月の裏を夢みる

このくらいの季節、少し冷たくなった夜風に当たっていると聴きたくなる曲がある。

キリンジ『エイリアンズ』。
リリース直後より、数年経った頃のLiveの方が良い歌い方になっていると思うので、こちらを。
https://youtu.be/SGmSCtfMp8M

リリースされたのは、20年前のちょうど今頃。
よくラジオから流れていて、決まって聴くのは夜だったように記憶している。
その頃は新卒で入社した会社にいて、最寄駅から車で実家まで帰る日々だったから、カーラジオで聴いていたか、帰宅してから深夜ラジオで聴いていたのかもしれない。


改めて聴いたのは数年前。
クリスマスに恒例となった番組でカバーされていた。
10数年前、曲名もアーティスト名も知らず、ただ何となく耳に残るサウンドだと思って聴いていたこの曲を、きちんと歌詞をなぞりながら聴いたのはその時が初めてだった。

いま改めてオリジナルを聴き直してみると、メロディやコーラスが初期の頃のオフコースに似ている箇所がいくつもあって、だから惹かれるのだと気付いた。
歌詞のセンスは全く違うのだけれど。

この曲の、どこか退廃的で刹那的な雰囲気とメロウでちょっと不安定なサウンド。
“禁断の実“と謳ったり、自分たちを“エイリアン“に喩えることに、インモラルな関係性が見え隠れするように感じていた。

でも、それだけでは割り切れなくて、行き着くところは意図されたものとは別世界な気がしていて、解釈が違うのかもしれないとずっと思っていた。
先ほど色んな方々の解釈を読ませて貰い、人はどこまで行っても理解し合えない、究極的には孤独な存在でしかないのだという解釈がストンと入ってきて、もやもやしていたものがクリアになった。

全ての人間が「エイリアン」で分かり合えない孤独を抱えている。
それを分かりきった上でなお、「好きだ」「愛してる」と伝える逆説的な強かさ。
月の裏側は、誰にも見ることができない真実、“本人にしか分かりえない真意“のメタファー。
それでも、誰かと分かり合いたい、共有したいと渇望する。

許された関係性であっても、社会的には背徳とされる関係性であっても、“孤独“と“究極的には分かり合えない“ということには変わりはない。
この解決し得ない真理、割り切れなさを抱えながら、それでも誰かに分かって欲しい、分かりたいと“夢見る“、人間の矛盾と哀しさ。

「エイリアンズ」はそんな風に真理を突いているし、少し不穏な空気感を纏った歌詞に不思議な魅力を感じるのだと思う。

私はいまも夜風に当たりながら、この曲を聴いている。
月の裏がいつか見られることはないのだろうか、と密かに思いながら。

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