見出し画像

木造防音設計おさらい「音楽防音室」

前回に引き続き、木造の防音設計おさらいですが、今回は「音楽防音室」です。
戸外の騒音対策を主な目的とする生活防音に比べて、音楽防音室は、近所や家族に迷惑をかけないように防音対策を行う点が異なります。
音源が室内であり、音の拡散を抑えつつ、音楽演奏や作曲等作業中にできる限り耳が疲れないように音響調整を行う必要があります。

壁内の断熱材については、前回の生活防音と同様ですので参考にしてください。※前回の投稿記事:木造防音設計(新築住宅)
音響調整については、音楽防音室とPC音楽作業室では床仕上げ・下地構造が異なりますが、用途に応じて防音工事とDIY対策を組合せて対処します。
天井・壁の防音については、間取りや近所の家屋との距離によって、演奏時間・使用時間に応じて二重構造を採用することが基本となります。

木造の音楽防音室

ここでは、主にグランドピアノ、チェロ、ヴァイオリン、金管楽器を対象とした木造音楽防音室の防音設計・工法及び業界の概況について述べます。
今までの投稿内容と重複しますが、補足事項を含めて振り返ります。質問のある方は、コメント欄または「お知らせブログ」の問合せページでご連絡いただければ、出来る範囲でお答えします。
*防音職人の事務連絡:お知らせブログ

今月(8月)のちょうど夏休み明け頃に、電話で「いくらネットで探しても、具体的な木造防音室の解説事例が見つからないので、現在、工務店に依頼している防音リフォームが正しいのか判断できません。いくつか質問させてください。」という内容で聞かれました。

これは、他の記事でも説明しましたが、大半の専門業者がコンクリート構造のスタジオ防音室を主な事業対象としていることと、業界において木造防音室の設計マニュアルが存在しないことと関係しています。
*大手防音材メーカーの施工要領そのものが間違っているぐらいですから、メーカーでさえ正しい設計マニュアルを持っていないということだと思います。私が知る限り約30年間、設計マニュアルを作成して来なかったという事実を裏付けるものです。

では、最も質問の多い木造防音室の工法について触れます。
ピアノ・チェロ・マリンバ・ドラムなど床に強いインパクトを与えて、固体音が共振拡散する楽器防音室の場合は、最適な工法は2つしかありません。

木造軸組在来工法
床下空間の換気と大引等の軸組によって構成し、床面を支える工法です。
通常、外壁は通気胴縁使用し、床下と合わせて軸組・躯体の通気を確保しながら建物を構成する伝統的な工法です。ピアノ室の音響には最も相性の良い施工です。防音構造は基本的に通気・換気部分と区分して内装側において構築します。断熱材は床下と外壁内部に入れますので、内装部分にも防湿層を造ります。
*防音壁は、特に厳重に対策する面には二重構造として施工します。
*床には大引および床下地合板の剛性補強と合わせて制振(防振)対策を施し、強い振動等のインパクトを抑えながら音響に配慮します。
*床と防音壁の接点(取合い部)は共振しないように工夫します。

ベタ基礎面に軸組を構築する工法
この工法は、木造軸組在来工法だけでなく、ツーバイ工法にも適用できます。コンクリート面に防湿層を形成して、このうえに直接床の軸組を施工します。防音壁と床の対策については、上記の在来工法と同様です。
ただし、床の軸組内部には湿気に強い耐久性のある吸音材を充填することが必要です。通常のグラスウールやロックウール製品は、通気が確保できない状態において、耐久性の面でやや難があるため、吸音材選定には注意が必要です。音響調整を含めて施工要領に注意事項が多いため、専門業者の選定を慎重に行ってください。
*音響の最適化は、施工後に家具配置などで調整は可能です。

なお、床の施工は、やり直しすると防音構造を解体して、基本的に造り直しになるため、計画時に音響や床の剛性・耐久性など総合的に判断してください。特にピアノは床構造に左右される楽器ですので、ご留意ください。

防音相談の人工知能導入は可能なのか?
余談になりますが、AI技術が進化し、色々なサイトなどプラットフォームにおいて、チャット形式でAIが質問に答えてくれるシステムが構築され、開発されています。
一般的なアドバイスなら、既往の事例などを含めて学習させれば、防音相談に活用できると思います。(CHATGPTの活用など)
ただし、木造の場合は、考慮すべき要素が多岐にわたり、構造的な特徴によって防音効果が異なるため、防音設計の詳細について回答させることは、かなり難しいでしょう。また、音響は経験則や個人差があるので、施主(依頼者)の提供する情報分析が重要になります。

ですが、設計・施工上のリスクに関するアドバイスなら、既往の事例を学習することによって可能になると思います。新しいツールの開発やプラットフォームに期待したいですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?