音がですね、ちょうど良いのです。脚色が少なく原音に忠実であり、遮音性が高く汎用性が高い。そんなイヤホンが"IE 40 PRO"でした。

しかし!

この"IE 40 PRO"の今後を脅かす事態が発生します。ワタクシ、iPhone 6Sを大事に使っていたのですが、iPhone 12 miniに買い換えることになったのです。

イエス。
穴が無いんですよ、iPhone 12 mini。ステレオミニフォン端子が無いのです。

Lightning - ステレオミニフォンアダプターを使えば良いのですが、このアダプター、いかにも音が悪そうですよね。。。だって、Lightning接続っていうことはデジタル出力でしょうから、この小さなアダプターの中でDA(デジタルからアナログへ変換)しているということ、、、ですよね。しかもヘッドホンアンプは非搭載でしょうから、デジタルの状態の時に音量は小さくなっていて、小さい状態でDAしているのではないかな、、、と。まとめると、僕はこのアダプター使いたくないという話です。
(※気になる人は調べてみて下さい)

"IE 40 PRO"、おさらばか、、、、と思ったところにゼンハイザージャパンさんから天の声。

「ワイヤレス、出るんですよ、IE。」

おおおおお!
「渡りに舟」とはきっとこういうこと!?素晴らしいタイミンですよゼンハイザーさん。


僕が渡る前に諦めようとしていたことはさておき、ゼンハイザージャパンさんのご厚意で"IE 100 PRO BT BUNDLE"というモデルをお借りできたので、ここにレビューを記そうと思います。下位モデル同様に使うことができるのか、特にBluetooth音質や使い勝手に興味津々です。

驚くほどに簡単にワイヤレス化。十分使える高音質。

届いてみるとなるほど納得、箱が2つセットになっています。"BUNDLE"とはこういうことなのですね。"IE 100 PRO"というイヤホンと、"IE PRO BT CONNECTOR"という(たぶん)Bluetooth化するコネクター?アダプター?のセットのようです。

まずはIE 100 PEOのパッケージを開封。程よい高級感を醸し出すパッケージに好感が持てます。スルスルとパッケージからIE 100 PROを取り外し、取り外し。なるほど、IE 100 PROというのはワイヤード(有線)のイヤホンなのですね。理解。

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普通のレビューならここで付属品とか紹介するんでしょうが、僕はとりあえずワイヤレスでどんな音になるのか、今すぐ聴いてみたいのです。

ということで"IE 100 PRO"の音も聞かずに"IE PRO BT CONNECTOR"開封の儀へ。開けてみるとなるほど、巷でよく見る再生コントローラー的なものと、IEシリーズのぐにゃっとよく曲がる耳掛けグースネック部分が姿を現しました。

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なるほど!付け替える、、、ということですね?
ここは男子の性、まずは分解です。この感じならグイッとやったら外れるんで、、、、しょう!

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外れなくて壊したら弁償だなとの思いが過りましたが、壊さずにユニット部を取り外すことができました。はい、簡単です。写真の通りイヤーパッド部分も交換可能です。

取り外したら"IE PRO BT CONNECTOR"を取り付けます。ユニット側の端子先端部を折らないように気をつけて"IE PRO BT CONNECTOR"側に差し込みます。

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電源をONにするには、、、、リモコンの[・]ボタンを3秒長押し。するとイヤホンから"Power on"と流暢な英語が聞こえ、電源が入ったことがわかります。説明書がわかりやすくて良い感じです。IKEAの家具を思い出しました。

続いてiPhone 12 miniのBluetoothをオンに。設定>Bluetoothをオンにすると[IE PRO BT Module]というのが表示されました。タップすれば接続(ペアリング)完了です。さぁ聴いてみましょう。ワクワク。

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はっきり言って、ミキシング済音源のチェックに使っても全く問題ないレベルです。もちろんIE 100 PRO BT BUNDLEだけでチェックを終わらせることはできませんが、「低音の出方」や「各楽器のバランス」といった基本的なチェックはBluetooth接続のままでも可能なレベルです。例えば、音楽を聴いていて非圧縮wav音源と圧縮mp3音源の聞き分けは可能です。YouTubeを見ていても音が良い動画と音が悪い動画の判別はすぐにできました。

手前味噌で恐縮ですがやっぱり自分が手掛けた音源でチェックしてみました。この作品↑は岡本太郎記念館のアトリエ、サックス"ソロ"という貴重なライブなので空気感を強調した仕上がり。この空気の感じもBluetooth化した"IE 100 PRO"で十分聞き取ることが出来ました。

高槻で録音したNANIWA EXPのライブ↑も。実はこのDVDでは後ろ数曲は僕が手掛けたものではなく別の場所で録音されているのですが、会場による音の違いもバッチリ聞き取れました。

パソコンで使っても同様。接続も簡単で、他のBluetoothデバイスを使っていても切り替えながら使えます。僕のスタジオではTASCAM VL-S3BTというBluetooth対応スピーカーを使っているのですが、以下のように並んで表示されるので、使いたい方を選ぶということになります。

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詳細な音質レビューは他のオーディオレビュワーの皆様の方が素晴らしい単語表現をお持ちだと思うのでおまかせしますが、僕の言葉で表現すると脚色がなくワイドレンジ、「判断ができるクオリティの音」です。高域は無理に伸ばされた感じではなく自然に落ちていくカーブが感じられます。無理していない、自然な音です。故に長時間聴いていても疲れることはなく、気がついたら色々な音源や動画を1時間ほど聴いてしまいました。

届いてそのまま1時間。それはつまり電池が充電されていたことを示しています。充電された状態で出荷しているSENNHEISERさん、さすがです。ちなみに充電はリモコン部にUSB-Cコネクターを挿してUSB充電です。写真↓のUSB-A to USB-C変換のケーブルは付属していました。

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コーデックがワイヤレス音質を左右する?

普通に生きていく上でオーディオの線をよじると音が良くなる的なオハナシを知っておく必要は無いと思いますが、昨今はBluetoothのことをちょっと知っておくと役に立つ、かもしれません。Bluetoothだから音がいい、という訳ではないのです。

Bluetoothは2.4GHz帯の無線信号を使って様々な信号を送受信する規格で、その中のひとつとしてオーディオ伝送のA2DP(Advanced Audio Distribution Profile)という規格(プロファイル)があります。音系のプロファイルだけでも様々なものがありますが、オーディオ品質と呼べるのはこのA2DPだと言えるでしょう。

話をややこしくするのが、このA2DPというプロファイルの中にどうやって音声信号を載せるかということ。オーディオ信号を箱に詰めてA2DPというトラックに載せるようなものですが、箱への詰め方で大きく音が変わります。この箱をコーデックと呼びます。

オーディオ用途の場合ヘッドホン等の機器がA2DPプロファイルに対応しているのは当然のこととして、どのコーデックに対応しているかというのが非常に重要です。ざっくり僕の基準で言えばAACかAptX系コーデックへの対応が必須と考えています。この2種類は高音質コーデックと言って問題ないでしょう。過去にコーデックごとの試聴比較をした時はAptXが最も音質がよく、レートを上げれば聞き分けられないという結論でした。

ま、(オーディオはなんでもそうですが)コーデックだけで音質が決まる訳ではなく、その周囲のパーツやイヤホンのユニット、ケーブルなど様々なものの組み合わせで音は決まります。音が良いパーツや仕組みというのは総じて高価であり、AptXも使うメーカーはライセンス料を払う必要があります。つまり、「〜だから音がいい!」ということは断言できませんが、こういう部分にお金を払う製品、メーカーはコストをかけてでも音を良くしようとしている、つまり音に気を使っていると考えることはできるかなと思っています。

"IE 100 PRO BT BUNDLE"のBT CONNECTORは"A2DP"プロファイル、コーデックは"SBC","AAC","AptX","AptX Low Latency"コーデックに対応しているとのことです。

ワイヤレスで接続してみて音が悪い?と思ったらどのコーデックで接続されているかチェックしてみましょう。ざっくり言えばSBCで接続されていると音が悪いということです。Bluetooth化した"IE 100 PRO"でも比較試聴してみましたが、SBCの場合は高域、シンバルなど金物がザラザラしてきます。

Macの場合は[option]キーを押しながらメニューバーの[Bluetoothマーク]をクリックすると、使用しているコーデックを表示することができます。

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ご覧の通り[有効なコーデック:aptX]となっています。ここがSBCになっていると、SBCで接続されています。普通は何もしなくてもAACで接続されるので特に気にする必要は無いと思います。僕はAptXの方が好きなので、[Bluetooth Explorer]というアプリを用いて無理やりAptX優先で使うように設定しています。

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この辺りは詳しい方がたくさんいるので、興味があればぜひ調べてみて下さい。僕は以下のサイトを参考にさせていただきました。

もちろんワイヤードにもなる

この"IE 100 PRO BT BUNDLE"の良いところはワイヤレスにもワイヤードにもなるというところでしょう。

ワイヤレスがいい、音質がワイヤードと比較して遜色ないとわかっていてもワイヤードの方が音がいい、確実と思ってしまうのが人間というものです。

いや、若い人はそうでもないのかもしれません。しかし少なくとも我々のようなカセットテープの時代から来たオジサン属の中にはワイヤレスを100%信用していない人がいることも事実でしょう。いや、事実であってほしい(笑)。

つまり、「たまにワイヤードにしたくなる」ということです。

"IE 100 PRO"の場合は付けかえてBluetoothにしたくらいですから、当然ワイヤードでも使用可能。ケーブルをもとに戻せばワイヤードになります。ステージ上でのモニター用途や無線・インカム用途など、送信側がBluetooth対応していないシチュエーションも多々あるでしょう。そんな時はケーブルを付け替えればOKです。

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ポーチがついているので、ここに一緒にしまっておけば失くさないでしょう。僕はこれでも失くしてしまうかもしれませんが、、、気をつけます(苦笑)。

気になるワイヤードとワイヤレスの音質差は、、、あります。ワイヤード聴いちゃうとワイヤードがいいなとは思ってしまいます。iPhone 12 miniだと比較しようがないのでMacBook Proでの音源再生で比較したのですが、ワイヤードの方がだいぶ高域がよく出ている印象です。当然と言えば当然ですが。

しかしよく考えるとワイヤードの時とワイヤレスの時ってDA(デジタルからアナログに変換)する場所が違うんですよね。ワイヤードの場合はMacBook Proだし、Bluetoothの場合はBluetooth CONNECTORのユニット内。かなり条件に違いがある、どう考えてもMacBook Pro本体の方が有利なので、単純にワイヤレスだから音が悪いというものでも無いでしょう。

基本的な音質はSENNHISERさんのシングル・ダイナミック・ドライバー搭載のユニット本体で決まっていますので、基本的な音質に問題がなければケーブルを持ち運んで音質が特に気になるシチュエーションではワイヤードに切り替えて使うのが良さそうです。

冒頭でLightning - ステレオミニフォンアダプターが嫌いと書いたのですが、DA回路のサイズを考えるとBluetooth CONNECTOR内もなかなかの小ささ。このサイズで実用上問題ない音質が出ているということは、最近は小型DA回路が発達したのかもしれません。Lightning - ステレオミニフォンアダプターとの聴き比べも面白そうですね。ぜひ誰かやってみて下さい。

IEシリーズ共通のコネクター部

そうそう、このワイヤードのケーブル、というかイヤホンユニットへのコネクター部分について。

コネクター部分はSENNHEISER専用のコネクターと見受けられます。つまり自作は結構難しそう。オーディオ用途ではケーブルを換装するリケーブルが流行りですが、"IE 100 PRO"はリケーブル非対応です。このあたりが業務用っぽいなと感じました。

しかし!

このコネクター部は僕の持っている"IE 40 PRO"は下位機種ですが、見たところ同じコネクターに、、、見えませんか?

ということで、、、、やってみよう!

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撃沈、、、、(笑)。
"IE 40 PRO"と"IE 100 PRO"は外から見ると同じコネクターですが、中が異なっていました。残念ながら挿さりません。"IE 40 PRO"Bluetooth化計画は断念です。まぁそもそも"IE 100 PRO"があるなら"IE 40 PRO"をBluetooth化する必要も無いのですが、、、(苦笑)。

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しかしパッケージの表記によると、"IE 100 PRO"より上位の"IE 400 PRO"及び"IE 500 PRO"はコネクターが共通だそう。つまりこの上位2機種に買い換えることがあれば"IE PRO BT CONNECTOR"はそのまま使えるということです。素晴らしい。こういった共通化はユーザー的にもありがたいものです。

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さて、"IE 100 PRO BT BUNDLE"ご紹介してきましたがいかがだったでしょうか。音仕事の人はオーディオ品質のものだと音が脚色されて耳に合わないという人も多いのでは。そういう方にとってこのイヤホンはとても良さそうです。ぜひ試聴してみて下さい。

何よりワイヤレスというのはワイヤレスにする前は色々と抵抗があるものですが、一度使ってしまうと手放せません。難癖つけてワイヤレス化を避けていたのはもう過去の話。ギターとマイクのケーブル以外はいずれワイヤレス化すると思っていますので、ワイヤレスが嫌いな方もまずイヤホンくらいはワイヤレスに慣れておいても良いのではないでしょうか。

現段階ではアジア太平洋地域の先行販売、色も赤のみ、BTバンドルのみといろいろ制限がかかっていますが、それぞれバラ売りできるような構造には見えますので、今後に期待です。

とりあえずIE 500 PROが結構なお値段なのですが、どんな音がするのか気になってしまっているのは内緒です。まずはIE 100 PROを使い倒してからです。使い倒してから、、、、!




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