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楽器の周波数特性と防音材

木造の音楽防音室を設計施工するためには、仕様を含めた計画書と詳細な設計図が必要です。
これらを作成するためには、適切な防音構造を構成する建築資材及び防音材の選定と工法を含めた施工要領がセットになる実績資料と経験則が重要になります。

通常、標準仕様と呼ばれる音楽室の防音設計を行う場合は、グランドピアノを想定した音響と遮音性能を検討します。それは、ピアノの主成分となる音域(周波数特性)が低周波から約4200Hzにわたる幅広い周波数帯をカバーしているからです。
弱点のある偏った防音構造では対処出来ない楽器であるため、この楽器の音響・防音対策を標準仕様とすることによって、大半の楽器演奏に対応できることになります。
もちろん、楽器特有の音響を考慮して、使用する表層材や天井高など個別の調整事項があり、最適化を図るための備えが必要です。

防音材はそのための要ですが、木造や木材・木製品と相性が良いことが求められます。単純な単体ごとの遮音性能だけでは判断できません。

遮音パネルの弊害

昔から生産されている遮音パネルで最も注意すべき製品は鉛の遮音パネルです。※鉛の遮音パネルの欠陥事例
特に木造のピアノ防音室で使用すると、音響が悪化するだけでなく、防音効果も不十分となる場合があります。

一般的に遮音パネルは製品の特性だけでなく工法そのものに弱点があります。木造防音室の設計が得意な専門家は、遮音パネルを使用しませんので、比較的分かりやすい判断材料と言えると思います。
仕様書や見積書の中に「遮音パネル・鉛シート」という表示があれば、防音設計の専門家ではないことを示しています。

音楽室の防音工事は、大半が現場で調整しながら施工するタイプの資材を使いますので、パネルのような工法はボックス型防音室以外では採用しません。防音材は使用する楽器の周波数特性にマッチする製品を選ぶべきです。

遮音設計の計算式は現場と乖離する

専門業者が使用する遮音設計の計算式には、資材の面密度と厚さしか考慮されておらず、素材の吸音性・制振性能を無視しています。
また、遮音材のコインシデンスを考慮していないため、製品とは異なる右肩上がりの透過損失をモデルとして計算しますので、実際の遮音性能とは異なります。

このため、一般の専門業者は、必要以上に分厚い防音構造を設計して施工するため、狭い音楽室では楽器が置けないような空間になります。
費用対効果が低くなるだけでなく、木造への過荷重となり構造的な負担が大きくなります。
防音材は木造・木材・木製品と相性の良い製品を使用して、正しい設計を行えば、比較的薄い防音構造で音楽防音室を構築できます。

机上理論や製品ごとの性能は補正する必要がある

現場ごとの間取りなどの特徴や周辺環境、建物構造など建築条件・特性を総合的に判断して設計する必要があり、机上理論を必ず経験則や実例の防音効果を踏まえて補正することが重要です。

万能な防音材は存在しませんので、必ず複数の資材を組合せて補完したり、相乗効果が出るように工夫して設計仕様・施工要領を計画します。
遮音材には弱点がありますので、周波数特性を考慮して組み合わせることが一般的な設計です。※参考:遮音材のコインシデンス

防音工事にとって、防音計画書の作成段階が最も重要であり、机上理論や製品ごとの性能を補正するための概要を頭に入れて作成する必要があります。

防音相談の段階において、施主(依頼者)はできる限り具体的な情報・資料を専門家に提供することが、より良い計画書づくりに繋がります。専門家を看板や知名度だけで判断しないように、じっくりと考え方を確かめてください。そして、一緒に良い音楽室を作るための努力を惜しまないようにしてください。

防音職人の役割

防音職人の主な役目は「防音計画書」と「防音施工説明書」の作成です。そして最適な防音材を選択して具体的な施工要領と設計仕様を現場に伝えることです。現場に張り付いて職人に指示することではありません。
*ただし、従来型の施工方法に問題がある場合は具体的な補正事項を説明し、現場担当の建築士又は監督に伝えます。これは防音設計担当者の仕事になります。

現場の指示は提携先又は新築現場を担当する建築士の仕事です。現場の担当者を信頼して「計画書・説明書」および「防音材」を託すのです。
現場で横から口出しをして、指揮系統を乱すと、担当する職人は迷います。
これは施工ミスを誘発するリスクがあるので、防音職人は役割分担を明確にして自分の為すべき仕事を確実に行うことを大事にしています。

建築のプロは、各自の役割を尊重して自分の仕事を実行するのが理想です。
テレワークの活用はその典型的スタイルの一つと言えると思います。
遠方の現場でも対応できます。

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